19.異世界に転生したら彼女とのイチャイチャ尽くしだった件③
「生徒会長ー!」
そう呼ぶと、人影がこっちへと目を向けた。
「ん? おお、荒川くんじゃないか。後ろにいるのは水谷さんかな?」
一人で来たつもりなのに、後ろをぴったりとマークされていたようだ。
「お久しぶりです、生徒会長さん」
「別に久しぶりって日数じゃないんだがな、こんにちは」
栞が挨拶を済ませたことを皮切りに、本題に入る。
「で、なんで地面に落ちたソフトサーブを見て絶望していたんですか?」
「あぁ、実はだな。さっきスリを捕まえたんだが」
「スリを捕まえた!?」
「すごくないですか!?」
二人で同時に驚いてしまった。
あっさりと話すようなことじゃないと思うんだが。表彰されていいくらいの偉業じゃない?
「別にすごくはないんだが、まぁその時にだな。追うのに夢中になりすぎて食べていたソフトサーブを放り投げてしまったんだよ。一つのことに集中しすぎるのはいかんな、やっぱり」
なるほど、おっちょこちょいとかではなかったんだな。ポンコツな一面を垣間見れると思っていたのに、生徒会長の株が爆上がりとなる結果となった。やはり侮れんな。
「あの、これもらってください」
そんな生徒会長へ、自分が持っていたMのソフトサーブを生徒会長に渡した。
「え、でも君のなのでは……」
「俺はこれがあるんで」
そう言って栞の持っているソフトサーブを指さした。そのためのLだ。
「なら、ありがたくいただくか……。ありがとう、荒川くん」
「じゃ、また学校で」
「あーちょっと待ってくれ!」
かっこよく去ろうとしたら、会長から呼び止められた。
「フォルトバーシュ城の穴場スポットの話、知ってるか?」
「聞かせてもらいましょうか」
「実はだな……」
会長曰く、そこは分かりにくい場所にあるため人も少なく静かに過ごせるのだそう。
「なるほど、確かに穴場ですね……」
「アイスのお礼だと思ってくれ」
「でもなんでそんなこと知ってるんですか?」
と栞が質問する。確かに会長のイメージには合わないな。まぁこの人はいつもイメージを超えてくるんだが。
「まぁ私も去年は君たちみたいな感じだったからな。彼が教えてくれたんだよ」
「あ、そういうことですか……」
あ、これあんま触れちゃいけないやつだ。
◆
栞と一緒にソフトサーブを舐めながら、向かう先はフォルトガルド。いよいよ王国へと足を踏み入れる時がやってきた。
「こうやって一つのものを共有するの、な、何だか……カップルって感じですね」
「そう、ほんっとそうなんだよ。これこそがカップルの境地。これがやりたくてソフトサーブを買ったまである」
「だからL……。もしかして巻斗くんって天才ですか?」
「あれ、知らなかった?」
そんな話をしているうちにソフトサーブも完食してしまった。
「あ、巻斗くん! あれ凄いですよね」
栞が指さしたのは、ゴーレムの残骸。パーチ山の麓で放置されて何年も経ったような姿をしている。
「使い捨てられた巨兵。これぞロマンってやつだよ」
このゴーレム、細部まで作り込まれているので人気のフォトスポットとなっている。俺と栞も例に漏れず記念撮影を済ませた。
それから少し歩いていくと、目の前に巨大な城壁が現れた。城壁の周りには川が流れており、壁の内側に行くための橋が何本も架けられている。そのうちの一つを渡りさえすれば、そこはフォルトガルドだ。
「綺麗……」
橋を渡り切った時、栞が息を漏らした。
「ここが一番ファンタジーしてますよね」
「やっぱ中世だよなぁ」
中世風の家屋がズラッと並ぶフォルトガルド。奥に屹立しているのは、会長も言っていた「フォルトバーシュ城」だ。
ケルト音楽もテンポが速めのものへと変わり、慌ただしい生活感を漂わせてくる。
「わぁ、可愛い」
そんな家屋の中を覗くと、妖精が仕事していたりお伽話の登場人物がいたりする。
栞が覗いたのは、七匹のこやぎの家。
「こっちはサボってるな」
俺が覗いた家では、手伝いをしてくれるはずのブラウニーがソファに座ってミルクを飲んでいる姿を見ることができた。
「これからどうしますか? お土産屋とか見てみます?」
「そろそろお昼時だし、会長の言ってたところに行ってみるか」
「そっか、もうそんな時間ですね」
◆
「巻斗くん、これ見てください!」
「どうした?」
フォルトバーシュ城の穴場スポットというのは、城内のトイレを横切った先にある階段を登ることでたどり着く、普通のテラス席より一階分高いテラス席のことだった。
「確かに、こりゃ凄いや……」
そのテラスから見える景色は、まさに絶景としか言いようがなかった。
左を見れば森の中に巨人がいて、奥には魔王城があり、手前にはパーチ山。右を見れば大海原が広がっていて、ちょっと視界を下にズラせば中世の街並みを一望できる。
魔王城、パーチ山、巨人を同時に見ることができる所なんてここくらいだろう。
その景色にしばらくの間見惚れてしまった。
「会長に教えてもらえてよかったですね、こんな綺麗な景色が見れる所が穴場になってるだなんて」
「ああ……」
「あ、真下見てください! お城の庭園の方!」
「おお、あんなとこに群れがあったんだな」
「ね、初めて知りました」
城の庭園にはユニコーンがいるのだが、見学可能な範囲にいるのはわずか三頭。
しかし、範囲外の見えないところに群れが存在しているようだ。そこまで作り込んでいるとは、さすがワンパといったところ。
そうして景色を眺めていると、急にお腹が鳴ってしまった。
「……そろそろ食べましょうか」
「そうだな。じゃあ弁当を出してくれ」
「え?」
「どうかした?」
「弁当って……何を言ってるんですか?」
え、まさか栞今日は弁当作ってきてないのか? それならそう言ってくれれば……
「弁当の持ち込み禁止ですよ? ワンパって。えっ知ってますよね?」
「あーそっか。ほんとだ。そういえば禁止だったな……」
すっかり忘れてた。世界観を壊さないようにという配慮で、食べ物を持って入っちゃいけないんだった。
「ごめん、俺としたことが。楽しすぎて頭から抜けてたよ」
「もう、びっくりしました」
栞の弁当が食べられないのは少し残念だが、城を出たところにある店でお昼を買うことにした。
城内に料理店があることにはあるが、高級フレンチなんだよな。無視無視。
「え、それ本当に買うんですか?」
「ちょっと今日は反省点が多いからな。自分への戒めに買ってみようかなってね」
「そこまで反省するようなことないと思いますけど。私も楽いですし……」
「栞、止めないでくれ」
栞がドン引きしているのは、俺がドラゴンの手の丸焼きを買おうとしているから。実際にはワニの手なんだが、見た目がキツいのに三千円もする罰ゲームフードだ。なのにワンパはこれを猛プッシュしている。
他に買ったのはマンドレイクのスープとサンダーバードのライ麦挟み焼き。砕けていえば紫大根の野菜スープとサンドイッチだ。
罰として買ったドラゴンの手だが、意外といけた。敬遠してたことにちょっと後悔するくらいには美味しい。ただ三千円は高いな。
◆
常闇に包まれた迷宮の最奥で舞い踊る、二つの人影。
その手に握られた剣には、数多の人の手を渡ってきたことが分かる程の傷が刻まれていた。
「案外弱かったね」
そう言い捨てたのは二人組の片割れ。朱殷のマントに身を包んだ彼女は、辺りを警戒しながら眉を顰めた。
「一体くらい倒してから言えよ……」
彼女の言に呆れたのか、男は溜息を吐きながら剣を鞘に収めた。
確かに彼女は敵を屠ることが出来なかったかもしれない。
しかし、そんな枝葉末節で彼女の力を測ろうなぞ、愚かなことだ。なぜなら……
「それじゃ行きましょうか。私の『ホームグラウンド』へ」
彼女の舞台は、ここではないのだから。
◆
「止めないでくれ!」
「もっとお金大事にしましょ? ね?」
フォルトガルドにある賭場風の建物の中には、ゲームセンター「フォトレイスカジノ」が広がっている。
クレーンゲームの塗装が木製風だったり、エアホッケーの台がビリヤード風だったり、世界観を損なわない努力はここでも徹底している。本当にカジノが遊べたりするのもこだわりのようで、アプリの説明でもおすすめされていた。といっても賭けるのはお金じゃないんだけど。独自のポイントをやり取りするらしい。
「いくら使ったと思ってるんですか、そろそろ諦めてください!」
「いくら使ったと思うって……安すぎって意味だよな?」
「そんなわけありません!」
そんなゲームセンターに設置されているクレーンゲームの一つに、俺は齧りついていた。
クレーンゲームの中にいるのは幼児向けアニメのマスコットのぬいぐるみ。それがどうしても取りたいので、栞の忠言をシャットアウトして何枚目か分からない百円玉を筐体に突っ込む。
「あれ、マッキーと水谷さんじゃん」
またも失敗し、次の百円玉を入れようとした時、背後から声がかかった。
「ああ、智弘か。それと、えーっと……」
声の主は俺の親友。その隣にいるのは……
「いーずーみーでーすー! トモくんの隣にいるんだから私に決まってるでしょ」
隣にいるのは和泉沙夜。智弘の彼女だ。
遊園地編の最後までは投稿できます。それが終わったら一年後更新です。
残りは今日と明日の20時に予約投稿しています。
できれば感想や評価、ブクマなどよろしくお願いします。見れませんが、大量に来ている妄想で楽しみます。




