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15/21

15.覚悟

 今、俺は最高にリア充していると思う。


「わぁ、綺麗なお部屋ですね。……って、あれ? 巻斗くん?」


 何故なら、栞を部屋に連れてくることに成功したのだから!


「すみません……聞こえてますか?」


 前回栞を家に呼んだ時はリビングへ案内してしまったので、他の部屋を紹介することは叶わなかった。


 「彼女を自分の部屋に連れてくる」という行為は彼女が出来たらやりたいことランキング常連の行為だ。ソースは俺。ちなみに一番好きなソースはウスターソース。あれ割と何にでも合うんだよな。

 俺は大抵白身魚のフライにかけるのだが、母さんは様々な料理の隠し味に使っているらしい。

 ハンバーグソースやカレールーなど……確かおじさんのミートスパゲティにも使われているとかいないとか。真相は神とおじさんと栞のみぞ知る。意外と多いな。


「まーきーとーくーん!!」

「うおっ、かわいい」

「ひゃぅっ……!」


 栞の顔が目の前にあったので、思わずそう呟いていた。栞は亀のように(うずくま)ってしまっている。


「あの……戻ってきました?」

 

 亀が甲羅からチラリと顔を覗かせた。


「ああ、ちょっとボーっとしてたよ。すまん」

「部屋に入った途端急に上の空になるので、ビックリしました。おかえりなさい」

「ただいま。なんか、栞が俺の部屋にいるんだと思ったら、色々考えちゃってさ」


 主にソースのこととか。


 そんな俺を見て、栞がクスリと笑った。


「少し不思議な感覚ですね。巻斗くんの部屋なのに、私がおかえりって言うなんて」

「確かに。そもそも栞からおかえりって言われること自体ドキドキするし」

「あ……」


 俺の言葉の意味を理解した栞は再び顔を腕に埋めてしまった。


「不意打ちはズルいです……」

「栞が攻撃技を選択したのが悪いな」

「え?」

「いや、何でもない。忘れてくれ」


 今のは理解できなかったようで、栞はきょとんとしてしまった。

 電気ネズミで有名なあのゲームはやったことがないのかな……。いや、そもそも旅パにふいうちは採用されないか。知らないのも無理はない。


「座る所がないな……とりあえずベッドに座ってくれる?」

「分かりました。それではお言葉に甘えて」

「自分の部屋みたいに(くつろ)いでいいからさ」


 立ち話を切り上げ、栞をベッドに座らせた。

 それを確認し、本題に入る準備を進める。

 押入れから紙袋を数個取り出す。中には丁寧に整理されたフィギュアやコミック、同人誌たち。傷をつけて価値が下がったらマズイからな。


 取り出しながら、チラッと栞の様子を覗いた。

 彼氏のベッドに座る彼女。手をつき、足をブラブラさせているその姿は無防備そのもの。


 ……このまま栞を押し倒したら、どうなるんだろうか。


 脳裏に、欲望を(さら)け出した悪辣(あくらつ)な自分の姿がよぎった。


 いやいや、それはマズいって……。


 かぶりを振り、妄想を霧散させる。

 そのような行為は、栞が許してくれた時初めて許されるものだ。本当は高校生がやってはいけないと思うが、そうやって遠ざけて他の男に先を越されたとしたらたまったものじゃない。あくまで、栞が許してくれた時だ。年齢は関係ない。ないったらない。


 言い訳まがいの思想でケリをつける、思春期真っ盛りの男子高校生な俺だった。


「それ、何ですか?」


 無心で紙袋を床に並べていると、栞が身を乗り出してきた。


「俺が集めてきた推しキャラたちのグッズだ」

「推し、ですか……」

「そう、推し。俺は彼女こそいたことがないが、その分こういうのに心を奪われていた時期があってだな。俗に言う『ガチ恋』ってやつかな?」


 二次元好きの人なら分かると思うが、俺も画面の向こうに恋をしたことがある。もちろん、今はそんな気持ちは消え去っており、栞一筋だ。

 そういう意味では、俺にとってはこの子たちが元カノと呼ばれる存在に近いんだと思う。


「過去の話だけどな。俺はもう栞以外にそういう感情を抱かないから」

「流石に、二次元にどういう感情を抱こうが気にしませんが……。そもそも、中学生の時から巻斗くんの趣味は把握していますよ」

「……マジ?」


 栞さんはどこまで俺のことをご存知なのでしょう?


「……うーん、そうは言ってもさ、そっちの方が嬉しいだろ? 俺は栞がそこまで好きでいてくれたら嬉しいし」

「それは、まぁ……嬉しくないと言ったら嘘になりますね」


 目を逸らしながら返事をした栞だが、何かを思いついたように付け加えた。


「あの……私はですね、巻斗くん以外のことを好きになったことがありません。初恋ですから」

「え、あ、ああ、うん。やっぱり嬉しいな。好きだよ、俺も」

「うぅ……えへへ」


 急に爆弾を投げられて戸惑いつつも、何とか投げ返した。直撃した栞は(とろ)けている。溶解液が入ったタイプの爆弾だったらしい。


「まぁそういうわけで、俺はこの子たちを全部売り払おうと思う。いや、売る! 全部!」

「……どうしてそうなるんですか?」


 おっと、話が飛躍しすぎてしまったか。


「さっき言った通り。俺が栞以外を好きだったという過去を葬り去るためだよ」

「そのために、これを全部ですか? 大切なものなのでは」

「ああ。まぁ大切といえば大切だが、そんなの栞と比べればなんてことない。これは俺の覚悟だからな。これから一生、死んでも栞のことを愛し続けるっていう」

「あ、愛……愛って……」

「重い? でもそのくらいじゃなきゃ、栞と付き合う資格なんてないと思うんだ」

「全然! そんなことありませんよ! 私にそこまでしていただく価値なんて……今のままでも幸せすぎるくらいなのに」

「価値? 何だよそれ……。あのな、栞は自分の魅力を理解した方がいい。少なくとも俺は死んでも一緒にいたい」

「そんなの、私もですよ」

「とにかく、俺は全部売るから。栞が今後何の不安も抱かないでいられるように」

「私なんかのために……思い切りが良すぎですよ……」


 紙袋を掴み、ドアノブに手をかけた。


「今から行くから、付いてきてくれる?」

「え、今から? 私もですか?」

「栞には俺の売却祭りの立会人になって欲しいからさ。そのために今日呼んだみたいな所あるし」

「まぁ、そういうことでしたら……」


 俯きがちにこくっと首を揺らした栞を見届けて、ドアを開けた。

 窓から差し込む光が足元を照らしている。

 お宝を巡った、壮大な冒険が幕を開ける予感がした。



「これで全部売り終わった感じですかね」


 大冒険、終了!


「ああ、手伝ってくれてありがとな」

「結構な量でしたからね。流石に見るだけじゃ申し訳ないですし、私のためにやってくれているんですし」


 額の汗を拭いながら俺に笑いかける美少女。この笑顔が見れただけも売っ払った価値がある。


 フィギュアや同人誌などの所謂オタクグッズを専門的に買い取る店に着いた俺たちは、早速買い取り窓口へと向かった。その際仕分けや手続きなどを栞が手伝ってくれたので、思った以上に早く事が済んだ。

 そういえば栞、店員に対しても意外と喋れていたな。人見知りが改善され始めているのかもしれない。


 その結果俺の手元に残ったのは、十人の偉人と幾つかの小銭。ざっと六桁を超えるその金額に、少し怖気付いてしまった。

 数日に一度ほどのバイトじゃこんなに稼げないからな。いけないルートで手に入れたわけじゃないが、謎の罪悪感。


「巻斗くんって、よくこのお店を利用するんですか?」

「最近はご無沙汰だが、中学の頃は結構来てた気がするな……。どうしてそんなこと聞くんだ?」

「どうということもないんですが、ポイントカードを持ってたり、手馴れた感じがしたので」

「まぁ、こんなに大量に売るんだからポイントは貰っておかないと勿体ないよな」


 今日貰ったポイントは、もう少し貯まったらヒーローのフィギュアに姿を変える予定だ。


「でもビックリしました。巻斗くんって、想像以上に私のことが好きなんですね」


 ほう、と息を吐きながらそう呟いている栞。どうやら、栞を安心させる計画は成功したようだ。


「突然好き好き言われても信じられないよな。やっぱり行動で示さないと」

「何か、少しでも不安に思った自分がばかばかしくなりましたよ」


 栞は、すっかり穏やかな顔色になっている。そんな栞の手をそっと握りしめた。


「さてと。それじゃ、次は写真屋に行くか」

「へ? 写真……屋?」


 目をぱちくりとさせる栞の手を引いて中古屋から退出した。


「そう、売ったお金で栞のアルバムを作ろうと思ってね」

「私の……?」


 直球で言うと「栞の写真集」だが、そう表現するのは流石に(はばか)られる。


「栞の写真もかなり溜まってきたからなー。そろそろ現像して纏めておきたいなって。本棚のスペースも結構空いたし」

「そんな……いいんですか? そんなことに使って。かなりの金額になると思うんですが」

「世界一かわいい栞の写真だぞ? いくら払っても足りないだろ」

「巻斗くんは私のことを過大評価しすぎです!」


 栞がギュッと手を握りしめてきたので、すかさず握り返した。


「仕方ないだろ、実際可愛いんだから」

「うゅ……そ、そんなこと言ったらですね! 私の方がたくさん巻斗くんの写真持ってるんですからね!」


 強く握り過ぎて疲れたのか、栞は手を離してスマホを取り出した。


「ほら、これとか。去年の体育祭の時の巻斗くんです! 走ってる巻斗くんに、綱を引いている巻斗くんに……」

「栞……。これ、普通に盗撮……」


 スマホ内の画像をスライドさせて色々な写真を見せてくれる栞だが、俺は撮影許可を出した覚えはない。そもそも栞との面識も無かったはずだ。塾を除いて。


「あ……あの、えっと。そうですね。ごめんなさい……」

「いや、栞ならいいんだけどさ、うん。撮ってくれてて嬉しいよ。たださ、何か一言欲しかったな……」

「一言でも話す勇気があれば、そうしてます……」


 栞、実はストーカー予備軍だったのかもしれない。対象が俺じゃ無かったら大変だったな。


「まぁいいや。俺は栞のことが好きで、栞も俺のことを好いてくれているんだから、何の問題もないよな! はい、この話は終わり!」


 もう一度栞の手を握り直し、写真屋へと歩を進める。


「写真集を作るぞー、おー!」


 あ、写真集って言ってしまった。



「え、栞も作るの?」

「私も巻斗くんのこと大好きなんですよ? 作りたいに決まってます」

「そっか、うん……あれ?でもお金はどうするんだ?」

「あ……!」


 写真屋に着いた途端、栞も俺のアルバムを作りたいと言い出した。どうやら金銭面は考慮に入れていなかったようだ。俺が作るって言った時には真っ先に聞いてきたというのに。


「あの、少しだけ貸してくれませんか……?必ず返しますので」

「返さなくていいよ。共有財産ってことで」


 お金を渡そうとすると、栞はピョンピョンしながら俺を指さした。

 亀に続いてウサギとは。童話が書けるな。


「きょ、共有って……もう、たらし!」


 頬を膨らませる栞、めっちゃ可愛かった。



 結局、二人とも作った。俺は一冊で済んだが、栞は二冊。付き合う前の写真だけで一冊分埋まってるの怖い。何故か中学の頃の写真まで持っていたようだ。

 完全に黒歴史時代だったので、顔には出さなかったが心臓を抉られている気分だった。栞が過去の俺のことも好いてくれているのが唯一の救い。


「……さてと。これ、何冊まで増やせるかな」


 ついこの間までフィギュアや同人誌が所狭しと並べられていた本棚が、今では空白だらけ。そんな本棚の端にひっそりと(たたず)む新入りの背表紙を眺めながら、これからへの期待に胸を膨らませた。

これで旧14話の展開に追いつきましたε-(´∀`;)ホッ

前回よりも良くなったのではないでしょうか?


次回からは完全新作となります!

7/4に上げます!(執筆遅れています、すみません)


では、感想やブクマ、あと下にある☆に色をつけるやつもよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] あっ……夫婦……(尊死 [一言] 愛が重いんじゃ(寝取られ阻止!)
[良い点] 巻斗が栞の不安を完全に晴らそうと奮闘しつつイチャイチャしてる景色は最高です。 [気になる点] 続きを!この二人のイチャイチャの続きを!! [一言] やはり作者様の苦労が文から滲み出ているよ…
[良い点] 甘すぎて虫歯が… イチャイチャ最高やな [一言] 評価★5待ったなしでした! これからも更新楽しみにしています
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