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14.修羅場ブレイカー

一ヶ月以上遅れました、すみません!!!では本編をどうぞ。

「えっと……そちらの方は、どちら様ですか?」


 眉尻を下げながらの栞の呟き。すごくグッとくる表情なんだけど、本当はそんな顔をさせたくはなかったんだ……。


 えーっと……なんなの、この状況?


 会長に頼まれて仕事を手伝い、そのお礼にと放送部の部室前まで道案内をしてもらうことに。

 ここまでは何の問題もなかった。部室の場所を知らない俺が迷うこともなくなったので、会長には感謝しかない。


 でもさ、到着した瞬間に栞が出てくるのはおかしくない? 神様、俺何かやっちゃいました?

 扉を開けたら彼氏の隣に知らない女の人がいた、みたいなシチュエーションなんだよな今。まぁ生徒会長が誰かっていうのを俺も栞も知らなかったということは置いといて、そんなの俺だったら耐えられないぞ。俺が寝取られに過敏になってるだけか?


 狼狽る会長に困り顔の栞、間に挟まれた俺という構図はまさに修羅場である。


 ドウシテコウナッタ……。


 なんとかして、この状況を打開せねば。俺は会長との間には何もなくて、栞一筋なのはこれからも一生変化しないんだって伝えたい。どう言えば何の(わだかま)りもなく終わらせられるのだろうか……。


「あ、あの、えっとな……」

「なるほど、君が荒川くんの『将来の嫁』か! 話の通りなかなかに可愛い子じゃないか!」

「よよよよ嫁……?」

「会長!?」


 俺が言いあぐねていると、会長が急に栞を褒め始めた。頭を抱えていた会長はいずこやら。


 あれ?ちょっと待ってください、俺栞の容姿については何も……あ、話を合わせろってことですね、了解です。


 会長からの目配せを受け取った俺は、素直に従うことにした。いつも全校生徒を取りまとめている人に任せた方が上手く収まりやすいだろうし。

 うーん、でも牡蠣パーティを止められなかったのも会長なんだよな。そう考えると少し心配になってきたぞ。


「こんな可愛い子が彼女だなんて、幸せ者だな。えーと、君は確か水谷さんかな?初めまして。この学校の生徒会長をやっている、緑野伎瀬だ」

「初めまして、水谷栞です……。えっと、私のことはご存知だったんですか?」

「そりゃあれだけ惚気を聞かされれば、名前くらい覚えるさ。今日は人手が足りなくてちょっと手を貸してもらっていたんだが、その間の荒川くんといったらもう、ずっと彼女が可愛いって話ばかり。いやー、青春を謳歌しているようで羨ましいよ私は」


 流れるように虚辞を並べ立てる会長が正直恐ろしい。俺は栞の名前なんて一言も発していないし、そもそも作業中はほぼ無言だった。会話なんて目安箱の資料の時くらいだ。まさかあの一瞬で二人の名前を覚えてしまったのだろうか。

 会長の話を聞いた栞はもう悶々とした表情をしていない。今度は逆にあたふたしている。

 まさか、ここまで栞の感情をひっくり返せるとは思ってなかった。流石は学生のトップ、その力量には脱帽っす! 一瞬でも心配だと考えたことを懺悔します。すみませんでした会長! いや、生徒会長様!!


「さて! 道案内も済んだことだし、邪魔者はここで退散することにしよう。では二人とも、末永くお幸せにな!」


 そう言い残し、身を翻す会長。

 小さくなっていく背を見つめながら、俺と栞は呆然としていた。

 まるで嵐のような去り方だったな。あ、お礼言い忘れた。

 こうなったらいずれ恩返しをしないといけない。某鶴をリスペクトして機織りでも覚えるか。

 機織り覚えて旗も折る。寝取られフラグ破壊のゲン担ぎにもなるし、名案じゃないか?


「あ、あの……巻斗くん」

「ん?」


 栞もやっと落ち着いたようだ。服の裾をくいと引っ張ってくるので、目線を栞の方へ移動させた。


「その……生徒会長さんの仰っていた、『将来の嫁』とは、あの、どういうことでしょうか?」


 あっ、そういえば……。確かに会長が栞のことをそう呼んでいた気がする。修羅場に気を取られてすっかり頭から抜けてしまっていた。

 ただの冗談のつもりだったが、栞と結婚したいという気持ちは嘘ではない。どうやって説明しようかな……。


「あぁ、えーと……。た、多分! 俺が栞について説明する時に、願望を込めてしょ、そうやって紹介したのを、会長が真に受けてしまったんだと思う。ほら、栞も前に『結婚して』って言ってくれたしな」

「もうっ! それ忘れてくださいって言いましたよね!」


 プイッとそっぽを向いた栞が、口を尖らせながらそう呟いた。

 手の甲辺りをつねってきているが痛くないし何なら気持ちいい。


「でもあの時の栞可愛かったからなー。そんな簡単に忘れられないかもな。まぁ、恥ずかしがってる今も十分可愛いけど」

「あっ、ちょっと……」


 髪型が変わらない程度に、栞の頭をさっと撫でる。些細な抵抗の後、栞はくすぐられた猫のような表情になった。永遠に撫でたい。


 そんな折、えも言われぬ不安が鎌首をもたげた。


 今はこんなにも幸せだ。多分、栞もそう思ってくれていると思う。

 しかし、俺は知ってしまっているのだ。この幸せが崩れる瞬間を。そして、その苦しみを。


 この幸せが、いつか誰かに奪われてしまうのではないか。

 そう思うと、どうしても手放しに笑ってはいられない。


「なぁ、栞。俺が会長と一緒にいるのを見た時、やっぱり寂しかった?」


 ふと気になったので、栞に問いかけた。会長のおかげで有耶無耶にはなったが、あの時の栞の顔がどうしても引っかかってしまう。


「いえ、私は巻斗くんのことを信用してますから。不安になったりなんか……」

「隠さなくていいから。本心を教えてよ」


 気を遣ってか否定しようとした栞だが、あの表情は一切気にしていないものではなかった。


「それは、まぁ……ね。少しは不安になりましたよ? 何せ巻斗くんってとても魅力的ですからね。会長さんは綺麗な方でしたし、少しだけ、ほんの少しだけですけど、巻斗くんが取られてしまうかもしれない、なんて考えてしまったりもしました。そうなったら、潔く諦めないとな、なんてことも考えましたね。巻斗くんの気持ちを引き止められなかったのだとしたら、それは私が悪いんですから……」


 ボソボソと語られだした言葉を、一言一句受け止める。

 俺は略奪愛についてかなり調べた。奪われないようにするには、彼らがどのように奪おうとするのか知っておく必要がある。


 その結果、間男や間女の恐るべき生態を垣間見てしまった。

 彼らは、カップルの関係が崩れそうな一瞬の隙を突いて潜り込み、パートナーに対する不安を増幅させ、そのまま破壊するということを常套手段にしているらしい。そして、崩れた関係の代わりとなる位置に自分を置くように仕向けるのだそう。


 サイトの文章を読んでいると、思わず例の夢がフラッシュバックしてしまい、胃の中のものが逆流してしまった。

 一文ごとに彼女の言葉が脳を揺らし、男の台詞が胸を貫く。

 そのサイトの文章は、刺青を入れるかのように深く心に刻み込まれることとなった。


「まぁ杞憂でしたけどね。巻斗くんは変わらず私のことを好きでいてくれたみたいですから。会長さんに褒められたのは流石に恥ずかしくなってしまいましたけど……」


 そこまで言って、栞は一瞬口を噤んだ。目の色が赤く変化した気がした。


「あの、これはもしもの話なんですけど……もし、巻斗くんが私以外の人のことを好きになってしまったとしたら、その時はちゃんと私に言ってくださいね。まぁ巻斗くんなら浮気することはないと思いますけど、人の心の移ろいなんて分かりませんからね。念のため、です」


 そう言うと、栞は少しだけ俯いてしまった。


「俺が栞にそういうことを言う日は来ないよ」

「え?」


 栞の頬を両手で挟み、無理やり目を合わせた。


 間男が不安を利用するなら。


「だって、俺が栞以外を好きになることなんてないから。俺は未来永劫、栞だけのものだよ」


 不安自体を全て消してしまえばいい。


「……ありがとうございます」


 消え入りそうな栞の声が、二人きりの廊下へと吸い込まれていった。



 さて、俺はあの言葉だけで不安が消え去ったとは思っていない。口だけにならないためには、あともう一押し必要なはずだ。


 でもどうやったら、栞に心から安心して貰えるんだろうか……


「母さんはさ、父さんが絶対に浮気しないって言い切れる?」

「そうね……うーん、お父さんにそんなことをする度胸なんてないでしょ」

「おかしい。喜ぶべきことなのに、全然嬉しくないぞ」


 夕食の時間、ふと母さんにそう聞いてみた。父さんの肩が数ミリ下がった気がする。


「まぁそれは冗談として。えーと……それじゃ、あの話でもしようかな。私がお父さんに全幅の信頼を寄せるようになった、きっかけの話」

「え? 何だそれ……あっ! あの話はやめろ! ストップ! ストップ!」

「えー、聞きたい!」


 未稀が聞きたがったので、恐らく父さんの制止は無効化されるだろう。我が家は女性の方が権力が強いのだ。

 今回は未稀と同じ意見のため、その権力を借りさせてもらおう。俺は未稀という虎に隠れる狐だ。


「あれは確か付き合って何ヶ月だったかな? うーん、とにかく一年も経っていなかった頃。私が父さんの家に行った時、ちょうど父さんと知らない女の人が玄関口で口論してたのよ。その女の人っていうのは父さんの元カノでね、あっちからフッたクセに急にヨリを戻したいって押しかけてきたんだって。その人が『とりあえず家に上げてよ』って言った時に、父さんがね、こう言ったの」


 そこで一度話をやめて父さんのことをチラッと見る母さん。

 謎の既視感は、栞が俺に昔話を聞かせる時のアレだろうか。つまり、父さんは数秒後に悶えることになるはずだ。


「『俺は今の彼女を愛しているんだ! 君とやり直すなんて選択肢はないし、部屋に上げて勘違いなんかされたくない! 頼むから帰ってくれ!』って。それでね、その後元カノさんが何を言っても一切取り合わない。いつも流されがちな父さんが自分の意思を貫く姿を見てね、『ああ、この人なら絶対大丈夫だ』って確信したのよね」


 父さんはすっかり縮こまってしまった。分かるよ、過去のエピソード語られるとそうなるよね。俺父さん似なのかもしれないな。


 その後トークテーマが過去の父さんの武勇伝へと移ったので、父さんが元に戻るのにはかなりの時間がかかってしまった。


 それにしても。元カノ、か……。俺にそんな存在はいないので、今の話は参考にならなかったな。

 いや待てよ。確かに元カノなんていない。しかし、似たような存在なら''ある''んじゃないか。


 自分の部屋の本棚を思い浮かべながら、俺は一つの作戦を組み上げた。

皆さま、大変長らくお待たせいたしました!約40日ぶりの更新再開です!

ここまで待たせといて100人もブクマが剥がれていないのは奇跡ですね、はい。ありがとうございます!!


えーと、今日は何日だ?28日?やば、ギリギリセーフ……!(5月中を守れていない時点でアウトです)


コロナ自粛終わっちゃったんで毎日更新とはいかないかもしれませんが、じゃんじゃん続きを描いていくのでこれからまたよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 会長がすごくやり手のスーパーウーマンにパワーアップしてますね。 それでいて巻斗と栞のイチャイチャも見れてよかったです。 [気になる点] 続きです。 [一言] この一話を作り上げるのにすごく…
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