咲耶国の花見パーティ
※2023/4/20追記 初期に書いたものの為、設定がガバガバです。シリーズと切り離した世界線としてお楽しみください。
朗らかな春。
「ねね、見て!」
ジェーナに呼ばれ、一旦部屋を出たウィンディが手紙を片手に皆がいる部屋に戻ってきた。
「おーおかえりー」
「どしたん?」
クロスとソラがいつもより楽しそうなウィンディに声をかける。ウィンディは大げさに手紙を広げ読み上げた。
『 招待状
桜が美しい季節になりました。
サラチア国王女様、公爵家令嬢の皆様、
いかがお過ごしでしょうか。
来週の初め、我が国 咲耶国にて
お花見会を開催させて頂きます。
宜しければご参加ください。
ーーーー咲耶国 八重』
「すごい!花見!」
カーレスが満面の笑みを浮かべる。
「えーすご!」
「ええやん!行こいこ!」
ルーチェとファルルも喜びの声をあげる。
「んじゃみんな参加ー?」
「「「「「うん!」」」」」
「おけ、じゃあ返事書いてくるわ」
ウィンディがまた部屋を出ていく。
そして咲耶国とはサラチア王国よりもっと東にあり、いわゆる日本の文化が根付いている国で、八重姫が国を治める若き女王だ。卜骨が得意な為、占いが政治の補助となっているらしい。咲耶国の者は手に花の模様を持って生まれ、その模様は王家に近いほど桜に似た模様になる。
「いやー楽しみやなー!」
「ほんまやなー」
明らかにテンションの上がっているカーレスの言葉に皆も笑顔と賛同の色を見せた。
「それ、ボクたちこのまま行ってもいーの?」
人間姿のダーネスがクロスの肩から顔を覗かせる。
このままというのは人間姿のまま、ということだろう。
「いいんじゃない?せっかくだしね」
「やった」というのが小声で聞こえた後、足早に部屋を出ていった。
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ウィンディの部屋。
『咲耶国 八重王女様
ご招待に感謝致します。
サラチア国王女、五公爵家令嬢
共に参加させて頂きます。
とても楽しみにしています。
ーーーー公爵家令嬢 ヴィエトル・ウィンディ』
「はい。よろしくね」
咲耶国の伝書鳩である、八咫烏の足に手紙を括り付ける。念の為、と風魔法で飛びやすくしてあげた。
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お花見当日。
一同は城門近くに集まった。
今日のドレスは少し和風だ。
「やー楽しみやな!」
「ドレスもせっかく仕立ててもらったしねー」
「そやな、汚されへんわ」
「てか外国やねんからお淑やかにしなあかんな」
「馬車降りてからでええやろ!」
そうお喋りしながらペガサスの繋がれた空馬車に乗り込む。
咲耶国は遠い。その間ドレスのままずっとお淑やかに馬車に座っている、というのは彼女たちも大変である。だから長時間の移動中は馬車の中で何をしても怒られないのだ。王族貴族の常識の範囲内なら。
ちなみに護衛や召使いたちはすぐ近くを飛ぶ馬車に乗っている。余計に彼女たちは自由である。
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「王女様、お嬢様たち、到着されましたよ」
召使いの声で6人は起きる。ぽかぽかとした車内で思わず熟睡してしまっていたようだ。
「え?あぁ、ありがとう」
召使いの手をとって馬車を降りる。
ここからはちゃんとお淑やかにしなければならない。
ドレスをつまみ、優雅に咲耶城へと歩く。
謁見の間。会釈をして中に入り、「ごきげんよう、八重王女」と深く頭を下げる。といってもルーチェはサラチア王国の姫、5人も公爵家令嬢の身なのであくまで形式上だ。
「早く顔をあげてくださいな」
優しそうな八重姫の声が響く。
6人が顔をあげると、菊の模様の着物に牡丹の髪飾りを付けた八重姫はお淑やかに立ち上がり目の前までおりてきた。
「改めてごきげんよう、ルーチェ王女、公爵家令嬢の皆様。今日はお越しいただきありがとうございます」
お辞儀を返し、ニコッと笑う。
「さて、挨拶も終わりましたし、早速会場へ」
「はい、お願いします」
咲耶城の中庭を通り、城の裏へと案内される。
「「「「「「うわぁぁぁぁああ」」」」」」
あまりにも美しい景色に思わず普段のようなため息が出る。
城の後ろは広い公園になっていてそれに沿って桜の下植えてあり、途中に小川が流れてキラキラと光っていた。少し強くなった風に桜が散る。
見惚れている6人に八重姫はくすりと笑った。
「それでは、私はお迎えがありますのでここで失礼致します。」
「ありがとうございました!」
「うわぁ凄いな…ほんとに」
6人は公園の中に歩き出す。
「さて、この辺りにしようか」
八重姫の使い、日和が持ってきてくれた敷物をある桜の下にひく。ルーチェ達は一番乗りだったようで、その公園にはまだ誰もいなかった。
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しばらく花見を楽しんだ頃。
ドドドドドドドドド
「え?」
音に驚いたカーレスが振り向くと大きな紅い猪が5頭、茂みから飛び出してきた。
いつも通りクロスに追いかけられていたソラが
「姉様!猪!」
と声をかける。クロスは標的をソラから猪に変えダーネスを呼んだ。木に登っていたダーネスはクロスの手の中で蝙蝠傘に変わる。
また、他の皆も素早く手をあげる。
一瞬の間に猪たちは土と炎の檻の中でそれぞれ気絶させられていた。
「はえー、結界破ってきたんやろか」
ウィンディが猪に近づいて呟く。魔法よりも道具や神聖なものを扱う咲耶国とはいえ、城の領地には結界が張ってある。
「起きたら森に返してあげよっか」
そう言って花の冠を作っていたファルルが1本花を取り猪に添えた。別に死んではいない。
「でもこれ報告しなあかんよな」
「せやな」
………
「戦ったなんか言えるか?」
「無理やな」
「今回ばかりは護衛さんの手柄にしよか」
くすりとルーチェは笑う。
檻は消え、猪はただそこで気絶しているままになった。当の護衛たちは猪の傍に立たせられ、とてもびくびくしていた。
そして招待された他の貴族たちも集まり、猪も報告後森へと返された。どうやら結界担当の咲耶兵が徹夜明けでうとうとしていたらしい。
招待客や八重姫はお互いに演し物をしたり雑談をしたり少し咲耶国を観光したりしながら夜桜が美しくなる頃まで楽しんだ。
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帰りの馬車の中。
「楽しかったー!!!」
カーレスがうーんと伸びをする。
「八重さんめっちゃ綺麗やったな〜」
「いかにもお淑やか、って感じやったな」
「菊の着物も牡丹の髪飾りもよう似合っとったしな!」
「そういや八重桜の別名って菊桜、牡丹桜らしいでー」
「すご!めっちゃ凝ってるやん」
ソラの豆知識に感心する。
「あ、八重桜の花言葉は『豊かな教養』『善良な教育』『しとやか』やって!」
お気に入りの花言葉の本をめくったウィンディが言う。
「流石やな」
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咲耶城。
八重姫は自室で日記を書いていた。
「皆さん楽しんで貰えたようでよかった。次は夏に花火大会でもしようかしら。」
「そうだ、今日の占いなんでしたっけ」
と神棚から今朝のト骨で使った骨を取り出した。
「眠たげな春の日和…」
そう呟いてくすっと笑う。
「兵士の方も眠ってらっしゃったみたいだし、私の侍女も今日は寝坊してたわね…あとは……馬車で寝てらっしゃった方々も」