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戒め
夜、ノックの音。
「こんばんは。ここに小説家さんがいると聞いて。」
若い女性の声が書斎に響く。
「はい、小説家の井伊空佑です。なにか御用ですか。」
「実は私は心の中で人を見下してしまう癖が
幼少の頃からあったのです。
同級生、先輩、先生そして
正直に言ってしまうとあなたのことも…。
頭ではそんなことをしてはいけない、
考えてはいけないと思っているのですが
どうも癖が治らないのです。
どうか私を戒める作品を
世に出していただけないでしょうか。」
「なるほど。すぐに取りかかりましょう。」
「ありがとうございます。どうかよろしくお願いします。」
若い女性は脱いでいたコートを着て出ていった。
その後、17世紀ヨーロッパ時代に
奴隷達に寝込みを暗殺された姫の話を書いた。
作品は少し売れた。
そしてしばらくしてあの女性の彼氏と名乗る人物が
書斎に来た。彼は大変悲しんだ目をしており呟いた。
「彼女は……自殺しました。」