臆病風
ある夜、急に寒気がした。
「なんだいきなり雑然とした恐怖が襲ってきたが。」
すると左肩の後ろの方から若い男の声がした。
「私は臆病風と言います。
ここに小説家さんがいらっしゃると聞いたので依頼をしに…」
「私がその小説家、井伊空佑です。どのようなご依頼ですか。」
「私のイメージが悪いのです。まさに風評被害。
ほら、三国志って読んだことあるでしょう。
臆病風と聞くと人間の皆さんは弱者を連想する
らしいじゃないですか。そのイメージを何とかして
いただきたいのです。」
「わかりました。すぐに取りかかりましょうか。」
「ありがとうございます。どうかよろしくお願いします。」
そう言って臆病風は去っていった。
そして、いつも危険なことをしたがる
言うことの聞かない女の子を臆病風が止め、
命を助けるという内容の小説を出版した。
小説は映画化され、臆病風イコール弱者という概念は
人々から消え去っていた。
しばらくして臆病風が書斎に入ってきた。
「この度はありがとうございました。
私はこれから世界中を飛び回り、
自分に出来ることを探そうと思います。」
「それはよかった。どうか人の役に立つことをして頂きたい。」
そう言うと臆病風は去っていき、それから数年後。
世界保健機関は世界の自殺件数が0になったことを発表した。