秘密の共有者、さらに増える!
「メリー・クリスマス!いらっしゃいませ~!」
司先輩のお出迎えの声が飛ぶ。
今日は12月24日。つまりはクリスマス・イヴ。既に学校は、冬休みに入っている。
この喫茶藍も、もう少しで年末休みに入るけど、今日はまだ営業中。と言うより、今日が今年最後の大きなイベントと言っていい。
先輩たちもクリスマスと言うことで、ミニスカサンタ服・・・なんてことはなく、頭にヘッドドレスの代わりのサンタ帽子を被っているだけだ。うちの店は、まっとうなんですよ・・・外面だけはね。
「富嶽君、うちの店の実情が異常であるように聞こえるんだけど?」
おっと、店長代理に聞かれていた。
でも。
「じゃあ、ごく普通の平凡な店ですか?」
「・・・否定できないのが物悲しいわ。自分自身がまさにそれだからね」
店長代理のマリーさんは、元某国のスパイ。転換装置の秘密を探ろうとしたら、逆に捕まって身も心も女にされて、ついでに洗脳されて喫茶店の店長にされた人・・・うん、自分でも何言ってるからわからないくらい、普通とは違う人。
そんな彼女は、産休に入った弘美店長の代理としてこの仕事に入ったけど、すっかり板についたな。
一方お店のフロアはと言えば、クリスマスだから普段以上の盛況と言うこともなく、普段通りの混雑。先輩たちが店内を忙しく動き回っているけど、新たに1人店員が増えただけあって、以前の2人体制よりは楽そう。
ただし、厨房はと言えば相変わらず僕とマリーさんの2人だけなので、むしろ忙しくなった印象。辛うじて救いと言えるのは、僕自身の料理の腕が上がって、ある程度の料理を出せるようになったことと、先輩たちフロアで働くメイド3人も、タイミングを見ては、下げた食器の片付けや、簡単な盛り付け作業に入ってくれるようになったこと。
そして、多少給料に色がつくようになったことかな。
「オーダー入りました!鉄板スパとオムライスお願いします!」
正美先輩から、新たなオーダーが飛ぶ。
「は~い!・・・ほら、富嶽君。仕事よ」
「了解です」
今日も喫茶藍は、盛業中です。
「「「お疲れさまでした!」」」
「お疲れさま~気を付けて帰るのよ」
今日の営業を終えて、着替えを済ませた僕たちはマリーさんの見送りを受けてお店を出る。
12月の夜は肌寒いけど、今日も忙しかったせいか、体は何だか火照っている。
いや、理由はそれだけじゃないだろうな。
「いや~。今年の最後の大仕事もこれで終わりね」
「明日からが、冬休み本番よ!」
と、冬休みの予定に華を咲かせる3人組。3人ともがそれぞれ、如何にも女の子らしい服で着飾っている。
もちろん、冬だから露出の多い服なんてことはないけど・・・何だろう。3人とも短期間で女子力がマシマシになっていて、自分を可愛く綺麗に見せる服を、見事に着こなしている。
正美先輩も、さすがに冬とあって地肌を露出なんてことはしてないけど、白い帽子に白を基調としたセーターとミニスカートのセット、厚手のストッキング。そしてやはり白のブーツ。
で、セーターとミニスカートが、明らかに先輩の体のサイズに対して小さめ、というより体のラインを露骨に浮き上がらせている。
確かに地肌は見えないけど、艶めかしいことこの上ないんですけど!
実際に道行く男たちの視線が、かなり僕たちに向いているのを感じる。というか、煽り食らって僕には殺意を含む視線が明らかに向けられてるし!
そんな視線や僕の気持ちも気にせず、3人とも明日からの冬休みに関するガールズトーク。本当、3人とも全く男だと思えない。
ま、実際精神も女になってるから仕方がないのか。
すっかり女の子をしている3人と、駅まで一緒に帰るようになったのも、もう慣れちゃったな。
とは言え、今日はクリスマスイブ。この光景にもちょっとしたスパイスが加わるのも当然で・・・
「司さ~ん!」
駅まで来たところで、司先輩を呼ぶ、聞き覚えのあり過ぎる声がした。
「寛治君!」
司先輩が手を挙げる。
「お仕事お疲れさまです!」
「寛治君こそ、塾での勉強お疲れさま」
先輩が微笑むと、顔を赤くする寛治。わかりやすい奴め。
「それじゃあ、みんな」
「うん」
「2人とも楽しんで来てね」
僕たちは、楽しそうに歩いていく2人を見送った。
「全く寛治のやつ、浮かれて」
我が親友ながら、心配になってくる。
「いいじゃないの、せっかく二人がカップルになったんだから」
「そうだよ、チュウ君。もしかして、親友に先を越されて妬いてるの?」
「妬く以前に、上手くいくか心配なの」
そう、なんとあの寛治と司先輩が付き合いだしたのだ!
発端は、先月寛治が司先輩に「付き合ってください!」と告白したところから始まる。
確かに以前から好意があるのはわかっていたけど、流石の僕もこのタイミングで告白するとは思わなかったよ。
これに対して、司先輩は一端回答を保留にして、早速閉店後の店内で店員会議となった。ちなみに産休中の弘美店長とマーさんもリモートで参加した。
司先輩自身はオーケーしても良かったらしいが、ことは単純じゃない。何せ、司先輩の正体は男なんだから。
普通に考えれば、付き合わないのがベストな選択だろう。だって、それが一番トラブルのリスクを絶てるから。
ただ、相手は常連客の寛治だ。一度振ったぐらいでは、諦めないかもしれない。それに、当の司先輩がそれを良しとしなかった。
「そんな理由で振ったら可哀想」と言うのが、彼女の言葉。加えて、弘美店長も一方的に振ることに反対した。
しかし、付き合うにしても司先輩の秘密が常に影を落とすことになる。何せ、司先輩の正体は男なのだ。
司先輩が男に戻るとなれば、付き合っても一時のそれで終わってしまうし、一方で女性として寛治の奴を受け入れるとなれば、男としての人生を捨てるということになる。どっちにしても、その秘密を隠しきれるとは思えない。
「こうなったら、彼に私の秘密を伝えた上で、決めてもらいましょう」
司先輩がトンデモナイが、他に出そうにない解決案をブチかました。
「もし彼が秘密を守れないなら・・・その時は、弘美店長よろしくお願いします」
何をする気だ!?
親友が心配でたまらない。
「大丈夫よチュウ君。ちょっと拉致して、記憶の操作をするだけだよ」
怖い!まるでコンビニへ買い物に行くみたいに、サラッと軽く言わないでくださいよ、弘美さん!
「だけど、その寛治君に秘密を話すってことは、それくらいの覚悟が必要ってことよ」
確かにな。寛治の奴がベラベラ秘密を話すタイプとは思わないけど、超美少女の司先輩が、本当はマッチョな先輩なんて知れば、ショックで何をするかわかったものじゃない。
でも、逆に考えると記憶を消すことはできるんだから、秘密を伝えてしまってもいいよな・・・マズかったら記憶消すだけだし。
「まあ、どっちにしても問題が進展しないなら、いっそ話しちゃうべきじゃないですか。マズかったら、その・・・方法あるんでしょ?」
「親友にそういうことしていいの?」
「親友だからですよ」
俺としても、寛治には申し訳ないけど、結果がどうあれ、あいつが納得できるものであってほしいと思ってる。本人が知らないところで全て終わるよりも、少なくとも一度は真実に向き合って、それでどうするか決めて欲しい。
「チュー君がそこまで言うなら、寛治君の告白への回答と、説明は司ちゃんに任せるわ」
「ありがとうございます。店長」
で、寛治の告白に対する結果がどうなったかと言えば、御覧のとおりだ。なんと、あいつ司先輩と付き合い始めた。先輩が、本当の姿が鹿屋滝司という男性であることを承知でだ。
それで、いいのかと聞いたところ。
「いや、男の鹿屋先輩と司先輩は別ものだろ!それに、もしかしたら俺のがんばり次第で女になってくれるかもしれないんだぜ!がんばらないわけには、いかないだろ!」
だ、そうだ。
う~ん。人間の心理て、良くわからん。
まあ、寛治のやつの健闘を祈ろう。司先輩も満更じゃないし、上手くいけば女としての人生選ぶかもしれないしね。
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