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驚愕 ➁

 翌日、久々に弘美店長がお店にやってきた。


 しかし、何でマーさんまで一緒に?しかも、弘美さんはニコニコ顔なのに、マーさんは渋い顔をしている。どういうこと?


 と、内心首を傾げている僕も含んだ店員たちを集めると、弘美さんは。


「はい、皆さん。この度私は産休を取らせていただきますので、御迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いします」


 うん?今この人何と言った?・・・サンキュウ?サンキュー?三級?参急?・・・


「すいません店長。サンキュウとはどの意味のサンキュウでしょうか?」


「もう、富嶽君。男の子でも、ちゃんとそれくらいの言葉知ってなきゃダメよ。出産休暇に決まってるじゃない」


「ということは・・・」


 店長はお腹の下の方を撫でながら、見たこともない笑顔で。


「赤ちゃんが出来ました!妊娠三カ月よ」


「「「「な、何だって!?」」」」


 僕も他の皆もビックリだ。だって、確かに弘美店長は女の体になっているとはいえ、本当は男だ。その店長が妊娠する(つまりは、男性と・・・ゴニョゴニョ)なんて、とても考えられなかった。


「あら、別にビックリすることじゃないでしょ。この体は完全に女なのよ、科学的にも医学的にも子供はちゃんとできるわ。それに、精神も女になってるんだから、男性と愛し合えます」


 すると、弘美さんはチラッと苦い顔をしているマーさんを見る。


 あ、これってつまり。


「ええと、差し支えなければでいいんですけど、その店長の赤ちゃんのお父さんて・・・」


「・・・僕だよ」


 うわ~。


「妊娠三カ月てことは・・・」


「もしかして、夏休みの・・・」


 あ、正美先輩と司先輩が逆算してるよ。けど、確かに今思えば、心当たりが色々とあり過ぎるな。


 にしても。


「あの、店長。聞いても良いですか?」


「何かな?あ、店長の業務はマリーが代行するから大丈夫よ」


「あ、それもそうなんですが・・・店長はその子を産んだらどうする気ですか?」


「どうする気て、もちろん我が子として育てるに決まってるじゃない」


「いや、そうじゃなくて・・・女として生きていくつもりですか?」


 すると、弘美店長は一瞬目を閉じて。


「やっぱり、そこ聞くんだ」


「すいません」


「別に謝ることじゃないわ・・・結論から言うと、男にもう戻るつもりはないわ。我が子を母親無しの子供にしちゃ可哀想でしょ。子供は親を選べないんだから、親としての責任は全うしないと」


「はあ、そういうものですか。じゃあ、戸籍とかも・・・」


「うん。そっちの方も伝手があるから心配なし」


 一体どんな伝手なんだろう?・・・聞くわけにもいかないけど。


「それにね、実はここからは大事なことだから、特に今女の子になってる3人は注意して聞いて頂戴」


 うん?店長の表情が変わった。一体何だろう?特に女の子になってる3人と言う点が気になる。


「さっき私は男に戻らず、女として生きていくと言ったけど・・・おそらくだけど、現段階では男に戻ろうと思っても戻れないわ」


「「「「!?」」」」」


「どういう意味ですか!?」


 司先輩が前のめりになる。


「実際に試していないけど、コンピューターによるシミュレーションによれば、出産して肉体に負担を掛けた場合、その負担によって肉体は女性に固定されてしまい、現状の性転換装置では男に戻すことができなくなるのよ。皆にも説明したけど、この装置は男を女にして、その女を男に戻すことは出来るけど、元からの女性を男性にすることはできないでしょ。つまり妊娠、出産すれば、装置が元々男性であったことを認識できなくなるってことよ」


「じゃあ、店長は一生女のまま?」


 正美先輩が聞くと、店長は静かに頷いた。


「この装置の改良が進めば話も変わって来るかもしれないけど、少なくとも後10年は掛かるわね・・・まあ、そうなっても私は戻る気はないけど。これからの人生は、この子のために使うつもりだから」


 そう言うと、店長は下腹部を撫でる。まだ全然膨らんではいないけど、その仕草と慈愛に満ちた視線から、本気だと男の僕でも感じ取れる。


「それとね、ここからは富嶽君も注意して聞いてくれ」


 店長に代わり、マーさんが口を開いた。


「さっき弘美も言ったけど、3人も今は完全な女性の体だ。だから、男性と関係を持てば当然子供が出来る体になってる・・・それに加えて」


 マーさんが口ごもった。うん?余程言いにくいことなんだろうか?


「実は弘美の体を徹底的に調べて、まだ仮説の段階なんだが・・・今の3人の体で男性と関係を持つと、8割方妊娠する」


「「「「な、なんだって!?」」」」


 そんなことあり得るの!?


「原因はまだわからないけど、まあまだ実験段階の装置だから・・・そう言うわけで4人とも、そういうことに興味が出始めたお年頃だろうけど、くれぐれも一時の誘惑に流されないように・・・流されると、僕たちみたいになるからね」


「あ、ヒドイ!」


「いや、誘ってきたのはそっちで間違いないだろ!?」


「あの、お2人とも。痴話喧嘩は家でやってください。と言うか、僕が言うのも何ですけど、それ高校生の前で言うネタじゃないです」


 と、何だかヤバそうなことを言い出しかねない2人を諫める。


 でも。


「そうか、つまり先輩をああして、ああすれば・・・」


「ウフフフ・・・」


「はう~」


 あれ~。女子(本当は男だけどね)3人組は何だか様子がおかしい・・・特に大村さん。目に狂気が走ってるぞ!何を想像、いや妄想している!?


「とにかくそう言うわけで、嫁共々迷惑を掛けるが、よろしく頼むよ」


「はあ、まあ店長とマーさんがそう決めたのなら、店員である僕が言えるのは、無事に元気なお子さんを産んでくださいくらい「店長!お子さんは男の子か女の子か、どっちがいいですか!?」


 うお!司先輩が割り込んできおった!


「う~ん。まあ、元気に産まれてくれればそれでいいかな」


「店長店長!店長はどんな家庭にしたいですか!?」


「そうね~。まあ、楽しい家庭にしたいわね」


「て、店長さんはその・・・マーさんのことをどう思ってらっしゃいますか?」


「もちろん、夫として愛してるわ」


 大村君の質問に、さも普通にそう答える店長に、逆に僕も含めて全員拍子抜けしてしまった。


「あら、そんなに意外?」


「ええ。その、そんなあっさりと言われたので」


「そうね。確かに、私が元男てことを考えるとそう思うかもね。でもね富嶽君、忘れちゃいけないけど、今の私・・・いえ、夏のあの時も私は身も心も完全に女だったわ。だから、男性に恋するのは当然よ」


「そうですか」


「それに、結局アレから男に戻ることもなかったから、男への未練も今さらないし」


 ああ、店長は本当に女に染まっちゃったんだ。


 まあ、どう生きていくかは本人の問題か・・・これ以上とやかく言うのはよそう。本人だって、そうしたリスク込みで、夏休みの実験していただろうし。


 それに・・・あの満ち足りた笑顔見たらねえ。


「とにかく、そう言うわけで店長職はしばらく休むから、よろしくお願いね」


「わかりました。あ、改めてになりますけど、無事に元気な赤ちゃんを産んでくださいね」


 僕にできるのは、そう声を掛けるくらいだ。


「店長!」


「その、もっとお話し聞かせていただいてよろしいでしょうか!」


「私も私も!」


「へぶ!」


 先輩と大村さんたちが僕を押しのけるように、店長に詰め寄った。


「あら~。じゃあ、ここは場所を移して女の子だけでゆっくり話しましょうか」


「「「おお!」」」


 3人とも興味津々だな。しかし、女の子だけと言いつつ、全員元男なんだよな。


「ああ、富嶽君いいかな」


「あ、はい。マーさん」


「俺からも君に少し話しておきたいことがある」


 4人が別室に移動し、僕たち2人だけになったタイミングでマーさんが声を掛けて来た。


「はい、何ですか?」


「うん。その、僕たちは今回このようなことになったわけだが・・・まあ、僕もあいつも後悔はしていない。これからは、夫婦として家族として生きていくと決めた・・・だけど、富嶽君。君もだけど、あの3人もだけど。まだ若い。さっきも言ったけど、軽はずみなことはしちゃダメだよ」


「わかってますって」


 それくらいは、僕だって心得てますよ。


「だけど、もし本気で心の底から正美君を好きになったとか、彼女も満更でもないとか・・・まあ、そう言うことが起きたら、遠慮なく相談してくれ。色々とサポートはするから」


「あの、サポートというのは?」


「もちろん、肉体のこととか、社会的なことだよ。あの装置による肉体の変化に関する知見を、一番よくわかっているのは僕たちだし、万が一があっても裏から手を回せるからね」


「いや、でも先輩はやっぱり男としての人生がありますし、あれからは毎日元に戻ってるから、そういうことは起きないと思います」


「まあ、万が一の時の話だから。心の片隅にでも留めて置いてくれ」


「はあ」


 とは言ったものの・・・少しばかり成長した正美先輩がウェディングドレスを着ている姿を思い浮かべてしまう・・・


 ダメだな~





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