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驚愕 ①

「おはようございます!今日からよろしくお願いいたします!」


 喫茶藍の厨房に、文字通り初々しい少女の元気な声が響く・・・なんて、小説にでもしたら格好良く文字にするところだけど、実際のところは大村君改め、大村さんが性転換装置から出て、着替えを済ませて初めての仕事に入った光景だ。


 文化祭から1週間。今日が彼女の初出勤日だ。先輩たちと同じデザインで、色違いとなる濃黄色のメイド服をその小柄(ロリ巨乳とも言う)な体に纏っている。


 スカートを翻して、どこかぎこちなく動き回る姿を、先輩たちが見守っている。


「よろしくね~怜ちゃん」


「働く以上は、ビシバシ行くから、そのつもりでね」


 正美先輩と司先輩が、如何にも「先輩です」と言わんばかりのドヤ顔で接してるよ。まあ、先輩なのは間違いないけど。


 ちなみに、大村さんは先輩たちと違って、名前はそのまま。まあ、怜ならどちらでも通用するからなあ。


「はい!店員としても、女の子としても、よろしくお願いします!先輩!」


 あ~あ。正美先輩も司先輩も、大村さんの「先輩」にやられてるよ。まあ、色々な面で先輩になったから、浮かれるのはわかるけど、それでもね~


 まあいいや、僕は僕の仕事するだけだし。


 と、厨房に戻ろうとしたら、大村さんが僕のところにもやってきたよ。


「富嶽君も、改めてになるけど、今日からよろしくね」


 う~ん、いい笑顔だ。しかし、ここは僕くらいは釘を刺しておかないとね。


「はい、よろしくお願いします。ただ大村さん、正体がバレないようにだけは気を付けてね」


「!?わ、わかってるわよ」


 うん、明らかに動揺してるね。


「本当頼むよ。築城先輩はまだ良かったけど、他の誰かにバレたら本当・・・シャレにならないかもしれないからね」


「はい、気を付けます」


「大いに結構」


 なんかイジメてるみたいだけど、本当にシャレにならない事態になるかもしれないから。あの人たち(店長やマーさんその他)なら、やりかねないし。


 しかし、本当あの時はビックリした。


 文化祭の終わり、大村さんが「築城先輩にバレました。テヘ!」と言ってくるのだから。いや、テヘ!じゃないよ!「どうしてそうなった!?」だよ。


 そんなこんなで結局、築城先輩も一緒にマーさんたちの元に来てもらった。で、どうしてバレたかの尋問になった。


 大村さんが話したことを要約すると、あの日大村さんは装置で女の姿になった後、予定通り先輩をダンスに誘ったらしい。それに対して、築城先輩も特に予定はなかったし、好みの美少女のお誘いということもあって、オーケーしたらしい。


 もちろん、無事に誘えて大村さんは歓喜したらしいけど、築城先輩の方はその時点で既に違和感を覚えたとか。本人曰く。


「こんな女の子、うちの学校にいたっけ?と思ってね」


 だそう。さすがです。生徒会長。


 ただその時は、単に自分が覚えていないだけと思って、それ以上は追及しなかった。でも、大村さんと一緒にいるうちに、その違和感が大きくなったみたいで。


「一緒にいるうちに、何だか、あいつに似てると思って」


 どうやら仕草や喋る内容から、目の前の女の子と、普段から仕事のパートナーとしている男子生徒との共通性を見出したらしい。本当スゴイです。


 僕も正美先輩に親近感こそ抱いたけど、共通の人物にまでは結び付けられなかったからなあ。


 そして、築城先輩は大村さんをなるべく明るい場所に誘い出して、その顔をよく観察したそうだ。


「顔の輪郭とかに面影があったから、最初は上手く女装したんだと思ったよ」


 そう思って、築城先輩は大村さんを問い詰めたみたい。


 もっとも、大村さんは築城先輩に正体がバレたのは、不安半分嬉しさ半分だったらしい。不安はもちろん、バレたことに対する不安だけど、築城先輩が自分のことを、思った以上にわかってくれていたのは、素直に嬉しかったらしい。


 だから、大村さんは素直に正体を教えた・・・が、ここで小さな事件が一つ起きた。


 大村さん自身は、自分の体が女の子になっていることも含めてバレたと思ったらしいが、築城先輩の方は目の前の自称女の子が大村君だと気づいただけで、体が女の子になっていることまでは気づかなかったらしい。つまり、単に上手に女装しただけだと勘違いしたというわけ・・・そりゃそうだよね。完全な形で性転換出来る技術は、まだ実用化されていないことになってるんだから。


 その結果。


「お前が僕のことを好きなのは理解した。女装までして。こんな胸にでっかいパッドまでいれ・・・!!」


「!?」


 築城先輩は、大村君が女装しているだけと思い込んでいたから、彼女が胸にパッドを仕込んだと勘違いして、お構いなく胸を触ったらしい。もちろん、言うまでもなくそこはパッドではなく。


「え!?」


「ほ、本物ですよ。先輩」


 という、ラッキースケベ展開に。普通ならセクハラだけど、大村さんは顔を真っ赤にしたものの、叫ばず静かにそう口にしたとか。


 そこで大村さんが叫んでいたら、築城先輩は色々な意味で死んでいただろうね。


 しかし、なんて羨ましい・・・


 ただ、どちらにしろ築城先輩は大村さんが本当に女の子になっていることを確認したわけで、当然どうしてそんなことになったのか、問い詰めることに。


 結局、大村さんは性転換装置や喫茶藍の秘密まで喋ることになったというわけ。


 ただ築城先輩は、話の分かる人で。


「そちらにも色々と事情があるのでしょう。今回の件は決して口外は致しませんので、御安心を」


 と言ってくれたのは救いだった。いや、少しでも邪な欲を出していたら、今頃大村さんと2人そろって(自主規制)


 ただ一つだけ注文を付けられたけど。


「今後とも文化祭のお店を出し続けて欲しい」という申し出。何でも非常に今回の喫茶藍の出張店舗は人気だったとか。そりゃ、ねえ。


 実質メイド喫茶(厳密にはウェイトレスなんだけど)で、しかもそのメイドさんが超がつく美少女(中身を知らなければね)と来ている。人気が出ない筈がない。


 あと、調理を担当したマリーさんの名誉のために言っておくけど、出した料理やお菓子の味も高評価だったんだからね。うちの店は、メイドさんだけじゃないんですよ。


 とにかく、こうして喫茶藍に従業員が1人増えました。そして、秘密を知る人間が2人増えました。


 と言っても、厨房手伝いの僕には影響小さいけど。せいぜい、注文された品を渡す時に接する顔が増えたってところかな。


 あ、あと強いて言うなら。


「いらっしゃいませ!・・・あ!」


 お、早速のご来店かな?


「どうぞお客様、空いてる席にお座りください」


「ありがとう・・・よく似合ってるよ、怜」


「はう!」


 お店の常連さんが1人増えたということだね。しかし築城先輩、仕事中のメイドさんを誘惑するのやめてください。働き始めたばかりの大村さんが、早速やられてますよ!


 あ、ちなみにあの2人は正式にカップルになりました。厳密に言えば、大村さんが女になってる時はという限定条件付だけど。


 ただ、大村さん「高校卒業したら、もう女として生きていきます!!」とまで言い切ったからな。で、築城先輩の方もそれを受け入れたからなあ。2人とも真面目に見えて、意外なところが図太いというか何と言うか・・・まあ、お似合いだからいいけど。仲良く、愛を育んで行ってください。


 だけど、恋人のいない男からするとね・・・そう仲の良い姿を見せつけられると、何とも言えない気持ちになるんですよ。


 本当、モヤモヤする。


「おや~。もしかして、妬いてる?」


 厨房を預かるマリーさんが、さも面白そうな目でこちらを見てくるよ。


 ち、余計なことを。


「別にそう言うつもりは、ないですけど」


「羨ましいんだったら、さっさと正美ちゃんか司ちゃん、どっちかに決めたら?」


「だから・・・」


 あの2人が美女なのは認めるけど、流石に彼女とするのは・・・正体はアレですから。


「2人が男だってことを気にしてるなら、2人を本当に女の子にしちゃえばいいじゃない」


「あなたは、何を言ってるのですか!?」


 そんなの無理に決まってるでしょ。いや、2人ともその気は確かにあるっぽいけど、アレはあくまで精神も女になった装置による影響で、本心ではない!・・・多分、メイビー。


 しかし、マリーさんはそんな僕の言葉も気持ちもお構いなく。


「そのままよ・・・フフフ」


 何ですか、その意味深で不気味な笑みは。


「あ、そうそう。明日店長が来るからね」


「あ、いよいよ復帰ですか?」


 弘美店長、体調不良でずっと休んでたからな。ようやく復帰か。


「どうかしらね」


「うん?」


 今の言葉、どういう意味だ?


 もっと問い詰めたかったけど。


「オーダーお願いします!メロンソーダのフロートとモーニングのセットで!」


「は~い!・・・ほら、富嶽君。オーダー入ったから、手を動かす」


「了解です」


 注文が入った以上、無駄にお喋りしている暇はない。僕もマリーさんもすぐに手を動かし始めた。


 そしてこの後も、立て続けに注文が入ってしまい、結局マリーさんにそれ以上は聞けなかった。


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