文化祭 ⑥
「先輩!?」
僕は二重の意味でビックリした。先輩が女の姿のままであることに、そして何故かうちの学校の女子用制服に身を包んでいることに。
「どうしておん・・・何でそのまま?それに、制服はどうやって・・・まさか!」
いかんいかん、危うくその他大勢の前で不用意な発言をするところだった。
しかし、どうして女のままなのかはわからないが、制服についてはさっきの大村さんの態度から察しがついた。
「大村君・・・今は大村さんか。彼女からですか?」
「大正解。交換条件に用意してもらったのよ」
「交換条件?」
「ほら、彼女て女の子初心者だから。色々と先輩として教えてあげたのよ」
いや、先輩て。あなたも女の子になってから、まだ半年しか経ってないじゃないですか。
「半年でも先輩よ~」
ええい、何でこの人たちは僕の心の中を簡単に読めるんだ!?
「で、そのままなのは何でですか?」
「まあ、面倒だったのと、この姿で後夜祭に出てみたくなったから。それだけね」
「そうですか・・・そうなると、司先輩も?」
「ええ。今頃寛治君の相手をしてる筈よ」
「え!?あいつの誘い受けたんですか?どういう風の吹き回し!?」
「フフフ。最後に断った時、あんまりにも絶望した顔をしたから・・・まあ今日1日限定ていうことらしいわ」
「左様ですか」
司先輩のお情けってわけか。まあ、例えそうであっても、あいつ、天にも昇る勢いで喜んだんだろうな。
しかし、正美先輩も女の子の姿のままなんて。
先輩の姿をチラッと見る。
セーラー服に身を包んだ先輩の姿は、あの夢に出て来た姿そのままだ。普段のメイド服や、私服姿、水着姿も良かったけど、やっぱり素材がいいだけあって、セーラー服も良く似合ってる。
中身がわかっていても、悲しい男の性。普通に可愛いし、こんな美少女が傍にいて嬉しくない筈がないよ!
「はあ~」
「何よ、その溜息」
「いや、男て本当にダメな生き物だなと思って」
「ああ、わかるわかる。私もこの姿になって、何度もそう思ったわ」
「アハハ・・・そうですか。で、これからどうします?」
「あら、付き合ってくれるの?」
「放っておくと、いつバレるかわかりませんからね」
ちょっと皮肉を利かせてみる。
「むう。私そんなマヌケじゃないもん」
お、そのちょっと怒った顔もカワイイ。だったら。
「というわけで、短い時間ですがエスコートさせていただきます。正美お嬢様」
やったぜ!先輩が一瞬キョトンとした。やったぜ!奇襲成功だ。
「・・・そ、そう。だったら、遠慮なくよろしくお願いするわ」
やれやれ。
で、先輩のエスコートをすることになったわけだけど、まあ特に何かするわけでもなく、ブラブラと学校の中を回るだけだ。
だけど何でだろう。普段ならとっくに、下校している時間に歩いているのもあるかもしれないけど、風景がいつもとは全く違って見える。
その理由は明らかだけどね。
僕は、チラッと隣の先輩を見た。
「うん?どうかした?」
「いや、うちの学校の制服着ているせいで、普通に風景の中に溶け込んでいるなって」
うちの学校のセーラー服に身を包んだ正美先輩。普通に、うちの学校の女子生徒にしか見えない。
喫茶藍でメイドとして働く姿や、今まで見てきた私服姿、水着姿とも違う、正美先輩。ただセーラー服を着ているだけなのに。ただ学校にいるだけなのに。
それだけでとても新鮮で、今までにない魅力を放っている。
いかんな。あの夢が頭の中を何度も過る・・・ちょっと頭を冷やさないと。
ちょうどいいや、ジュースとお菓子が置かれているスポットがあった。
「先輩、ちょっと休憩しませんか?」
「別にいいけど」
僕は卓に置かれている紙コップを2つとった。
「何飲みますか?」
「じゃあ、オレンジジュースで」
「畏まりました」
僕は紙コップをとり、ペットボトルからオレンジジュースを注ぐ。
「さ、どうぞ」
「ありがとう」
そして、再び紙コップをとり、自分の分のジュースを注いで手にした。
「あれ?先輩まだ飲んでなかったんですか?」
先に飲んでいると思っていた先輩は、まだコップに口を付けていなかった。
「ええ。せっかくだから、乾杯しない?」
「ありがとうございます」
「「乾杯」」
ジュースを喉に流し込む。よく飲む市販のオレンジジュースだけど、心なしか今日は一層甘いように思えた。
飲み終えたコップをゴミ箱に捨てる。
「ねえ、教室に行ってみない?」
「え、教室に行っても何もないでしょ?」
文化祭の間、教室は各クラスの出し物をしていたけど、後夜祭の前に一通り片づけは終わってるはず。だから、行っても何もないのに。
「いいから、行きましょう」
「え、ええ」
まあ、別に断る理由もないので、僕は彼女の言うとおりにした。
向かったのは、先輩たち2年生の教室。普段は入ることのない上級生の教室だけど、昼間の熱気が嘘のように今は静まり帰って、暮れなずむ夕闇の中にその姿を隠そうとしている。
「ココが私の教室よ」
「知ってますって。何を今さら言うんですか?」
実際に入ったことはないが、この教室が先輩の教室であることくらい、僕だって知ってる。
「でも、女の姿で入るのは初めてよ・・・不思議ね。毎日ここで授業を受けて見慣れているのに、何故だが新鮮に感じるの」
そう言って振り返る先輩の姿が、夕日の光に照らされる。
「!?」
夏休みに見た朝日に浮かび上がる姿とはまた違う、神々しい姿に、僕は思わず息を飲んだ。
首を少し傾げ微笑む先輩が、まるで女神が天使に見えた。
「美しい」
自然とそんな言葉が、口から出た。
「え?」
「いや、あの・・・」
言ってしまってから、何て恥ずかしいことを口にしたんだと気づき、顔がカーっと熱くなる。
ダメだ、恥ずかしくて先輩の顔が見えない。まあ、どちらにしろ西日の逆光で、まともに先輩の顔は見えないんだけどね。
「今のは忘れてください」
結局こう言うのが精一杯だった。
「・・・」
「・・・」
いかん、場の空気が一気に重くなった。
何か話題を変えねば。と、教室の時計を見ると、都合のいい時間だった。
「そ、そろそろフォークダンスの時間ですね」
「・・・え!?ああ、そ、そうみたいね」
あれ?何だか先輩の声が、妙に上ずっている・・・もしかして、動揺させちゃったかな?
「先輩はどうしますか?ダンス行きます」
「ええ、行く気だけど・・・もしかして忠一君は出ない気だった?」
「まあ、踊る相手もいませんから」
「じゃあ、私のエスコートをしてちょうだい」
「・・・いいんですか?僕ダンスは得意じゃないですよ」
これは本当のこと。だけど。
「大丈夫よ。私がリードするから。ほら、行きましょう」
「わかりました」
僕たちはフォークダンスが行われるグラウンドに向かった。
グラウンドでは、スピーカーから流される音楽に合わせて、集まってきた生徒たちが既に踊り始めていた。
日が落ちて暗くはなっているけど、照明が点いているので別に苦にはならない。
見回すと、男女がほとんどだけど、女女も見受けられるし、一組だけど男男もいた。まあ、別に否定はしないけど。誰が誰と踊ろうと自由だし。
その考えに至った時、僕は自嘲気味に笑ってしまった。
「どうしたの?」
「いや、人て身勝手だなって」
「?よくわからないけど、ほら。踊りましょう」
「はい、先輩」
僕は先輩と手を繋ぎ、踊り始めた。先輩は言葉どおり、不慣れな僕をリードしてくれる。
距離が近いせいか、今さらながら甘い化粧品の香を感じ取れた。
「化粧したんですか?」
「ええ。まあ、学校の中だから薄くだけどね」
「そうですか・・・もう、すっかり女の子ですね」
「あら。それじゃあ、今まで私のこと、女としては見てくれてなかったってこと?」
「揚げ足取らないでください!」
本当に足を掬われそうだよ。
でも・・・
先輩と手を繋いで、その温もりを感じると、目の前の正美先輩が、本当の先輩のように錯覚しそう。
いけないな~。この時間は泡沫の夢に過ぎないのに・・・
だからこそ、しっかりとこの時間を楽しまなきゃな。
そんなことを考えているうちに、ダンスの時間は終了。
少し火照った体を冷ますために、飲み物を1杯ずつ口にして、たわいもないお喋りを少ししたところで、僕らの文化祭は終わ・・・らなかったんだな。これが。
最後の最後で、大事件が発生した。
それはマーさんたちの元に戻ろうと廊下を歩いている時だった。
「富嶽君!」
あ、大村さんの声だ。
と思って振り向いた僕と正美先輩は、それはそれは驚いた。なぜなら。
「「え!?」」
そこにいたのが、大村さんだけじゃなかったから。
「こんばんは、お二方」
大村さんと腕を組んでいる男子生徒。僕も先輩もよく見知っている顔の生徒会長。
築城先輩がそこにいた。
そして、次に大村さんが口にした言葉に、僕たちは凍り付いた。
「ええと、ごめんなさい・・・春人さんにバレちゃいました」
「「何だって~!!??」」
これ以外のセリフが出てこない。そんな僕たちを、築城先輩は見据えて。
「ふむ、まさか今学内で話題の美少女メイドが、あの問題児の岩川君とはね。事実は小説より奇なりとは、よく言ったものだ」
その言葉に、開いた口が塞がらない。
どうしてこうなった!?
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