文化祭 ➁
喫茶藍が模擬店参加を決定した2日後。その喫茶藍に、普段なら絶対に来ないお客さんが来た。何せ、うちの学校の制服を着た生徒だからね。
「店長、うちの学校の生徒会長の築城先輩と、書記の大村玲君です」
「初めまして、築城です。この度はお世話になります」
「大村です。よろしくお願いします」
「話は富嶽君から聞いたわ。店長の挙母です。こちらこそ、今回はよろしくお願いしますね」
店長が手を差し出すと、築城先輩も手を差し出して握手する。
うちの店が模擬店出店オーケーを報せると、築城先輩は挨拶と説明に伺いたいと言ったので、今日の顔合わせになった。
ちなみに、話しているのはお店の隅っこの客席。
店長は基本的に、取引先の人と話をしたりするのも客席でしている。厨房の奥には人を入れない。これはお客さんがいない時間を選んでいるから、奥に入れる必要がそもそもないということもあるけど、それ以上に万が一にも性転換装置を見られるのを避けるためだ。
もっとも、そんなこと億尾にも出さず、店長は築城会長と、淡々と話を詰めていく。
「店長、お飲み物をお持ちしました」
「お茶菓子もどうぞ」
「ああ、ありがとう正美に司」
3人分のコーヒーとお茶菓子をお盆に載せた先輩たちがやって来たけど、心なしか笑顔が引き攣ってるな。
まあ、ないとは思うけど自分たちの正体バレたら「面倒」どころではないことになるし。
「ありがとうございます・・・お2人はうちの生徒ですか?」
すると、明らかに2人とも「ギクッ!」としたぞ。おい、大丈夫か!?
「アハハハ!そんなこと、あ、あるわけないじゃにゃいですか!」
「そ、そそ、そうですよ。私たちは普通に違う学校の生徒ですよ!」
いや、作り笑顔で乾いた笑い声。でもって、噛んでるし。普通だったら説得力0だよ、先輩たち。
「う~ん。何か気になるが・・・まあ、あなた方がうちの学校の生徒だったら、顔を覚えている筈ですし」
うん、さすがは築城会長。2人がうちの学校では見ない顔であることを、ちゃんと認識してるね。
でもって、2人ともメチャクチャ安堵の息吐いてるよ。
「今回はこの2人も手伝いに参加しますので」
「そうなると、許可証は富嶽君を除く3人分でよろしいでしょうか?」
昨今の物騒な世の中なのもあって、うちの学校の校内に部外者が入る場合は、基本的に事前に申告して許可証がいる。今回はそれを人数分発行してもらうことになる。
「あ、できれば4人分で。材料などの納入を任せている人がいるので、その人の分も頼みたいの」
「わかりました。では、4人分を発給いたします」
もう一人の分は誰の為かは聞いてないけど、まあ大方性転換装置の付き添いとしてくるマーさんか、
手伝い兼後ろ暗い仕事役のマリーさんあたりだろう。
その後、当日のタイムテーブルや持ち込む道具、使える部屋のことなど、必要な説明や取り決めをして、築城会長たちは帰っていった。
「あ~、良かった」
「バレたらもう、生きていけないわ」
正体がバレずに済んだ2人は、心の底から安心したみたい。まあ、言っちゃ悪いけど、男の時との差が激しいから、余程のボロを出さなきゃ同一人物とバレる心配なんかないと思うけど。
「はいはい。2人とも、この後は普段通り営業なんだから、頭切り替えて仕事仕事」
「「は~い」」
店長と僕は厨房へ、そして先輩たちは客席へ。いつもどおりの仕事に戻る。イベントがあるからと言って、普段の仕事がどうこう変わるわけじゃない。
今日も頑張って行こう!
その後、当日模擬店で出すメニューや、当日のタイムテーブル、客席とする教室の配置なんかを仕事の合間に話し合いで決めつつ、あっと言う間に月日は過ぎて、いよいよ文化祭の当日となった。
この前日、喫茶藍を出店する教室(調理場となる家庭科室に隣接する部屋)に、僕と生徒会の役員さんたちで必要な椅子や机を、陽が落ちてからもセッティングしていたので、久々に僕は喫茶藍のアルバイトに行かなかった。
その代わり、この日早朝からお店から道具や作業着を持ち出したりする羽目になったけど。
まあ、それもいい思い出というやつだろう。
そんなこんなで、開店に向けての最終準備を、僕と店長で進めていると。
「それじゃあ、よろしくお願いしますね」
開店直前、築城会長たちがやってきた。どうやら様子を見に来たみたい。
「おや?ウェイトレスのお2人がいないようですが?」
「あの2人は私用がありまして、もうすぐ入ることになっています」
「そうですか。何にしろ、今日と明日の2日間、よろしくお願いいたします」
うちの学校は2日間開かれる。なので、お店も今日明日と2日間出すことになる。
とは言え、店員は5人しかいないし、先輩たちは自分たちの予定があるので、時折中抜けしないといけない。自分たちのクラスの出し物とか、助っ人を頼まれている部活の出し物とか。
うん?僕ですか?クラスの出し物は模擬店手伝いと言うことで免除。そして部員もいない畑仕事をするようなサークルに、出し物なんてありません。
なので、僕は喫茶藍専従なのです。
ただ逆に言えば、先輩たちが来るまでは僕と店長でがんばらなければいけないわけで。
「はい、コーヒーとケーキのセット2つですね・・・お茶と和菓子のセット3つ!承りました!」
店長が厨房に掛かりっきりなので、接客は僕だけでやらないといけない。注文をメモして、店長に渡して、店長が準備したものをお客様に出す。そして食べ終えたお客さんの会計。
とにかく、この繰り返し。
ちなみに、今回の模擬店で出す料理は値段の高い一部を除いて、基本的に店で用意したものを、配膳して出すようにした特別メニュー。だからポンポン出せる。出せるのはいいんだけど、接客が僕だけなので、つまり負担は僕だけに掛かる。
ええ~い!先輩たち、早く来んかい!
「すいません。遅れました!」
「応援に入ります!」
開店して1時間あまり。やっと先輩たちがやってきた。もちろん、女の姿でだ。
その姿に、店内の一部から感嘆の声があがった。まあ、2人とも女の時はレベル高い美少女だからね。
だけど、今はそんなの関係ねえ!
「遅いですよ先輩!さっさと手伝ってください!こっちは、てんてこまいなんですから!」
「ごめんごめん」
「すぐ着替えるから待ってて」
と謝りながら、先輩たちは更衣室としている隣の部屋へ。そこで今着ていた私服から、喫茶藍での制服であるメイド服に着替えるわけだ。
ちなみに、先輩たちの性転換は学校の駐車場に止めたトラックの中に据え付けた、性転換装置で行う。
トラックにはマーさんとマリーさんがいて、構内への機材と資材搬入の許可証を貰って入ってる。
マーさんが性転換装置の保守役で、マリーさんは万が一に備えての護衛役兼、お店の助っ人にも入る予定。
ただ今のお客さんの入りから見ると、先輩たちが入れば何とかなりそう。
「ごめんね、忠一君」
「お待たせ~」
数分後、着替えを終えた先輩たちが登場し、先ほど以上の感嘆の声が男女問わず漏れた。
そりゃね、レベルの高い美少女が正統派のメイド服身に付けてるんだから、その破壊力は抜群だ。
「じゃあ、接客お願いしますね。僕は店長の手伝いに入ります」
「オッケー!」
「任された!」
2人はいつもの喫茶藍でのように、キビキビと仕事を始めた。
一方僕も、店長の手伝いに入る。
「店長、手伝い入ります・・・店長、大丈夫ですか?」
僕は店長の異変に気付いた。何と言うか、顔色が悪い。
「ああ、富嶽君。大丈夫」
とは言うけど、明らかに調子が悪そうだ。
「いや、大丈夫に見えませんけど。お疲れじゃないですか?少し休んだ方がいいですよ」
「でも、私が休むと・・・」
「マリーさんを呼びましょう。彼女なら、代理で仕事できるでしょうから。店長が倒れる方がことですよ」
万が一店長が倒れれば、喫茶藍の営業に関わるのもあるけど、それとともに性転換装置の秘密を公にする切欠になりかねない。何せ、今の店長は仮初の姿で、本来はいない人間なんだから。
店長もそのことはわかっているらしくて。
「そうね・・・忸怩たる想いだけど、応援を呼ぶしかないわね」
店長は手を止めて、スマフォを取り出す。きっと外に待機してる2人に連絡を取るのだろう。
「じゃあ、僕は先輩たちに伝えてきますから」
「お願い」
客席に出た僕は、先輩たちを手招きして呼び寄せ、2人に店長の体調不良と、マリーさんへの交代を告げる。
「店長大丈夫なの?」
「あんまり大丈夫な様子ではなかったですけど」
「働き過ぎなんじゃない?昨日も今日のために色々準備してたから」
司先輩の言う通り、ここのところ普段のお店の仕事に加えて、この模擬店の準備もしていたから、過労かもしれない。
「とにかく、そう言うわけで調理担当は店長からマリーさんに変わります」
「オッケー!」
「わかったわ!」
そして数分後。
「店長、交代しますよ」
マリーさんがやってきた。そしてまた場がざわめいた。まあ、いきなり外国人の美人さんが来たらねえ。
「悪いわね、マリー。後は頼むわ」
「お任せください!お仕事もお店もしっかりと守りますから!」
笑顔で言うその言葉に、何か別の意味があるような気がしたけど、まあいいや。今は仕事だ。
しかし、この時は店長の体に、まさかあんなことが起きているなんて、思いもよらなかった。
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