文化祭 ①
カレンダーは9月となり、はじめは厳しかった残暑も20日を過ぎた頃にはようやく落ち着き始め、朝夕には涼しさを感じるぐらいになった。
陽が短くなったのと相俟って、いよいよ秋だなあ、と感じつつも僕が送る日常は夏休み前とそう変わりはない。昼間は学校で授業を受けて、夕方からは喫茶藍でのアルバイト。
で、岩川先輩はと言えば、夢であったように男に戻れなくなって、女の子として生きることに・・・なんてことはなく、ちゃんと海から戻ってきたあとには男に戻っていて、鹿屋先輩と一緒に昼間は普通に男として生活している。そして相変わらず夕方お店に出勤すると性転換装置で女になって、お店で働く間だけ女になってる。
本人には言えないけど、安心した反面、ちょっとだけ残念に思う自分がいることに、情けなさを感じてしまう。
このことは、絶対にバレない様にしなければ・・・
で、そんなこんなのうちに、カレンダーはあっという間に9月も中旬。期末テスト(うちの学校は2期制)に、11月の頭に行われる文化祭の準備と学校内も慌ただしい中、その人に声を掛けられたのは、授業も終わって喫茶藍に出勤しようと教室を出たところだった。
「君が富嶽君かな?」
振り返るとそこには、長身のハンサムな3年生と、対照的に小柄で童顔の1年生の男子が立っていた。
1年生の男子は知らない顔だけど、3年生の男子はよく知ってる顔。いや、直接話したことはないけど、朝会とかでよく見る顔。
「そうですけど・・・生徒会長が僕に何の御用でしょうか?」
生徒会長の築城春人先輩。1年の子は知らない顔だけど、生徒会の腕章を巻いているのを見るに、どうやら生徒会の役員らしい。
にしても、何かやらかした記憶なんかないんだけど、何故に生徒会長たちが僕のところに?
「君はたしか、喫茶店でアルバイトをしていたね」
「ええ。学校から、許可をもらっていますけど、何か問題ありましたか?」
うちの学校はアルバイトは許可制だけど、僕はちゃんと許可はとってあるぞ。
「いや、それについて問題ではない。話は別にある。実はだ・・・」
築城先輩の話を聞いて、僕はどうして声を掛けられたのか理解した。それと同時に、厄介な話を押し付けられたと思った。
「学校の文化祭の模擬店?」
「はい。生徒会長から頼まれまして」
喫茶藍に出勤すると、僕は生徒会長からの頼まれごとを店長に伝えた。
今僕たちは従業員用スペースで顔を突き合わせて話している。もちろん、先に出勤していた、既にメイドさんモードの正美先輩と司先輩もいる。
「何でうちの店に模擬店を依頼するなんてことになったわけ?」
「本当本当。うちの学校の模擬店て、確か毎年PTAと生徒会が出している店だけじゃない」
2人がそんなことを言う。
僕たちの高校では、毎年11月頭の文化の日近辺で、文化祭が行われる。この文化祭は学生だけじゃなくて、父兄やOB、それから招待状を出した近隣の人たちを招き入れて大々的に行われる。僕も去年オープンキャンパスでもらった招待チケットを使って入った
そんなお祭だからか、文化祭では模擬店も出る。ただし、高校の文化祭の模擬店だからお店自体は先輩たちの言う通りPTAと生徒会が運営しているらしい。
ただし。
「運営は確かにそうなんですけど、調理とかはPTAでレストランとか料理を出す店の人がやっているそうなんです。ところが、今年やる予定だった人が急に入院したらしくて」
「なるほどね。それで生徒がアルバイトしている飲食店に協力を取り付けようてわけか」
「そう言うことです、店長」
「でも、うちの店にそんな余裕ないんじゃないかな?」
司先輩の言葉に、正美先輩もウンウンと頷いている。
確かにね。うちの店は基本的に休みないし、店で働く人員に余裕があるわけでもないし。
とは言え、決めるのは店長だけど。
「余裕がないことはないわよ。人手のほうは、この間たくさん手に入れたから」
ほらね。店長が全く問題ないとばかりにそんなこと言うよ。
ちなみに、僕たちも学習しているので、店長の発言の不穏な部分に突っ込むなんてことは、もうしていない。したら負けだ!
「問題があるとすれば、保健所の許可とかそっちかしら?」
「ああ、そう言う面倒な手続きは全面的に協力してくれるそうですよ」
そう言う事務関係は、しっかりバックアップしてくれるとのことだった。
「そう・・・だったら協力してもいいかな。うちのアルバイトの子たちがお世話になってる学校からの依頼なんだし。せっかくだから、ただ料理するだけじゃなくて、お店ごと出張しようか」
うん?お店ごと出張?
「え?どういう意味ですか?」
「そのままよ富嶽君。調理だけじゃなくて、接客まで全部請け負うのよ」
すると、先輩たちがギョッとした。
「それってつまり・・・」
「私たちに女になって接客しろと?」
「そう言うことになるわね」
と、軽く言う店長だったが、先輩たちは今までにないくらい戸惑っている。
「待ってくださいよ!さすがにそれは嫌ですって!」
「正美の言う通り!知ってる顔ばかりの中でなんて、さすがに恥ずかし過ぎます!」
「大丈夫大丈夫。女のあなたたちを見ても、誰も同一人物だなんて思わないって」
それについては、僕も店長と同意見。前提として性転換装置を知らない人間が、どこをどうしたら、あのムサイ先輩たちと、この可憐な美女たちを同一人物と結び付けられるのやら。
「チュウ君、今失礼なこと考えたでしょ?」
正美先輩が睨んでくる。怖いからやめてください。
「ハハハ、キノセイデスヨ」
「はいはい、漫才してないで。とにかく、お店の方針として文化祭の模擬店については協力します。生徒会長さんにはそう伝えておいてちょうだい。それから、詳細を詰めたいから、一度お店に来てもらうようにともね」
「了解です。店長」
こうして、我が喫茶藍はうちの高校の文化祭に出店が決まった。
ただし、先輩たちの方を見ると不満かつ不安そう。
「2人ともそんな顔しない」
「「でも~」」
「デモもストもサボタージュもない!安心しなさい、ちゃんとこっちで何とかするから」
「けど、私たち文化祭当日は他にも予定あるんですよ」
先輩たちも自分のクラスの出しもののこととか、男としての予定は当然あるだろうな。そうなると、お店に掛かりっきりとはいかないし、女の姿でずっといるっていうのも無理だよな。
でも、店長は何か自信ありげだ。
「そっちも大丈夫だって。移動式の性転換装置を持ち込めば、学校にいる間も変身可能よ。流石に体に負担があるから、回数は制限されるけど、そんな10回も20回も変身することなんてないだろうし」
「移動式の性転換装置?」
それは僕たちも初耳だった。
「そうよ。夏の間に実用化の目処がついたから。なにせ実験材料やデータには事欠かなかったしね」
本当にあっさり恐ろしいこと言ってくるな、この人。
「移動式てことは、車とかに載せるてことですか?」
「厳密には2トントラックね。発電機とかとセットになってるから、どこでも行けるわ」
いつの間に・・・というか、マリーさんたちの後ろに見えたトラックそれか!
そうなると、あのトラックに連れ込まれたチンピラたちは・・・まあ、いいや。
「じゃあ、先輩たちは移動式性転換装置で適宜男に戻ればいいですね」
「でも、誰かに見られたらどうするんですか?」
う~ん。正美先輩も粘るな。
「そこは、うちの専属SPを配置するから大丈夫よ。見られたらその時は、彼女たちが片づけるって」
もう、突っ込んだら負けだな。そして店長、受ける気満々だわ。これは何を言っても無駄っぽい。
「正美先輩、司先輩。もう諦めましょうよ。店長の決断を覆すなんて無理ですって」
「「裏切り者!!」」
そう言われても、店長には逆立ちしても逆らえませんって。
「フフフ。決まりね。そう言うわけで富嶽君。生徒会長さんにはオーケーと伝えて頂戴」
「了解です・・・お店には来てもらいますか?」
「もちろんよ。色々と打ち合わせる必要あるし。あ、何ならこっちから出向いてもいいわよ」
「わかりました。そう伝えておきます」
「うん、よろしくね」
こうして、喫茶藍が僕たちの高校に出張することが決まった。まあ、僕は全然オーケーなんだけど。
先輩たちを見ると、めっちゃ顔引き攣ってるね。
「大丈夫ですって先輩。バレやしませんって」
「でも、でも。万が一てこともあるじゃない」
「バレたらもうお嫁に行けないわ!」
あの司先輩、そこはお婿では・・・今は女だから嫁でいいのか?
「僕も全力でフォローしますから」
「そうそう。前向きに行かないと!」
店長は対照的に楽しそうだな。
「だって、データをとるいい機会だし」
はいはい、左様ですか。
「まあ、こっちも出来る限り手を打っておくから。万が一バレても、その時はバレた相手をアレすればいいだけだし」
「・・・アレとは?」
なんとなく、ここはスルーしちゃいけないと思って突っ込んでおく。お約束的に。
「富嶽く~ん」
はいはい、突っ込んじゃいけないやつですね。
結局、最恐の笑みで黙らされたよ!
やれやれ、無事に上手く行けばいいけど。
「それをフラグと言う」(by正美)
「縁起でもないこと言わんでください!」
あと、何度も言うけど心の中読まんでください!
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