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夏休み ⑥

 お祭の会場になっている神社に着くと、そこには参道に沿って20件ばかりの出店が並び、老若男女問わず多くの人たちが集まっていた。


 出店の人たちの客寄せの声や、自家発電機のエンジン音がその喧騒に合わさって、小さなお祭ながらも賑やかに見える。


「それじゃあ、まずはお参りと行こうか」


 マーさんに促され、僕たちはお社へと向かう。向かうのはいいんだ・・・けど。


「視線が痛い・・・」


 いや、全然よくない。


「いいじゃない。どうせ今だけなんだし」


「ほら、見せつけてやれ~」


 元凶の2人が呑気なことを言ってくれる。


 正美先輩も司先輩も、相も変わらず僕の腕と自分たちの腕をガッチリと組んでいる。当てるのはやめてくれたけど、これだって充分恥ずかしい。


 そして、周囲からは明らかに殺気を感じる。これはアレだ。嫉妬の視線だ。


 そりゃ、こんな美少女2人を侍らせている男を見つけたら、僕だって殺意を覚えるだろうな。ましてや男の方は、パッとしないときているし、


 でも、安心してください。この2人は今こそ女ですが、本当は男なんです!だから浮ついた話なんて欠片もありません!!・・・そう叫べたらどれだけ楽なことか。


 そんな短くも恐ろしい羞恥の時間は、お社の前に着いたことでようやく終わる。


「ほら2人とも、お参りしますから。手を放して」


「「は~い」」


 やっと両腕が自由になった。


 僕はポケットから財布を取り出し、その小銭入れから5円玉を出した。


 店長たちや先輩たちもそれぞれ賽銭を投げ込む・・・て、店長とマーさんお札入れてるな。先輩たちも明らかに僕より大きな額の硬貨投げてるし。


・・・僕はそっと100円玉も足して賽銭箱に投げた。


 そして、型通りの二礼二拍手一礼をした。


「ねえねえ、忠一君は何をお願いしたの?」


 参拝を終えて社を背に歩き出した途端、正美先輩がいきなり聞いて来る。いや、無粋にも程があるんですけど。


「秘密です」


「ええ~。いいじゃない。カワイイ先輩にちょっとくらい教えてよ」


 司先輩も悪乗りしてくる。


 ちなみに2人とも、また腕を絡めてきた。


「イヤです。例え美人な先輩たちでも、何で内心までさらさにゃならんのですか」


「「び、美人・・・」」


 おお、顔を赤くして俯いてらっしゃる。まったく、大人しくしていれば可愛いのに。


 ちなみに美人と言うのは本心だからね。


 さてと、出店の列まで戻ったし、頭切り替えていきますか。


「ほら、2人とも。俯いてないで、何か食べていきますか?奢りますよ」


「え!?」


「いいの!?」


「先輩たちには日頃お世話になっていますから」


(ついでに手が塞がれれば余計なこともしないだろうしな)


 う~ん。自分でも見事というくらいの本音と建て前だな。これは。


 でも、今の先輩たちならこれで充分。


「じゃ、じゃあ。お言葉に甘えちゃおうかな」


「やっぱり持つべきものは、いい後輩だね」


 ちょろい。でも、その笑顔は反則ですよ。


「じゃあ、何食べますか?」


「りんご飴!」


「チョコバナナ!」


 見事に甘いもの。まあ、買えない値段のものでないから全然いいけど。


「はいはい」


 と言うわけで、それぞれの屋台に行き先輩たちの分を注文。


「兄ちゃんは買わないの?」


「僕はいいです」


 とお店の大将に薦められたけど、さすがに両方同時は無理。


 だから間を取って、別の屋台で売っていたラムネを買った。


「甘~い」


「おいしい」


 幸せそうに口を頬張らせる2人に、奢った側としては素直に嬉しくなる。心なしか喉に流し込むラムネの清涼感がいつにも増して感じられる。


 にしても、2人とも男の時は甘い物をそこまで好んでなかったのに、これも女性化による人格の変化なんだろうね。


「ねえねえ、次は何食べよう?」


「だったらたこ焼きだったら、シェアできるよ」


「いいですね」


 夕飯のことも考えると、それで終わりかな。僕たちはたこ焼きの屋台に行って一皿注文した。


「じゃあ、はい」


 と、いきなり正美先輩が僕にたこ焼きを差し出してきた。


「・・・はい?」


「はい、じゃないでしょう。食べさせてあげるってことよ」


「はあ?」


「ああ!ズルいよ正美!ほら、忠一君。私の方がおいしいから、私がアーンしてあげる」


「いや、同じたこ焼きでしょ!2人ともやめてください!」


 本当ヤメてください2人とも。特に今回は周囲の視線が!それこそ嫉妬を超えた殺気を感じますから!


「私が食べさせてあげるの、そんなにいや?」


 その上目遣いヤメい!ワザととわかっていても、メチャクチャ罪悪感を感じるじゃないですか!でもって、司先輩もマネするな!それ、周囲の燃え盛る炎に、ガソリン満タンのドラム缶を投げ込むようなものですから。


 ほら、周りがスゴイことになってきたじゃないですか!


「イヤとかイヤじゃないとかじゃなくて・・・とにかく、ここから離れますよ!」


 とにかく居心地の悪さが半端ないので、お祭会場から全力で離脱。


「たく、2人とも周囲の目があるんですよ!自重してくださいよ!」


「え~」


「いいじゃない、アレくらい」


「2人とも本気で言ってるんですか。あの周囲から発せられ「おい!テメエ!」


 ふいに背から掛けられた怒声に振り返れば、如何にもガラの悪いヤンキーが2人。


「テメエ!そんなマヌケ面のくせに、両手に華とか、いい身分じゃねえか!」


「見せつけてんじゃねえよ!ふざけんな、こら!!」


「ほら!余計なの呼び込んじゃったじゃないですか!」


 インドアな僕に、こんな連中の相手できません!


 でも先輩たちは余裕綽々。何故に?


「大丈夫大丈夫」


「すぐにあの人たちが来るから」


「うん?あの人たち・・・ああ」


 何となく察しがついた直後。


「ちょっと、いいかな君たち?」


「相手なら私たちがしますわよ」


「ああん!?・・・おほ!」


「お姉さんたち、何か用か?」


 ヤンキーの背後からマリーさんとエミリーさんが!いつの間に・・・


 外国人美女に声を掛けられて、途端にヤンキーたちが鼻の下伸ばしてるよ。


「「ウフフフ・・・」」


 う~ん。2人ともとってもいい笑顔なんだけど、何だろう?纏っている空気が明らかにアレだ。剣呑すぎる。さっきの嫉妬のそれとは違う、何か黒いものをまとっている。


「「八ツ!」


「「ゴフッ!!??」」


 うわ~。一撃でヤンキーのしちゃったよ。


「オホホホ。3人ともケガはない?」


「全く。日本は平和ぼ・・・じゃなくて安全な国って言いますけど、やっぱりおバカさんはいるものですね~」


 今更だけど、マリーさんとエミリーさんも浴衣着てるな。その格好であの早業て、逆に恐ろしいな。


 で、のしたヤンキーはどうするんだろう?


「あの、助けてもらえたのはいいんですけど・・・その人たちどうするんですか?」


 すると、相変わらずの笑顔でマリーさんが事も無げに答える。


「ああ、大丈夫。私たちに全部任せておいて」


「皆さん~こちらですよ」


 エミリーさんが手を挙げると、どこからから何人もの女の人たちが・・・皆浴衣を着た美人さんばかりなんだけど、何だろう?何と言うか得体の知れない雰囲気が。


 でもって、気絶しているヤンキーたちを持ちあげて運んでいくし。運んでいく先には1台のトラックが・・・


「あの・・・あれって」


「「・・・」」


 やめて!その冷たい笑顔で見つめてくるのやめて!!


「忠一君」


「私たちは何も見なかったことにしておきましょう」


 先輩たちの言葉に、マリーさんとエミリーさんが小さく頷く。そのとおりにしろ!と無言で圧掛けられているようなもんだよ、これ。


「イ・イエス・サー」


「それじゃあ、私たちはこれで失礼します」


「お祭楽しんでね」


 いつの間にかさっきのトラックは消え、そして2人の姿も掻き消えるようになくなっていた。


「あの人たち、忍者か!?」


「忍者ではないと思うよ」


「何にしろ、敵にしちゃいけないのだけは、間違いないわね」


 司先輩の言う通りだよ。これまでの状況証拠から見て、あの人たちも元男なんだろうけど、外国人であることも併せて、一体どんな裏事情があるのやら。


「とにかく、邪魔者も消えたし。お祭を楽しみましょう」


「そうそう」


「楽しむのはいいですけど、余計なアクシデント呼び込まないために、腕組むのやめてください。と言うか、やめろ!」


「「ええ~」」


「ええ、じゃない!」


 一々あんな輩を、光に群がる虫よろしく引き寄せては堪らないよ!ついでに、あの人たち(マリーさんとエミリーさんね)を再登場させるような事態もね!


「僕の隣を歩くまでは許しますけど、それ以上は許しません!」


 さすがに強い口調で言ったせいか。


「仕方がないな~」


「うう、残念」


 2人とも渋々、本当に渋々だね。ようやくのこと腕を解いでくれた。まったく、色々残念なのはこっちですよ、正美先輩。


「それじゃあ、仕切り直して行きますよ」


「「は~い」」


 たく。


 2人とも顔に「不満」と大書きしているよ。でも、さすがにこっち譲れないものはあるんですよ!


 やれやれだよ。あ~、腕が楽になった。


 色々あったけど、今度こそゆっくりお祭を回れるな。あと、2人の機嫌を多少なりとフォローしないと。さてさて、どうしたものか。

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