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嵐(いろいろな意味で) ⑨

「じゃあ、先にいただくね」


「ごめんね、忠一君」


 先輩たちが僕に頭を下げてきた。2人の前には注文した料理である、カレーライスとハンバーガーが既に湯気を上げて並んでいる。対して僕の目の前には料理ではなく、呼び出し機があるだけだ。最後に注文しただけに、まだ料理が来ていないからだ。


「どうぞ、お構いなく。料理が冷める前にどうぞどうぞ」

 

 これは単に順番だから、別に気することでもない。


 僕は呼び出し機を手の中で遊ばせながら、2人の食事の様子を見る。別に2人の食べ方が汚いとか、おかしいとかそう言うことはない。それは家での食事でわかっている。


 ただ気になるのは、2人が注文した料理の量。


 司先輩のカレーライスは明らかに大盛りで、そして正美先輩のハンバーガーセットはどう見ても、ハンバーガーもポテトも飲み物も普通より大きいLサイズだ。


 注文品を持って来た時に思わず「そんなに食べられます?」と、思わず聞いてしまった。外見で決めつけていけないのはわかっているけど、2人の外見から比べると、どうしても多過ぎるという印象を持ってしまう。


 ただし2人はと言えば。


「大丈夫大丈夫」


「余裕でいけるって」


 全く意に介していない。


「太りません?」と聞きたかったけど、そこは口に出さずに何とか思いとどまった。


 そして2人が食べ始めた直後、僕の手の中の呼び出し機がけたたましく呼び出し音を立て始めた。


「じゃあ、僕取りに行ってきます」


「「行ってらっしゃい」」

 

 席から立ちあがり、注文したラーメン屋に行く。


「お待たせしました。ラーメン甘味セットです」


「ありがとうございます」


 店員さんに呼び出し機を返して、ラーメンと味御飯、ソフトクリームのカップが載ったお盆を手に取る。コップに水を注ぎ、ラーメンに胡椒を掛け、最後にお箸を借りて準備完了。


 コップの水やラーメンのスープを零さないように注意しながら、席へと戻る。


「それじゃあ、僕もいただきます」


 と、2人の方を見れば、カレーライスもハンバーガーも半分ほどまで減っていた。そして勢いもそのままに、なおも食べ続けている。


 これは多分2人ともいけるなと思いつつ、僕もラーメンをすする。この地方のフードコートに大抵ある地元企業のラーメン。鶏ガラのスープは子供のころから食べ続けているだけに、安心して食べられる。値段もリーズナブルで、全国展開する牛丼屋にも負けないレベル。


 でもってスタンダードなラーメンもいいけど、何と言ってもセットメニューが、僕のような甘いもの好きには堪らない。何せセットにソフトクリームをチョイスできる。


 セットにすると、さすがにワンコインは無理だけど、御飯もついてボリューム満点。それでもって食後にデザートが来るんだから、本当いうことなしだ。


 ラーメンの麺を食べ終えると、残ったスープを御飯にぶっかけて食べる。行儀悪いとか言われることもあるけど、御飯に染み込むスープの味とお茶漬け感覚で食べられるのだから、これもやめられない。


 先輩たちもその点わかっているらしく、何も言ってこない。こういう時理解ある女性(中身は男だけどね)相手と言うのは助かるなと、実感した。


 ただし・・・


 ジ~・・・


 ジ~・・・


 カップに入ったソフトクリームに手を付けようとした瞬間、視線を感じた。ただし、その視線の発信源はすぐにわかった。


「先輩たち・・・まさか僕のソフトクリーム狙ってらっしゃる?」


 見れば2人とも既に自分の料理は食べ終えている。あれだけ食べて、まだ食べる気か!?


「ええ、まさか~一口だけでもいいから欲しいだなんて、そんなこと微塵も思ってないよ」


「そうそう。食後にやっぱり甘いもの欲しいな~うらやましいな~なんてこれっぽっちも思ってないよ」


「本音だだ漏れやないですか、あんた方。食べたければ自分で買ってこればいいじゃないですか!だいたい僕のなんか既に溶け始めてるし」


 デザートは食後受け取りも出来たけど、並び直すのが面倒だからラーメンと同時出ししてもらった。そのせいで、既に溶け始めている。自分で食べる分ならこれでいいけど、先輩たちが食べたいなら自分で買ってこればいいのに。


「それはそうなんだけどさ~」


「人が食べているから、欲しくなるって言うか」


 こ、こいつら!


 だけど。


「たかが100円代のソフトクリーム相手にそんなこと言わんでください。自分の心が貧しいて思いませんか?」


「「ぐ!?」」


「食べたければ、自分で買ってください。お2人が食べてる間、待っていてあげますから」


 そこまで言って、やっとこさ2人も諦めがついたようだ。


「はあ~わかったわよ」


「司、行こう」


「うん。じゃあ、ちゃんと荷物見ててね」


「わかってますって」


 2人は財布を手に、ソフトクリームを買いにお店の方へ歩いて行った。


「全く、2人とも大人げないんだから」


「「まだ高校生よ!」」とか言われそうだけど、さっきのは本当に子供じみていたから、やめて欲しい。特に人の至福の時間を邪魔をするのは。


 ま、これで静かになったからヨシとしよう。


 僕は一人静かにソフトクリームを堪能した。


「戻ったわよ~」


「荷物番御苦労様」


 数分後、2人が買ったデザートをそれぞれ手にして戻ってきた。


「あ、お帰りなさい。て、2人ともソフトクリームじゃないんですね」


「いや~、お店の看板見たら目移りしちゃって」


 たく、人から奪おうとしたくせに。まあ、いいけど。


「司先輩はソフトぜんざいで、正美先輩はいちご氷ですか。確かにそれもおいしいですよね」


 司先輩のソフトぜんざいは、餡子の上にソフトクリームがトッピングされている。見るからに甘そうだけど、食べて見ると意外に甘ったるくなく、むしろちょうどいい。多分そう言う塩梅に調整されているんだろうな。いちご氷はイチゴ味のシロップが掛かったかき氷デザート。この時期には早いと思えなくもないけど、まあそこは人それぞれだからね。


「あら、忠一君はどっちとも食べたことあるの?」


「ええ、あの店のデザートは一通り食べてますから・・・先輩たちは?」


 すると、2人は苦笑いした。


「男だった時は、それほど甘いものに興味なかったから」


「出されれば食べるけど、自分から食べたいと思うほどじゃないって言うか」


「ああ、ありますよね。そう言うの・・・でもそうなると、やっぱり味覚も変わってる?」


「て、ことになるのかな?」


「心まで女の子になっちゃってるしね」


 確かに。正美先輩の言う通り、男としての記憶は残っている筈なのに、2人ともしっかり女の子してるしな。そう考えると、店長の性転換装置、改めて恐るべし。


 でも、まあ。


「う~ん、甘い!」


「おいしい!」


 甘味を食べて幸せそうにしている二人を見るに、それはそれで悪いことでもないのかなと思ってしまう。と言うか、本音を言うとこの2人を男に戻すのって、何か惜しいことしてるような気がする。


 2人の前では口が裂けても言えないけどね。


 と、ちょっと後ろめたい気持ちを抱えている間に、2人もデザートタイムを終える。


「さてと、食事も終わったし。午後は何しよう?」


「せっかくだから、お店見てこうよ」


 正美先輩の言葉に、大体そのお店と言うのがどんな店か見当がついた。


「それってやっぱり服とか化粧品ですか?」


「ええと、やっぱりダメ?」


「ダメとは言いませんけど、前にも言いましたけど無駄じゃないですかってことです」


 2人とも明日には男に戻るのに、これ以上買い揃える必要があるのか?と言うのが僕の正直な気持ちだ。


「まあまあそう言わないでよ。今の私たちは完璧な女の子なのよ。その間くらい夢見てもいいじゃない」


 今妙に完璧を強調したような・・・まあ否定できないけど。


 でも念押しはしておくか。


「本当にいいんですか?司先輩」


「うん」


「・・・正美先輩は?」


「私も、出来れば見たいな」


 正美先輩も昨日は反対していたくせに・・・でも可愛い顔でそんなこと言われたら、これ以上否定できないよ。


「はあ~。わかりました。では、お2人の自己責任でお願いしますね。その間僕は本屋でも見てますので」


 すると、2人が怪訝な顔をする。あれ?何か変なこと言ったか?


「忠一君は付いて来てくれないの?」


「ええ。一緒に行っても暇なだけですし」


 2人が買い物を楽しむのはよしとしても、男の僕が付いて行っても何もできない。だから、本屋で時間でも潰そうかと考えた。


「ちょっと、淑女レディーほっぽり出すなんて失礼じゃない」


「そうよ。荷物持ち兼採点係としてついてきなさい」


「ええ~」


 何その下働きポジ決定なのは。


「自分は見たかった映画見たでしょ?」


「だから、午後は私たちに付き合いなさいよ」


 またそれ持ちだしますか、あんた方。


 でも2対1。分が悪いな・・・やれやれ。


「わかりました。付いて行ってあげますから。その代り、終わったら僕の本屋にもつきあってくださいよ。それが絶対条件です」


「「やったー!」」


 そんなに喜ぶことかね。


 ま、僕としては2人の買い物が出来る限り早く終わることを祈るしかないな・・・多分むりだろうけど。






 


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