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嵐(いろいろな意味で) ⑦

 迎えた日曜日の朝、僕と先輩たちは映画を見るべく、映画館が入るショッピングモールに向かう。


 寝間着姿で朝食を食べて、その後は外出のために着替え。と言っても、男の僕は普段着に近いシャツに長ズボンで、お洒落なんてほとんどしていない。このあたりは男の気楽さてやつかな。


 一方、本当は男だけど今は女の2人はたっぷりと準備時間を要求してきた。


「女の子なんだから、お洒落に気を遣わないと」


 などと言う母さんの薦めもあって、今頃母さんの指導の下で、化粧をしているはずだ。化粧品なんかは一昨日の夜に、服と一緒に買い込んでいたはずだから、問題ない。


 2人が化粧をしている間は、部屋でパソコンをいじって時間を潰す。自分の投稿した小説へのコメントに返信したり、鉄道写真の投稿サイトを巡回したり。


 下から声が掛かったのは、ちょうど小説サイトのお気に入り小説を読もうとした時だった。


「準備できたから行くよ~!」


 正美先輩の呼ぶ声。ちょっと残念だけど、あの2人を待たせるわけにもいかない。パソコンの電源を落とす。


「はい、今行きます」


 財布や電車の中で読む本、コンパクトカメラなんかをいれた鞄を背負って、先輩たちが待っている1階へと降りる。


「お待たせしまし・・・た」


 2人は既に、玄関で靴を履いて待ち構えていた。それ自体は問題ない。僕が一瞬言葉を失ったのは、2人の格好だった。


「先輩たち、そんな服も買っていたんですね」


「やっぱり似合わない?」


「いえ、良くお似合いですね」


 正美先輩の問いに笑顔で答えておく。


(ついでに、メチャクチャ萌えますよ)


 と言うのは心の中で留めておく。


 正美先輩の格好は、上が黄緑色のシンプルなデザインの長袖シャツ。これはいい。それよりも、下がグレーのミニスカートなのがビックリ。それでもって、黒のニーソックスにローファ。スラリとした脚と絶対領域がめちゃくちゃ艶めかしい!


 と言うか、普段のメイド服や昨日のロングドレスだとわかりにくかったけど、本当頭のてっぺんからつま先まで、いいスタイルしているのがわかる。頭のリボンも良く似合ってる。


「ねえねえ、私はどう?」


「司先輩も良くお似合いです」


「本当?お世辞でも嬉しいな~」


 一方の司先輩はベレー帽に、茶色のカーディガンに黒のショートパンツ。でもって、脚には正美先輩と同じ黒のニーソ。靴はスニーカーを履いているけど、もちろん今の体に合った小さなサイズ。


 はい、こちらも見事な絶対領域描いてますよ。めちゃくちゃ眩しいんですけど。


 何ですか、この絵にかいたような美少女たちは!?これで中身が男じゃなきゃな~いや、中身男でも今は身も心も女なんだから・・・いかんいかん。また煩悩が。


 こんな出かける前から醜態をさらしていいんだろうか?いや、よくない。


 と言うわけで、内心の動揺を表に出さないように細心の注意を払いながら、僕も靴を履く。


「それじゃあ母さん、行ってきます」


「行ってっらっしゃい!デート楽しんできなさいな」


 余計なことを。


「はいはい。夕飯どうするかはまた連絡するから」


 こうして僕は先輩たちと出かけたわけだけど。


「良かったね忠一君。カワイイ女の子2人とデート出来て」


 わざとらしく腕を絡げてくる司先輩。やめてくだあさい。


「せ、先輩。あれは母さんの冗談ですよ。いいですか、本当のあなたは男なんですから、デートなんてものは成立しません」


 自分にも言い聞かせる意味で、そう言ったんだけど。


「あら~。でも今は身も心も女の子だよ~そりゃ、確かに仮初の姿だけど、せっかくこうして腕組んであげてるんだから、素直に喜んだらどう?・・・男として」


 ええい。人が煩悩を振り払おうと努力しているのに。しかも楽しんでやがるぜ。


 だいたい、そんな近づかれると余計に困るし。その特に、目のやり場にね。今は先輩の方が少し小さいから、その可愛い顔が嫌でも目に入るし、視線を外そうにも下に持っていけば、目に毒な胸とか太ももとかが入って来る。


 しかも。


「あの正美先輩。何故にあなたも私の腕に自分の腕を絡めてらっしゃる?」


「う~ん?司の腕は良くて、私と腕組むのは嫌だって言うの?」


 だから、変な所で司先輩と張り合うのはやめてくだあさい。でもって、この人の場合もその美形なお顔とか。胸とか、チラチラ揺れるスカートと絶対領域のセットとか、やっぱり目のやり場に困るんですけど!


「いやあ、良かったわね~。両手に華で。まあ、映画館までの我慢と思いなさい。始まれば私たちは寝ちゃうだろうから」


 ええい、自分が見たかった映画見られないっていう八つ当たりも上乗せされているんだろうけど、現在のこの状況はヤバすぎる。こちとら、女の子への免疫がないんだからね。しかも、もしこんな所を誰か知人に見られたら、厄介なことこの上ない。


 何か、何か手はないのか?


 と思ったその時。


「キャ!?」


「うわ!?」


「ひゃあ!?」


 司先輩が突然姿勢を崩し、腕を組んでいた僕と正美先輩も引っ張られた。よろめきはしたけど、何とか転ばずに済んだ。


 しかし、これはしめた。


「もう!司先輩くっつき過ぎるからこうなるんですよ!」


「ちょ、その言い方は無いんじゃない!」


「けど現実に先輩がよろめいて、僕と正美先輩も危うく転ぶところだったじゃないですか」


「それは・・・わかったわよ」


 まず司先輩が組んでいた腕を解く。よし、次は。


「ほら、正美先輩も」


「え~・・・」


「え~じゃないです。司先輩も放したんだから・・・」


「は~・・・」


 観念した正美先輩も腕を解いた。やれやれ。


 で、3人で並んで駅に向かって歩き始めたんだけど、人通りのある場所に出たところで、これが大いなる失敗だったと悟った。


 さて、今僕たちは僕を挟む形で左右に司先輩と正美先輩が位置して歩いている。つまり、僕が美少女2人に挟まれて歩いているという状態なわけだ。


 別にこれで歩道を占拠して危ないとか、そう言うことじゃない。人がくれば先輩たちはサッと前後に退避しているから。うん、さすがに毎日狭い店の中で接客するだけあるね。見事な動きだよ。


 けど、問題なのはそこじゃない。さて、世の男性諸君。眼鏡を掛けた、文系(というより、自分で言うのも何だけどどっちかと言うとオタク系だ)の男子高校生が、左右(時々前後)を美少女に囲まれて歩いている姿を見つけて、嫉妬を抱かない人は手を挙げて!


 はい、そういうことです。、めちゃくちゃ羨望とか嫉妬交じりの視線を浴びるわけですよ。特に、若い人が目立つ映画館まで来た時は、周囲から殺意さえ感じた気がした。もちろん、そこに着くまでの駅前や電車の中でもだったけど、多分ここが最高潮だったと思う。


 いたたまれない気持ちってこういうことを言うんだ・・・ちなみに、先輩たちの方はその視線に気づいているかわからないけど、どこ吹く風。そう言う図太さは女になっても変わらないのね。


 とにかく、ここはとっとと入館してしまおう。と、その前に。


「先輩たち、飲み物とかはどうしますか?」


「じゃあ私はキャラメルのポップコーンとコーラ」


「私は塩のポップコーンとメロンソーダ」


 正美先輩も司先輩も定番を行くな。


「了解です。すいませ~ん。ポップコーンキャラメルと塩を一つずつ。それからコーラとメロンソーダ。あと、フィッシュアンドチップスとレモンソーダで」


「「フィッシュアンドチップス!?」」


 店員さんに注文した途端、背後の2人が声をあげる。何でそんな驚くの?


「そこはポップコーンでしょ!」


「百歩譲ってホットドッグでしょ!」


「そういう固定観念で人の注文けなすのやめてください。いいじゃないですか、メニューにあるんだし。それに、フィッシュアンドチップスなんて、普段食べる機会ないから、これでいいんですよ」


 何と言われようと、映画見る時の定番はこれと決めている。さすがに2人相手でも譲れないよ。


「お待たせしました~」


「ほら、自分たちの持って。中に入りますよ」


 僕はお好みのケチャップとタルタルソースを取りながら、不満気な2人をサッサと中へ入れる。これ以上目立つようなマネは勘弁して欲しい。


 で、館内に入ると。


「うわ~。見事におじさんばっかり」


「場違い感が甚だし過ぎる」


「じゃあ、見るのやめてもいいんですよ。お2人は外で待っていてください」


 確かに渋い中高年のおじさんばっかりのスクリーン内で、美少女2人は相当目立つし、場違い感甚だしいのは認めるけど、もうチケットも買ったんだし、今更だよ。


「イヤよ、そんなの」


「せっかくチケット買ってもらったんだし、見るわよ」


 不承不承と言う感じだが、そこまでは大人げないことはしない2人。もう何度目かの、やれやれだよ。


「で、席ですけど」


 チケットは3枚。続きで座席を買ってあるけど、座り順は特に決めてない。どこに座っても、スクリーンの見え方は変わらないし。


 と考えていたら。


「忠一君が真ん中で、両隣を私たちでいいでしょ」


「そうそう」


 席の割り振りを有無言わさず決められたよ。ま、別にいいけど。


 ドリンクフォルダーに飲み物と食べ物を載せたトレーを挿して、席に着いた僕たちは上映開始を待った。


 


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