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嵐(いろいろな意味で) ④

「で、何で正美先輩が水着姿になっていたんです?」


 夕食を食べ終え、お風呂に入るまでのちょっとした時間。僕は先輩たちの部屋にお邪魔して、夕食前の一コマの理由を直接問いただすことにした。


 ちなみに、正美先輩は水着から先ほどの私服姿に着替えている。


「そりゃあ、買ったから試しに着たに決まってるでしょ」


 と何故か正美先輩ではなく、司先輩が答える。それも何故かドヤ顔で。


 いや、聞きたいのはそこじゃないんだけど、確かに先ほどの質問の答えとしては間違いでないだろう。


「ああ、質問が悪かったですね・・・では、どうして正美先輩が水着を買うことになったんです?そんなもの不要でしょ」


 忘れてはいけないけど、目の前の2人は美少女の皮を被ったガチで大柄な筋肉男子である。あくまで今女の子の姿になっているのは、性転換装置が故障と言う不測の事態が起きているに過ぎない。修理が終われば2人とも男に戻るのだから、女の子用の水着など不要のはず。


「アハハハ。いや、私としても水着なんか最初は買う気なかったんだけどね~」


 正美先輩が自嘲気味に笑いながら説明してくれた。


 この数時間前、正美先輩と司先輩は服を買い込むため母さんと近くのショッピングセンターに出かけた。普段女になるのは店で働く時だけなので、2人はそもそも女の子の服を持たないし、買った経験もない。


 そのため、母さんや店員さんにアドバイスをもらいながら、服を買い込んでいったらしい。


「いや~。流石にブラ買うために胸を採寸された時はちょっと恥ずかしかったな」


「とか言って、私よりもいい数字で喜んでたクセに」


「テヘ」


 といたずらっぽく笑う司先輩に、明らかに不機嫌そうな正美先輩。


 う~ん。流石に精神から女性に変えられてるだけあるな。しかし、男子の前でこういう会話するもんか?


「いいって、いいって。富嶽君は私たちの正体どうせ知ってるんだから」


 いや、司先輩。あなたまで心の中読むのやめてください。


「今君は心の中を読むのは止めろと思ってるだろうけど、そうじゃなくて表情で大体読めるから」


 司先輩がズバリ指摘する。


 む、そうだったのか!?いかんな、もっとポーカーフェイス鍛えないと。


「話を元に戻すけど。それで必要な服と下着を買い揃えて、あとはレジでお金を払うだけってことになったんだけど、ちょうど服売り場で、夏物の売り出しが始まっていて」


 あ、何となく読めた。


「そこで売ってたのが、水着だったと?」


「そういうこと」


 なるほどね。僕の脳裏にカワイイデザインの水着を身に着けたマネキンが、目立つ場所に置かれている光景が目に浮かぶ。


「でね。まあ、その。今は私たちも女の子じゃない。その、何と言えばいいのかな?本能的に興味を魅かれたと言うか」


「ちょっとばかし水着を見ていたら、富嶽君のお母さんと店員さんが、良かったら見て行かれませんかって」


「で、とんとん拍子に選んで試着して、お買い上げまで行っちゃったと?」


 僕の言葉に、正美先輩も司先輩も苦笑いしながらコクコク頷く。


「母さんも余計なことを。水着だってタダじゃないのに」


 具体的な額は知らないけど、男よりも女の服の方が金が掛かるという印象がある。いくら店長からお金が出ているとはいえ、無駄な出費させることもないのに。


「まあ、店長からもらったお金の枠内には収まったから」


「それに、お母さんが目をキラキラさせながら薦めてくるから、どうにも断り辛くて」


 と、ここで僕はあることに気づいた。


「アレ?そうなると、司先輩も水着買ったんですか?」


「うん、買ったわよ。さっきはまず正美が着て、その後私も着替える筈だったけど、いいところで夕飯の時間になっちゃったから。見られなくて残念だったわね」


 確かに。中身男とは言え、司先輩の今の体なら、大概の水着は似合うだろうな。


「別に着てあげればいいじゃない」


「ええ~。でも夜遅いし。面倒くさい。明日でいいでしょ」


 司先輩は見せるのにあまり抵抗ないのかな?正美先輩は恥ずかしそうにしていたけど。もしかして、自分のスタイルに自信がないとか?


 言っちゃ悪いけど、服の上からでも正美先輩より司先輩の方がいいからな。やっぱりスタイルの差が戦力の決定的な差に「忠一君」


「!?」


「女の魅力は別に外見だけじゃないと、私は思うんだけどな」


 ま、正美先輩が怒りの笑みを浮かべてる。いや、そこまで女として反応しなくても!


「ふ、負け犬の遠吠えね」


「あ!?」


 司先輩、やめてください。


「まあ、そこまで見たいなら見せてア・ゲ・ル」


 いや、見たいとは一言も言ってないんですけど。もちろん、見せてもらって悪いものでは全然、微塵もないんですけど。


「そう言うわけで、着替えるから男子は外に出た出た」


「いや、先輩も男子でしょ」


 と言いたかったけど、言おうとした瞬間、司先輩の目に修羅を見た!


 たく、本当に女の子に染まってるな。2人とも。


 ちょっとばかり怯えを覚えつつ、僕は一旦部屋の外へ。


「司、あんた自分のオッパイがデカいからって調子に乗るんじゃないわよ!」


「事実デカイんだからいいじゃない。自分が小さいからって僻むなんて、女になっても心の狭い人はいやね」


「ウヌヌヌ・・・ふ~んだ!その内逆転してやるんだから!」


 おいおいおいおい。2人とも男の時みたいに殴り合うのは勘弁してくれよ。というか、スゴイ会話だなオイ!健全な男子が扉の外にいるのと、自分たちが本当は男なの完全に忘れてるだろ2人とも。


 その後も、しばらくそんな痴話げんかのような会話が続いていたけど、数分後にはそれも収まり。


「富嶽君、入って来てもいいよ」


 中へ入るお許しが出た。


「はい、失礼します」


 部屋に入って飛び込んできたのは。


「どう?似合うかしら?」


 フリルの縁取りがついた水色のビキニを着こんだ、司先輩の姿だった。うん、メチャクチャ似合ってる。豊かな胸を包むビキニもそうなんだけどね、引き締まった腰周りの括れや、スラリと伸びた手足が露出されてる分強調されている。


 色っぽくて目に毒だわ~、これは。


「ええと、良くお似合いだと思います」


 とは言え、ここは常識的に褒めておくに限る。


「でしょでしょ!自分で言うのも何だけど、これなら男どもをメロメロにできるよね!」


「ふん!自分も男のくせに、よく言うわ」


「今は女だからいいでしょ」


「まあまあ2人とも。正美先輩も、やっぱりよく似合ってますよ。と言うか、先輩まで水着に着替えることないのに」


 そう、水着に着替えたのは司先輩だけでなかった。正美先輩も先ほどのワンピースの水着に着替えていた。


 ビキニほどの露出はなくて、色気もないけど、その分親しみやすさがある。


「司だけじゃフェアじゃないから」


「どうせ勝ち目のない戦いなのにね」


「うるさい!」


「司先輩。そりゃ確かに司先輩の方が胸デカイ「な!?」し、スタイルもいい「ぐ!」ですけど、あんまり正美先輩イジメちゃだめですよ。一方的にいびるなんて、悪女じゃないですか」


 確かに外見はいいけど、相手を貶めるのでは、さすがに内心萎える。


「はいはい。でも、スタイルが私の方がいいのはこれで富嶽君公認てわけね」


「ガハ!」


 あ、マズイ。正美先輩が絶望しかけてる。いけないいけない。ここはフォローしないと。


「正美先輩、そんな落ち込まなくても」


「いいよ、慰めなくても。あなたもどうせこんなスタイルの悪い女に惹かれないでしょ」


 う~ん。予想以上に打撃を受けてるみたいだな。


「そこまで卑下することないのに。先輩だって充分可愛いですよ。今回は司先輩と比べたから分がわるいだけですって。それに、先輩だって司先輩より背は高いし、顔だってカワイイじゃないですか」


「な!?」


「そ、そっかな?」


「はい。その点は僕公認です」


「そ、そうよね。1カ所や2カ所負けてるなら、別の部分で勝てばいいだけよね」


「ちょっと富嶽君、私より司の方が顔がいいっていうの!?」


「いや、僕の好みはって言う点です。そりゃ、司先輩も眼鏡娘で点数高いですけど」


「ムムム」


 あ、悔しそうに顔を膨らませてる。小柄な分も相まって、小動物的な可愛さだなこれ。


「司ちゃんか、正美ちゃん。お風呂入ったから、先にどうぞ」


 お、タイミングよく母さんが呼んでる。そろそろ場の空気がキツクなっていたから、ありがたい。


「だそうですよ。2人とも水着ショーは終わりにして、順番決めてお風呂先に入ってきてください。僕はその後入りますんで。では、お願いしますね」


「「あ!ちょっと!逃げるな!!」」


 と、言われて逃げないバカはいません。三十六計逃げるに如かずだ!


 で、自分の部屋へと逃げ込んだ。


「たく。にしても、2人とも可愛かったな~」


 2人がいがみ合ったからアレだったけど、客観的に評価するなら2人とも普通に可愛い。


「アレを普通に見れないのは残念だな」


 忘れちゃいけないけど、2人は男。残念ながら、夏女の子として水着姿になる可能性は期待できない。


「ま、だからこそさっきあんな発言出来たとも言えるけど」


 よくよく思い返せば、さっきの会話を純粋な女の子としていたら、色々マズかったかも。


 う~ん。2人の中身が男で良かったかも。


 僕は椅子に座りながら、そんなことを考えていた。


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