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嵐(いろいろな意味で) ②

「ちょ!」


「直るんですかそれ!?」


 うわ~。2人がまた必死な形相になって店長に詰め寄ってるよ。一方詰め寄られた店長は、いつになくタジタジだね。多分、こういう事態を想定してなかったんだろうな。それに自分自身にも降りかかってるし。


「うん、それは大丈夫。突然の停電で負荷が掛かって使用不能になった部品を取り換えるだけだから」


 店長の言葉に、ホッとする2人。だけど次の言葉で、それがぬか喜びだったことを思い知らされる。


「2人が学校に行く月曜の朝には絶対に直るから」


 瞬時に先輩たちの顔が、再び蒼白になった。


「げ、月曜の朝!?」


「すぐ修理出来ないんですか!?」


「さすがにそれは・・・部品は研究室の方にあるし、交換作業とその後の試験運転とか考えると、それ位はもらわないと」


「ええ!?」


「もっと早くできないんですか!?」


 先輩たちが悲鳴をあげる。そりゃ、そう言いたくなるわね~


「無理よ。下手に急いで不具合が出たりしたら、どんな結果になるかわからないわよ。下手すると体が分子レベルでバラバラになるかもね」


「「ひい!?」」


 怖いわ~先輩たちも恐怖のあまり抱き合ってるし。しかしこの性転換装置、結構デリケートなんだな。たかが停電で大ごとだ。


 いや、デリケートと言うより、やぐいの間違いか?だったら何でそんな装置ここに置いたの?


「実用実験なんだから、そのへんはある程度はね~」


 店長、人の心読むのやめてください。


「とにかく、そう言うわけで。明日明後日は装置修理のために臨時休業ね」


「いや、そうじゃなくて!」


「私たちどうすればいいんですか!?」


 やっぱそこだよね~。先輩たち親には言ってないから、家に帰れないし。家の方には友達の家に泊まるとか言えばいいかもしれないけど・・・その間どうするの?この2人。


「とりあえず、今回はこっちのミスなので・・・」


 そう言うと、店長は事務室の方へと入って行った。そしてすぐに封筒を2通持って戻ってきた。


「はい。ある程度包んだから、これで2日間何とかしてちょうだい。ああ、これは返済不要で借金には影響しないから」


 すると、2人が封筒からお金を出して数える・・・おお!それなりの額だぞアレ。具体的にはわからないけど、諭吉さんが10人はいそうだ。


 しかし、2人は相変わらず浮かない顔。


「お金はいいにしても・・・」


「私たち、どうやって生活すればいいんですか?」


「司の言う通りですよ。私たちが女の子になってるのは、この店の中だけなんですよ!」


 2人とも女の体で過ごすのは基本的にこの店の中だけだから、店の外での過ごし方なんてわからんわな。


「精神状態は女の子なんだから、何とかなるって」


 いや、店長。それ楽観過ぎでしょ。と心の中で突っ込んでおく。


「で、でも。服だって揃えなきゃいけないし」


「私たち未成年だから、ホテルだって簡単には泊れないし」


「・・・それもそうね」


 店長はここで修理作業に没頭すればいいけど、2人は少なくとも2日間外で過ごすしかない。仮にホテル住まいにしても、まさかずっとメイド服というわけにはいかないだろうし、司さんの言う通り未成年の女の子だけでホテルは厳しいよな。


「関係者の中で女性の方とかいないんですか?その人の家に泊まらせてもらうとかは?」


 僕が提案すると、店長はちょっと思案顔になって。


「ダメね。確かに女性スタッフはいるけど、皆既婚者か狭いアパート暮らしの人ばっかりだから」


「エミリーさんやマリーさんは?」


 と、平日昼に入るメイドさんの名前を出してはみたけど。


「もっとダメ」


 そうか、もっとダメなのか。しかも、もの凄くステキな笑顔で返されたし。本当にあの2人何者なんだろう?


「富嶽君、余計な詮索は寿命を縮めるわよ~」


 はいはい。


「で、話を戻しますけど。お二人ともどうするんですか?あとは装置が直るまで店の中に引きこもってるくらいしか、ないんじゃないですか?」


「それはそれで作業の邪魔になりかねないし」


 すると、店長が僕の方をジ~ッと見てきた・・・何ですか?その視線は?


 ジ~ッ・・・


 ジ~ッ・・・


 て、何で先輩たちまで!?


「ねえ、富嶽君?」


「はい?」


「富嶽君の実家って、女の子二人が泊れるくらいの部屋ある?」


「え?そうですね・・・一部屋くらいならなんとか・・・て、まさか!?」


「そう、そのまさか。富嶽君の家に泊めてあげられない?」


「ちょ~っと、待ってください!僕は男ですよ!それなのに、偽りとは言え今は完全に女の子の体の2人を、一つ屋根の下に泊めろと!?」


 さすがにそれはマズイのでは!?


「一つ屋根の下って言っても、同じ部屋に泊めろってわけじゃないし。それとも何?富嶽君はそういうことをする気でもあるの?」


「ありません!」


 そりゃ僕だって男だからね、そういう欲求があるのは認めるけど、だからって本当は男で恩ある先輩たちにいかがわしいことはしないくらいの理性はちゃんとありますって!


「なら問題ないでしょ」


「でも、急すぎますよ。親が何て言うか」


「それに関しては私の方から頼んでおくわ。うちの従業員が落雷のせいで家に戻れなくなったから、2日間だけ泊めて欲しいって」


 うちの親は僕がこの店でアルバイトをしてることは知ってる(もちろん先輩たちのことは秘密)から、そりゃ店長が頼めばなんとかなるかもしれないけど。


 僕は先輩たちの方を見る。うん、両手を合わせてペコペコ頭を下げている。何ていうゴマすり。いや、ここは信頼されていると考えなおそう。


「はあ~。わかりました。ただもしうちの親がダメって言ったら、他を当たってくださいね」


「わかってるわかってる」




 それから1時間後。


「ええと、こちらがさっき電話したアルバイト先の喫茶店で一緒に働いてる正美さんと司さんね」


 僕は出迎えた母さんに、2人を紹介する。


「正美です。こんばんは」


「司です。突然押しかけてしまってごめんなさい」


「いいのいいの。雷でお家の電気とかがダメになっちゃったんでしょ?真っ暗闇の中じゃ、何もできないでしょうから。それに、息子がお世話になってるみたいだし。狭い家だけど、寛いで行ってちょうだい」


 結局のところ、両親は反対しなかった。むしろ、ウェルカムだった。


「さ、さ。上がって上がって。泊るお部屋まで案内するから」


「「お邪魔します」」


 しかし、一応コート(店の外出用備品)を着ているとはいえ、我が家に美人メイドさん(中身は男だけど)が2人もいるって光景、メチャクチャ場違い感爆発だな。


 母さんに連れられて行く先輩たちの背中を見送り、僕は自分の部屋に戻る。


 鞄を置いて制服から私服に着替える。


「しかし、女の先輩たちと2日間一緒か」


 まさかこんなことになるなんて、想像すらしてなかった。そして2日間とは言え、先輩たちと一緒に過ごす時間がどうなるかも、全然想像できなかった。


 着替え終わって机に寝転がる。なんか色々あって妙に疲れた。夕飯まで横になりたかった・・・のだけど。


 トントン


 扉がノックされた。


「はい」


「入るわよ、忠一」


 母さんが入ってきた。


「何?」


「ねえ、正美さんと司さん。お店からそのまま来たから、着替えも何もないんだって」


「あ、そう言えばそうだったね」


 と言うか、先輩たちが女の子になるのはお店の中だけ。だから先輩たちが着る服は下着も含めてお店の中にしかない。しかも上に着るのはメイド服だけだから、当然普段着と言えるような服は持ってないし、確か下着もその日のうちに店長が洗濯して乾燥機に掛けていたから、ストックないとか言ってたな。


 つまり、着た切りスズメだ。


「何、知ってたの?」


「ごめん。言うの忘れてた」


「もう。私は今から2人と一緒に服を買って来るから、ちょっと留守番しててね」


「それはいいけど。父さんは?」


 父さんは自営業で、家に帰って来る時間は一定しない。早い時もあれば遅い時もある。


「まだ帰ってないわ。とにかく、そう言うわけで夕ご飯は少し遅くなるから、ちょっと待っててね」


「わかった。行ってらっしゃい」


「お願いね」


 母さんが扉を閉める。


 にしても、どちらにしろ服買うまでは2人ともメイド服姿で歩き回るのか・・・御愁傷様。


 それからすぐに、車が出ていく音がした。


 僕はと言えば、今日出された学校の課題を今のうちにやっておく。


 その最中に、父さんが帰ってきた。


「ただいま~」


「あ、お帰り」


「メール見たけど、なんかお客さんが泊るんだって?」


「うん。アルバイト先の女の子が2人。今母さんと足りない服とか買いに行ってる」


「うん、わかった」


「京一と沙織から電話はないな?」


「僕の知る限りないよ」


「わかった。ありがとう」


 京一は大学生の兄。沙織は中学生の妹。京一兄さんは東京の大学に進学、妹の沙織は1年間の長期留学で、2人とも家を空けている。だから、今子供で家にいるのは僕だけ。


 父さんが僕たちのためを考えて建てた3階建てのこの家も、今は大分寂しい。


 とは言え、やはり赤の他人である年頃の女の子(中身は男だけど)が泊っていると思うと、ちょっと心が浮つく。


 それを振り払うように、僕は課題に集中した。


 そして、その課題が終わる直前。


「ただいま~!!」


 母さんたちが帰ってきた。

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