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10 何が一番辛いって? 


 時刻は昼過ぎ。私とリンネさんは、陥落した王都の町から出立しました。


 

「おや、指輪ですか? ふふ、やりますね」

「違う、盗んだんじゃなくてお姫様からもらったの。その不敵な笑顔やめて」



 道中暇を持て余し、お姫様からプレゼント? された銀の指輪をリンネさんに見せびらかします。



「家紋の刻まれた装飾品は王族の証です。同時に、強大な加護の力を付与しているはず」

「そうなんだ?」

「ええ。あの姫君が魔神王の子を孕みながらも正気を保てていたのは、恐らくその力によるものでしょう。女神の祝福は、物に付与することでも十全に力を発揮するのが利点です。もっとも、効力が切れた末路は悲惨なものでしたが」

「なるほどねえ」



 生返事を返しつつ、指輪を薬指に嵌めてみます。



「どう?」

「ええ、大変良くお似合いで」

「これ、売ったらどれくらいになるかな」

「ふむ。失われた王族の証ですから、付加価値をつけられるかも。旅の商人がいたら交渉して見ましょうか。路銀の足しになります」

「いいね。私、おいしいものをたくさん食べたい」

「荷馬車でも買えば、移動がだいぶ楽になります」

「そうしたら次の街へも早く着けるよね」



 夢が広がります。



「うん、いいもの手に入れた。ありがとう、女神様」



 眩い陽光に左手を翳すと、銀の指輪が光を反射し、きらりと輝きを放ちました。


 同時に、ぐうとお腹が鳴ります。



「ねえ。新たな門出を迎えたお祝いにお昼にしようよ。私、お腹が空いた。結局お祭りの屋台もお城の豪華な食事も食べ損ねたし」

「ええ、実はわたしも少し。しかし先の道のりが分からない以上、食料はなるべく節約していきたいです。あまり多くを持ち出せたわけではないので」



 背負ったバックパックを開き、王城の倉庫から持ち出してきた物資を確認しつつ、頭の中で食料勘定を始めるリンネさん。


 この人は本当に抜け目ない盗賊です。いえ、神官でしたか。



「この先、平野を抜けるまでは川に沿って歩けるので、ひとまず水は問題ないとして。最悪、近場の森に入り、狩りで自給自足するしかありません。アルル様、腕前のほどは?」

「動物の狩りなら見よう見まねで。盗賊の真似事ならやらないよ」

「わたしを何だと思っておいでですか、失礼な。……む?」



 リンネさんの双眸が警戒の色を宿します。


 何事かと問う間に、伸びた草むらの中から丸みを帯びたフォルムの物体が跳ねるように躍り出てきました。 

 野生のスライムです。大きさは1メートルほど。


 かつての大いなる脅威も、数々の経験を積んだ今の私にとってはそれほどでもありません。

 もちろん、倒せませんけど。



「ああ、ちょうど良いところに」



 私を庇うように前に立ち、正面切ってスライムと相対するリンネさん。



「天然物なら魔城にいた腑抜けより食べごたえがあるでしょう」



 冷静に語る傍ら、じゅるり、と涎を拭う音が聞こえてきました。



「結局こうなるのか……」



 もはや恒例となりつつある捕食風景を前に、私はふと空を見上げ、抜けるような蒼穹に思いを馳せます。


 何が一番辛いって? 彼女とパーティーを組んで以来、スライムしか口にしていないことでしょうか……。

 

 


☆   ☆   ☆

 

 

読了ありがとうございました。これにて5章終了です。

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