表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/79

8 友人、ね……

 

 

 どこか遠くから声がしました。



「お別れをね、言いに来たの。せっかくだから」



 鈴を鳴らしたような澄んだ響きが、湖面に広がる波紋のように聞こえてきます。



「気にしなくていいわ。これは多分、自業自得なんだから」



 夢見の枕元に立ったのは、お姫様でした。



「あなたの言う通り、あたしは最低だったわ。自分だけが不幸だと思い込んで、自分だけが絶望していると勘違いして、何もせずに泣き喚くだけの馬鹿な小娘だった。犠牲にしてきた娘たちをもし、広い心で受け入れていれば……。きっと彼に想いを届けてもらえたはずなのに……」



 すん、と小さく鼻を啜る音。

 お姫様の声は涙に沈んでいます。



「馬鹿よね、こんなにも今さらになって謝りたいだなんて……。勝手すぎるわよね……。だから、いいの。これは自業自得。あなたを恨んだりしないわ」



 嘘を吐き、自分たちだけ助かった私たちを、それでも許すとお姫様は言います。

 どこかすっきりした調子で、何もかもを諦めて、恨みはないと。



「そうよ、もういいの。だって、心から求めていたものを手に入れることができたんだから」



 お姫様は腕に何か抱えていました。


 白い布がするりと剥がれ落ち、中身が晒されます。それは赤子などではなく、人間の頭部でした。



「これからはずっと、彼と一緒に居られるわ」



 お姫様はとても愛おしげな笑みを浮かべて、かつての婚約者と額を突き合わせます。



「ねえ、見て。素敵な顔でしょう? ふふっ、うふふふふふふふ」



 腕の中でくるりと回され、こちらを向いた顔には覚えがあります。勇者ロキ、その人です。

 その形相は、この世の終わりを目の当たりにしたかのような、壮絶な悲嘆と絶望で塗り固められていました。



「さようなら、アルル。短い間だったけれど、あなたはあたしの恩人で、とても良い友人だったわ」



 無垢な少女のように無邪気な笑い声が響き、足音が一歩ずつ遠ざかって……。







 そして、私は目を覚ましました。



「……っ!」



 バッ、と跳ね上げた顔を左右に振ります。周囲にはお姫様もリンネさんも見当たりません。スララも無事。


 ただ、すぐそばに血に塗れて変色した、白い布が落ちていました。それが何を包んでいたのか思い出し、少々げんなりとします。



「友人、ね……。酷い交友関係もあったもんだ」



 失笑が零れます。正直、どう受け止めて良いのやら。


 ……いえ、殺されなかったことを素直に喜ぶべきところでしょうね。

  

 やや肩透かしを食らったような心持ちで、ひとまず差し込む陽の光の下、身体の凝りをほぐします。

 太陽が大分高い位置まで上っていました。時刻は昼少し前くらいでしょうか。


 地面で丸まっている白い布を拾い上げると、中に包んであった何かが落ちて、チリンと音を立てました。随分と小さい物です。



「アルル様、目が覚めましたか?」

「あ、おはよ」



 通路の出入り口からリンネさんが顔を覗かせました。


 私は素早く落し物を拾って、隠し通路から森へと出ます。

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読了、ありがとうございました。
感想・評価いただけると嬉しいです! 最新話ページの下部にあります!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ