7 拝啓 父上様、母上様
「……ねえ」
夜空を焦がす紅蓮の色に顔を染めながら、しばらくの間立ち尽くしていた私は、ふと思い至ったことを口にします。
「ひょっとしてこれ、私たちが嘘を吐かなければこうはならなかったんじゃ?」
もしもあの時、リンネさんが名乗り出ず、鎧の騎士がスライム塗れのお姫様を救い出していたならば……。
考えずにはいられませんでした。
「結果論です」
「考え得る限り最悪の結果なんだけどそれは?」
「それもまた運命。女神様のお導きです」
「……それ、女神様の威光を貶めてない?」
どこまでも、神官らしからぬリンネさんでした。
「運命、か……」
人を焼き、家々を飲み、破壊の化身と化した燃え盛る炎は、記憶に残るいつかの光景を彷彿とさせ、私にその言葉を突きつけてくるようでした。
拝啓 父上様、母上様、盗賊団の皆。
お喜びください、アルルは立派なろくでなしに育ちましたよ。
思いを馳せるのはそこまでとしました。
起こってしまった現実はもうどうにもなりません。リンネさんの言う通り、全知全能たる神様辺りに丸投げしておけば、万事それでまかり通してくれるでしょう。
まあ、生き残った者勝ちということで。
「見つかるとは思えませんが念のためです。完全に夜が明けるまで通路内に身を隠しましょう」
「うん」
そそくさと移動を始めるリンネさんに続こうとした時でした。ふと、突き刺さるような視線を感じて振り返ります。
見開いた視界の遥か先、崩れ落ちる街並みのただ中から、お姫様がこちらをじっと見つめ返していました。
その顔は、どこか穏やかに笑っているようにも見えました。
私に気がついた……?
「アルル様?」
まさか、という呪縛に囚われて動けなくなってしまった私に、リンネさんが助け舟を出してくれます。
「ううん、何でもないよ」
私はそう答えると、燃え盛る王都に、お姫様の優雅な微笑みに、背を向けました。
☆ ☆ ☆