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3 運命って信じる?


 

 寝室が静かになって少し経ちました。



「……」



 意識はどこか冴えていて、なかなか寝付けません。

 身体を包む感触は柔らかく高級感に溢れていて、どこか現実離れしているのです。私が過ごしてきた現実と今のこの状況は、途方もないほど剥離している気がします。


 本当の私は今も懐かしき仲間たちとともにあって、燃え盛る村々を背景ににやにやと邪悪に笑っているのではないでしょうか。


 地下水道や深い森をさ迷ったことも、魔神王のお城での出来事も、どこか遠い夢のようで……。隣に居るリンネさんのことも。


 思うあまり、つい瞳を開けてリンネさんに問いを投げかけていました。



「さっきの話じゃないけれど。……運命って信じる?」



 返事はすぐでした。



「無論です。神官ですから」

「子供の頃に餓死しかけて、教会に拾われて、スライム食べて生きているのって、幸せな人生だった?」

「少なくとも今は幸せです」

「周りの冒険者から倦厭されているでしょう? それはどう思っているの?」

「特には。好き勝手に言いたい者が居れば、アルル様のように良き友人となってくれる者もいる。今のわたしはそう理解しています」

「そっか……」

「悩み事ですか?」


「……どういう星の下に生まれるのかで、人生って決まると思う?」

「決まるでしょう、ある程度は」

「運命とか、性格とか、生き方とか。そういうのって変えていくことできるかな?」

「その人次第でしょう」

「そっか……」

「少なくともわたしは変わりました。あの日、あの時、あの場所で、女神様の祝福を受けたことで」

「……」



 横目でリンネさんの方を見ると、パチリと目が合いました。



「今はそう思います。今だからそう思うのでしょう」

「……なるほど」



 何となく、胸のもやもやが腑に落ちた気がしました。焦らずその時を待て、ということです。



「アルル様は、どうして冒険者になったのですか?」

「私は……。ちょっと普通の生き方をしてみたくて」

「いかがでしたか、冒険者になって。冒険をしてみて」



 問いかけに、少し間をもらい、思い返してみます。これまでを。



「長いようで短い間の出来事だったけど。……悪くなかった、かな」

「そうですか」



 リンネさんが隣で小さく笑った気がしました。



「楽しいだけじゃなかったけど、怖いだけでもなかった。死にそうな目に遭って、それでも死なずにこうして生きている。だから、悪くない冒険だったって、そう思う」

「あなた様にとっての〝普通〟は、随分過激です」

「……。うん、そうかも」



 何年も経ってからふと思い出し、懐古の念に囚われる。

 この冒険はそれくらい印象深く忘れられない出来事で、何より素敵な出会いがありました。



「もう見習いは卒業ですね。何を成していなくとも、あなた様は立派な冒険者です、アルル様」



 姿勢を変えて隣を見ます。リンネさんは静かに微笑んでいました。

 それはまるで咎人に許しを与える女神様のように、どこまでも慈愛に満ちていました。

 

 柔らかな眼差しに見つめられ、改めて思います。こういうのも悪くない、と。

  


☆    ☆    ☆

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