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1 王都グランセル

五章開幕です。あらすじを少し。


魔神王の城に捕らえられてしまった、アルルとリンネ。そこで捕虜生活を余儀なくされるも、紆余曲折を経て、勇者ご一行に助けられ、王都グランセルへとたどり着くのだった。

しかし、まだ危機は去っていない。魔神王の企みを阻止するために、二人の戦いは続いていた。果たして、魔神王の魔の手から人々を守ることができるのだろうか。


それでは、第五章「王都、陥落」。お楽しみください。


 

 



 

 王都グランセルへの道のりは恐ろしく楽でした。道程と呼ぶには物足りない二時間ぽっちの旅を終え、私たちはそびえ立つ堅牢な城門の前に立っていました。


 目的であった魔城攻略は叶わずとも、連れ去られたお姫様を見事救い出し、無事帰還を果たした勇者ご一行。

 英雄の凱旋は瞬く間に広がり、街中を熱狂の渦へと湧き立てます。


 即席に出来上がったお祭りムード。

 わらわらと集まって来た観衆の相手を勇者ご一行に押し付け、私とリンネさんは初老の魔術師に借りたローブで身を隠し、城門で待機していた荷馬車の幌に飛び込みます。


 荷馬車は人目を避けつつ、警護兵に護られながら中央区に建つ王城へ。城に辿り着くなり、私たちはお姫様の部屋へと逃げ込みました。


 リンネさんが迷うことなくお姫様の部屋を探り当てたことに対して、疑問を持ちます。



「どうしてここがお姫様の部屋だって知ってるの?」

「わたしも一時期、姫君奪還に関わっていましたから。王城の中はひと通り分かります」

「それは頼もしい」



 そんなこんなあり、お姫様帰還の知らせを受け、王と王妃が公務を放り出して城へと帰ってくる頃には、すっかり籠城の準備は整っていました。


 大きなドアの前にはタンスや机でバリケードを作り、徹底抗戦の構えを見せます。


 それでもドアは喧しく叩かれ続けました。仕方なしにリンネさんはローブを纏い、ベールで隠した顔だけ覗かせて応対します。



「今夜ひと晩だけで構いません。どうか一人にしてください」

「しかしエリーゼ、我が娘よ。せっかくお前を取り戻すことができたというのに……。ああ、抱きしめることすら許してはくれないのかい? せめて顔だけでも見せておくれ」



 わずかに開かれたドアの隙間で交わされるのは、先程からずっと同じようなやり取り。同じような押し問答。


 顔を見せろ、話を聞かせろ、と一辺倒に迫るお姫様の両親に対して、リンネさんもまた「今はそっとしておいて欲しい」と懇請を繰り返すばかり。


 そりゃあまあ、見せられませんよそんなもん。


 部屋の中でくつろいでいるのは、どこぞの神官と見習いの小娘。本物のお姫様は未だ魔城に取り残されているわけで。


 ……主に私たちのせいで。


 姫と偽ったことがばれようものなら、即刻牢屋に叩き込まれ、場合によっては打ち首です。



「お許しください。どうか、どうか」

「可愛い私のエリーゼ。長く離れていたせいか、お前の声が違うものに聞こえてしまうのだ……」

「恥も弁えず、助けを乞うて泣き叫んだのです。これは当然の報い……」

「ああっ、なんて痛ましい……。傷心のお前に何もしてやれることはないのか? そうだ、ロキも来ている。お前に謝りたいと。助けに行けなかったことを心から悔いているんだ……。どうかひと目会ってやってくれないか?」


「明日には必ず皆の前に出られるよう、心構えを作ります。お父様、お母様。それから彼にもお伝えください。……どうか、驚かないで。わたしがどれだけ変わり果てていようとも、どうか……」

「ああ、エリーゼ……、待っておくれ、エリーゼ……っ」

「おやすみなさい」



 パタン、という無慈悲な音とともにドアは固く閉ざされます。


 廊下から差し込んでいた明かりがなくなり、室内は銀色の月明かりに満たされます。

 大きな部屋にふさわしい大きな天窓。降り注ぐ光量も仄かで淡く、どこか神秘的でした。


 私もお姫様に生まれていれば、こんな気持ちで静かな夜を過ごしていたのでしょうか。



「まったく、しつこい輩です」



 リンネさんはローブを剥ぐと無造作に床へ放り、そのまま大きなベッドに倒れ込みました。


 何かいろいろと台無しでした。



「お疲れ」



 清潔なシーツをかけてやり、愚痴を零すリンネさんを労います。



「誰彼構わず顔を見せろ、声を聞かせろと……。こちらは囚われの身だったのです、少しは遠慮していただきたい」

「言っても、私たちは二週間程度でしょうに」



 うんざりするリンネさんに苦笑を返します。


 

「お姫様って、確か突然連れ去られたんでしょう?」

「ええ。婚約の挨拶周りの道中を狙われたそうです。取り乱した国王は国中の冒険者を掻き集め、国外にも御触れを出し、姫君の救出を厳命していたようです」

「それだけ大ごとだったってことか……」



 ついさっきまで、その渦中にいたとは信じられません。



「魔城の破壊すら厭わないとの発言もあったようで、完全に乱心なさっていたのでしょう」


 

 あり得ない、とリンネさんは呆れて見せます。

 魔城の持つ本来の役割を思えば、そういう感想にもなるのでしょう。



「リンネさん、そんな大規模なクエストに加わっていたんだ。さすが、第二級」

「そのようですね」

「もうちょっと興味持ちなさい……」



 寝返りを打つ彼女の頭に、大きなふかふか枕を落としてやります。



「だったらなおさらじゃない? ようやく帰って来た愛娘にひと目会いたいっていう気持ち、分からなくないけれど?」

「王と王妃はそれで構わないでしょう。しつこいのは婚約者のロキです」

「ロキ?」



 はて。どこかで聞いた名前です。

 

  

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