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スライムイーター ~捕食者を喰らう者~  作者: ユエ
4話 捕らわれの姫君
65/79

25 えっと、非常食?


 

 探索のための装備なし、休憩のための荷物なし。一人と一匹、我が身一つで鬱蒼とした森を進みます。


 盗賊として生きていた頃に、森の歩き方はひと通り習得済み。

 故によく分かっています。人の手が入っていない自然のままの森というのは大変歩きにくく、迷いやすい。手ぶらで気楽にお散歩できるような場所ではありません。


 早々に小川を見つけられたのは僥倖でした。穏やかな川のせせらぎを右手に、慎重に歩を進めます。


 ただ、聞こえてくるのは水音ばかりではありません。


 ―――ガサッ。



「……っ」



 ビクリと歩みを止め、物音が聞こえた茂みを凝視すること数秒。何も出て来ないのを確認して、ゆっくりと行軍を再開させます。


 手元に武器はありません。身を守る術もなしに深い森を進もうなど、狂気の沙汰。正直、生きた心地がしませんでした。


 木々の間をすり抜けてくる怪鳥の鳴き声。獣の唸り。

 怪物たちの「あれ、人間じゃね? 迷子? どうする? 喰う?」などという不穏なやり取りを幻聴しながら、森の中をさ迷い歩くことしばし。



「待ちなさい、そこで止まって」



 突然大樹の陰から現れたのは、露出成分の多いビキニアーマーの女性でした。

 ものすごく派手です。良くこんな格好で森の中を動き回れますね、この人。


 どうやら少し前から捕捉されていたらしく、女性の眼差しには警戒の色が濃く出ています。出会い頭に短剣を突き付けられ、私は大人しく両手を上げます。



「怪しい者では……」



 おずおずとそう申し出ている間に、お仲間登場。


 屈強な体躯を持つ大男と、ローブを身に纏う初老の男性。双方同様に小さな驚きを露わにしつつ、多大な不信と敵意を向けてきます。


 この人たち皆、冒険者ですよね? 何なのでしょうか、藪から棒に……。私はただ、魔神王が支配する森で迷子になっていただけだというのに。



「それって、とんでもなくおかしな話よね?」

「言われてみればそうでした」



 ビキニの女性は眉間の皺を深め、少し苛立ちを交えて問い質してきます。



「もう一度聞くけど、あんた何者? 目的は何?」



 隣から大男が口を挟みます。



「捕虜が逃げ出した風ではないな。魔神王の手の者か? ここで始末しておくか?」



 ローブの初老がにやにやと笑います。



「いやいや。捕らえて内部情報を吐かせるのがよかろう。小娘の頭の中身くらい、どうとでも覗けるわい」



 不穏な言葉を交わし合い、三者三様油断なく私を取り囲みます。


 まったく、なんて物騒な会話の流れでしょうか。魔城に居た時と大差ない、どころか悪化していません?

 いくら怪しいと言っても、か弱い娘をやり玉に挙げて、何なのでしょうね、この方々。


 無駄に血の気が多いというか、変にピリピリしているというか。

 これから始まる一世一代の大勝負を前に、緊張の色を隠せない感じ。余裕のない表情から心の焦りが伝わってきます。



「おい、さっさと答えろ! さもないと!」



 黙考する私に対し、大男が痺れを切らします。


 このままだと魔女裁判の魔女扱いなので、とりあえず弁明を。



「あの。私も冒険者です。魔神王でも怪物でも、あなた方の敵でもありません」

「冒険者?」

「まだ見習いですが」



 私はふと思いだし、首元に下げていた認識票を良く見える位置に。これは冒険者の身分を証明するものでもあると、リオンさんは言っていました。


 お三方とも認識票を認め、一度顔を見合わせます。それぞれ半信半疑といった様子。

 もう一押し必要みたいです。



「再度言いますが、私はれっきとした冒険者です。期待のルーキーとして、二つ名まで授かってます。何なら、ギルドに確認をとってもらっても構いません」

「……じゃあそのスライムは何だ?」



 大男が私の肩に乗った小さなスライムを目敏く咎めます。


 おっとしまった、忘れてた……。

 さて、これは何と答えたものでしょう。友達でもないし、知り合いといっても会ったばかりだし……。


 少し悩んだ末、苦し紛れに口を開きます。


「えっと、非常食?」

「「「は?」」」



 首を傾げるお三方の動きが、綺麗にシンクロしました。

 

 


☆    ☆    ☆

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