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スライムイーター ~捕食者を喰らう者~  作者: ユエ
1話 アルル・ジョーカー
6/79

5 ……だって、ねえ?

 

 

「あの、受付嬢さん」



 私から声を掛けると、リオンさんはどこか残念そうに瞳を伏せます。しかしそれも一瞬のこと。

 すぐに受付嬢としての表情を貼り付け直し、先の失礼を詫びました。



「……出過ぎた忠告でしたね。分かりました、それでは―――」

「いえ、そうでなく。罰則は?」

「罰則?」



 パチクリと瞳を瞬かせ、何のことかと訊き返すリオンさんに、私は盗んだ硬貨を指差して見せます。



「……ああ! ふふ、そうでしたねえ」



 それだけで意図を察してくれたようです。リオンさんは嬉しそうに表情筋を緩めると、手元の書類の束から一枚抜き出しました。


 これはギルドが発行する依頼書です。馬車を停める広場の景観を保持するため、しばらくの間定期的に清掃を行ってほしい、という旨の記載があります。



「これを今回の件に対する罰則とします。無事に完遂できたのなら、報酬から登録料を差し引き、正式な冒険者として認めましょう」

「どうも」



 私は依頼書を受け取り、神妙な態度で剣士以下三名さんに頭を下げました。



「お誘いどうも。しかし私はまだ冒険者の見習いでして。こちらの依頼を優先しなくてはならないのです」

「ああ、そう……。じゃあいいや、別の奴誘うから」



 すっかり興味を無くした調子で別れを告げて、クランさんとそのパーティーは酒場の方へと去っていきました。


 その後、私は順当に事を運びました。リオンさんから依頼についての簡単な説明をしてもらい、依頼書を片手にそそくさとギルドをあとにします。


 単身、依頼書が示す場所へ。



「……」



 去り際、先のパーティーがまた別の新米冒険者に声を掛けているのを見て、



「……だって、ねえ?」



 独りきりなのをいいことに、つい苦笑いしてしまいました。


 新しい自分になろうと決意して、こんなところまで来て、冒険者になって……。いきなり怪物と戦って怪我でもしてしまったら、最悪の事態に陥ったら、もうそこまでではありませんか。


 要は、ビビってしまったのです、怪物退治という聞き慣れないワードに。団体行動という苦行に。


 怪物怖い。

 団体行動難しい。

 ならば一人でやるしかありません。何事も経験を積んでから。



「そのために冒険者になったんだから。人生、楽しまないとね」



 改めて依頼書に目を通します。これが冒険者としての第一歩になるわけです。

 ひと悶着ありましたが、胸のわくわく感は収まるところを知りません。気づけば、自然と駆け出していました。




 

  

 依頼書にあった街の広場へ辿り着き、ざっと見回してみます。


 公共の場がゴミだらけ、なんてことにはさすがになっていませんが……。草花は伸びっぱなし。落ち葉は隅っこで山となり、腐りつつあります。どうやら荷馬車の停留所として扱われているだけのようで、十分な手入れは行き届いていません。


 そして、こういうじめじめした場所には必ずといっていいほど〝奴〟がいます。



「あ」



 目が合いました。比喩ですが。


 体長わずか十センチ。青みを帯びたゼリー状のボディをふるると震わせて、こちらを伺う怪物と遭遇しました。


 スライムです。


 私は急ぎ、装備を整えます。ギルドに申請すれば、依頼に基づく適切な支給品を用意してくれるのです。胴付き長靴を履き、竹ぼうきを右手に構え、会敵した怪物へ慎重ににじり寄ります。



「えい!」



 隙を伺い、ほうきの柄で小さな潤いボディを一突きにしてやりました。

 急所である核を貫かれたスライムは、断末魔を上げるように身体を震わせ、やがて融解していきました。



「よーし!」



 初任務における初戦果。手に入れた〝スライムの核〟を右手に掲げ、誉れ高く勝鬨を上げます。


 こうして、私の冒険が幕を開けました。周囲に民家が立ち並び、多くの人や物が行き交う、街道沿いの公共広場の真ん中で。

 




★  ★  ★  

 

 

 

読了ありがとうございます。第一章、これにて完結です。


次回より第二章の幕開け。

冒険者となり、新しい生活を始めたアルル。彼女の冒険っぷりをどうぞお楽しみください。


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[良い点] 第一章まで読み終えての感想になります。 私は活字が苦手な方で小説は滅多に読まないんですが、Twitterでフォローして頂いたので、これも何かの縁かなと思い、元々好きなファンタジータイトルの…
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