4 スライム討伐依頼
見るからに若々しい出で立ち。
傷一つない新品の防具を見るに、如何にも駆け出し冒険者ですが、背負った剣だけは一際立派です。
さながら、彼は剣士なのでしょう。
「君も出稼ぎに来たんだろ? こいつらも一緒なんだ」
訳も分からぬままに彼のパーティーを紹介されます。
彼の指差す先に並んでいたのは三人の少女。
長い髪を束ね、動きやすそうな短パンと薄手のシャツを身に着ける尻尾の生えた娘。
高級そうな礼服に身を包む、小柄で耳長の少女。
二人とも人間ではないようです。
一歩下がった位置からこちらを冷ややかに見つめるのは、眼鏡の少女。
三角帽子に黒衣のマントという魔術師風の出で立ちで、入りきらない程大きくて分厚い本が肩掛け鞄から飛び出しています。
受付で揉めている私を見かねて、というより、順番待ちの痺れを切らして声を掛けたのでしょう。
「君もどうせ、ゴミ拾いや地下のドブさらいを薦められたんだろ? そんなんじゃ大した報酬にはならないよ。もっとちゃんとした依頼を受けないとね」
それっぽく言われて、私は首を傾げます。
「というと?」
「これさ、スライム退治!」
剣士の少年は、どうだと言わんばかりに依頼書を突き出してきます。
聞けば、古い城跡に住み着いたスライムが先日の大雨で異常増殖してしまい、困っているのだとか。
付近の村は城守りの人たちが住んでいて、彼らの食糧源である田畑が荒らされ、家畜が数頭いなくなり、それなりの実害が出ているようです。
「な、面白そうだろ? 人に害成すモンスターを撃退して、困っている人たちを助ける。これこその冒険者さ」
握手を求められます。
「俺はクラン。剣の腕を磨いていつか王都へ行きたいって思ってる。よろしく」
「どうも、アルルです」
差し伸べられた手をひとまず握り返して、自己紹介です。
「せっかくですが、私は特別武器を扱えるわけでは。投げナイフくらいしか取り柄がありません」
「それならなおさら。ゴブリンやスライムなんていう下等な怪物退治は、初めての冒険に持って来いじゃないか」
「はあ」
自信たっぷりに勧誘に、困惑を隠せず小首を傾げます。
見るからに彼らも駆け出しというか、初めての討伐任務に赴くといった雰囲気ですが……。
「あの。よろしいでしょうか」
案の定、リオンさんが口を挟み、控えめに注目を集めます。
「討伐未経験者だけのパーティーで怪物退治というのは少々厳しいかと。せめてもう一人か二人、もしくはベテランに同行を頼んだ方が。新人の教育に熱心に取り組んでくださる方を紹介しますので」
「大丈夫ですよ!」
と、クランさん。
「スライムなんて五人もいれば十分です」
「ですが、武器も持っていない素人を含めたパーティーに、怪物退治を任せるわけには……」
「だからそこは、俺たちでフォローして経験を積ませてやればいいじゃないですか」
一体どこ目線なのだろうと思いましたが、黙っていました。
確かに、彼らの方が冒険者として先輩に違いないのでしょうけれど。
他お三方、魔術師さんは気に入らそうに私を睨みつけ、あとの二人はおしゃべりに夢中です。
ちら、とリオンさんの顔色を伺います。
「……」
何とも言えない表情をしていました。
さて、どちらにつくのが得策か。
ま、考えるまでもありませんよね。