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スライムイーター ~捕食者を喰らう者~  作者: ユエ
3話 暗躍する者の影
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13 考える葦たる所以

 


 微妙に傾斜がついているものの、トンネルはほぼ水平で真っ直ぐ。とはいえ、どこをどう進んでいるのか、私には全く分かりません。

 リンネさんによると、方角的にはこの街(アクアマリン)の近くの湖の脇を通り抜ける形で、南西へ向かっているそうで。向かう先はどこになるのか、見当もつきません。


 まだ発見されていない天然の洞窟なのは間違いないですが、先行きが見通せない分不安が募ります。

 トンネル抜けたら盗賊団のアジトでした、というオチだけは勘弁して欲しいです。



「そういえば、聞いておきたいことが」

「何です?」



 不安を紛らわそうと、半歩前を歩く背中に質問を投げます。



「スライムって色によって持ち得る特性が変わるけど、味にも変化あるの?」

「ありますよ、もちろん」



 リンネさんは、当たり前のように頷きました。

 まあ、これにはすんなり納得できます。食べる物が違えば、自然と変わってきますよね。


 ギルドの資料で見た限りだと、スライムの大半は青い色をしていて、何でも食べる雑食性です。

 他に、緑は草食系、橙は肉食系、灰色は鉱食系。生息地によって変わるのだと、リンネさんは説明を付け加えます。



「食べる物によって色が変わるのなら、この間の紫は?」

「あれは、毒の特性を持ち合わせる個体でした。何を喰らったかは判然としませんが、あれほど強大な酸力は、そうそう見かけるものではありません」

「ふうん」


 

 その強大な毒性とやらも含めて捕食してのけたリンネさんは一体……? 

 これ以上深く考えるのは止めておきましょうか。


 ちなみに、この知識が使い物になるのは小物スライムに対してのみ。

 一定以上の大きさを獲得した個体は、それぞれの生息領域を大幅に飛び越えていけるので、どこで遭遇しようと十分脅威足り得るとのことです。


 私は身震いしますが、まあほとんどの冒険者にとっては関係のない話でしょうね。

 普通は遠距離から魔法で吹き飛ばしておしまい。それができないような個体と遭遇する機会なんて、そうそうあるものではありません。



「あるとすればそう、(くだん)の魔神王が率いる軍勢と戦う時くらいでしょうか」  

「それはー……、うん。私のような見習い冒険者には、縁遠いお話かな」



 そんな感じで、しばらくの間スライム講座が続きました。

 ランタン片手に前を行くリンネさんと、ついて行く私。この距離感がどこか心地よく、ついつい雑多な考え事をしてしまいます。


 例えばそう、このトンネルは奇襲のための抜け穴なんてものではなく。本当にただ偶然、開いてしまっただけの未知への入り口だったのかも。

 無限に続くかのような、この一本道の先にあるのは、"冒険"へと踏み込んだ勇気を称える、素敵なご褒美かもしれません。



「ひょっとして王都まで続いているんじゃない? ちょっと楽しみ」

「どうでしょう? 人間の足だと歩き通しで十日はかかりますが」

「えっ、そんなに遠いの?」

「最近は何かと物騒ですし、観光はあまりお勧めできません」



 興味を惹かれるままにしゃべってみますが、リンネさんはあまり乗り気でない様子。まあ、考え直してみれば確かに。


 お姫様が攫われたり、付近の村で若い娘の失踪事件が相次いでいたり、魔神王の復活が控えていたり。こうもイベント目白押しとあっては、せっかくの歓楽気分も削がれるというもの。



「アルル様も、いずれはそうならざるを得ない状況になるかも知れません。このまま冒険者として名を上げれば、いつか大きな争いが起こった際、王都へと召集されることになるでしょう」

「んー、あんまり危ないことはしたくないなあ」


 

 正直なところを吐露すると、リンネさんは「おやおや」とおかしそうに口元を緩めます。



「随分と不真面目な発言ですね。冒険者たるもの、世の人々の安寧のため身を粉にして戦う責務を背負うというのに」

「そういうの全部ほったらかして、こんなところでスライム食べ漁ってていいの?」


 

 私も負けじと、澄まし顔に言い返してやります。



「人間どうせいつかは死ぬのです。ならば、好きなものをお腹いっぱい食べて、心豊かに生きたいではありませんか」

「そんなんでよくギルドの人格査定通ったね?」

「そこはほら。神官ですので」

「先入観って大切……」



 気付けば、なるべく会話を続けることに意識を割いていました。分かっていながら止められないのが、考える葦たる人間の本質なのでしょう。


 ランタンが作る灯りだけでは、あまりにも心許なく。無言や沈黙を糧にして増大する畏れから、目を背けたい一心でした。 


 楽しくおしゃべりしていても、先に待ち構える脅威に対する不安は募る一方。それを確かるために進んでいるのですから、考えていても仕方ないのですが、どうにもままならないものです。


 意味を持たない考察を脳内で転がし続けていた、その矢先。



「どうやら出口のようです。いいえ、入口でしょうか」


 

 リンネさんの声が耳に届き、私の思考もまた、長いトンネルから抜けたようです。

 濁った頭がクリアに晴れ、視覚から得た情報を処理して目の前の光景を鮮明に映し出します。


 単調なトンネルから這い出た先は、広大な閉鎖空間が広がっていました。

 

 

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