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スライムイーター ~捕食者を喰らう者~  作者: ユエ
3話 暗躍する者の影
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5 アルル様でお願いします


  

「で。またこのパターンか……」



 翌日のことです。


 リオンさんの計らいによって、私はスライムイーターさん―――もといリンネ・アルミウェッティさんとパーティーを組まされ、再び中央広場の噴水の前に立っていました。


 どうもにも、ギルドの才女に(たばか)られた気がしてなりません。彼女は最初からこうするつもりで、私に甘い言葉をかけてきたのではないでしょうか……。


 吹き抜けるのは、良く晴れた日のさわやかなそよ風。青いお空はあんなに広いのに、私の心はずっしり重たいです。


 おや? いつの間にやら私、蒼穹に想いを馳せるのが癖になってますね。どうしてだろー。


 ……まあ、分かってはいるのです。ええ、すべては自業自得。

 おかしな見栄を張らずに、大人しく素直にごめんなさいをして、危険な案件から身を引くべきでした。


 それができなかったのは、ひとえに私が小心者だからでしょう。

 内心ほとほと困っている様子のリオンさんを前にして、ノーを突き付けられない冒険者。それが私。


 いずれにしても、私がこの件に駆り出されることは自明の理。ギルド上部からの命令となると、容易に断ることもできず。


 死地へと赴く私のお供にベテランの専門家をくっつけるのが、受付嬢として板挟みにされた彼女にできる精一杯だったのでしょう。

 

 とはいえ、しかし……。



「場合によっては、前回より厄介な相手と組まされてしまった……」

「それはわたしのことですね?」

「ああ、いえ、えっと。あはは……」



 すぐ横からアルミウェッティさんが顔を覗かせます。


 薄く微笑まれ、私はビクッとして一歩距離を取りました。余計なことを口走るのは止めにして、神妙に態度を改めることにします。


 というわけでして、彼女と二人一組(ツーマンセル)を組んで、地下水道の調査の再開。

 前回の不手際と同じ轍を踏むことはないでしょうが、先行きが酷く不安です。


 一応最低限というか、出来得る限りの装備は整えてきたつもりです。


 ワンピースは新調し、新たに防刃性の高いケープを装備。小刀を追加で購入し、革製の小物入れ(ポーチ)は天日干しした"スライムの核"でぎゅうぎゅう詰め。


 ちょっと思う所があって、クリーナーにもひと工夫加えてみました。さて、どこまで通じるものか。 


 緊張気味の私と対照的に、アルミウェッティさんはとても穏やかな表情。

 まるでこれから昼食に出かけるかのような……。まあ、彼女の場合はまさにそうなるのでしょうけど。


 身に着けているのは、ごく一般的な修道服。黒を基調とした布地に白のラインで縁どられ、胸元に銀の十字架(ロザリオ)が光ります。パッと見、手荷物も少なくほぼ手ぶら、といった様子。


 だからでしょうか。背負う木刀は一際目立ち、ただならざる者の雰囲気を纏っています。


 堂々たるこの余裕こそが、第二級冒険者たる者の風格。

 ひと声掛けるのにも少々気後れしてしまいます。

 


「アルミウェッティさん、えっと。これからどうしましょうか?」

「リンネで良いですよ、アルル様」

「何故に様づけ? 私、見習いなんだけど?」

「立場はどうあれ、今回わたしは同行を認めてもらった側ですから。リーダーはあなた様に」

「また私がリーダーかい……」



 勘弁してよ、と声のトーンを落とします。


 率いたチームを全滅させておきながら、どの面下げてまたリーダーなんてやればいいんでしょうかね。


 しかも今回冒険を共にするのは、遥かに格上のベテラン冒険者。正直、気が引けるどころの話ではなく……。


 早々に辞退を申し出ます。



「十三歳の見習い冒険者に様付けは止めましょうよ、せめて」

「等級や年齢など些細な問題。これは心の持ちようです」

「さいですか」

「ふむ。気に入りませんか? では、ルーちゃんと」

「アルル様でお願いします」



 にこやかに拒絶を叩き付けます。 


 ため息一つで切り替えて、



「それじゃあ、出発しますけど」

「ええ、参りましょう。スライムが我々を待っています」

「待ってなくて結構」



 例の事件があったせいか、ギルドは地下水道への立ち入りを禁止しました。出入りできるのは、ギルドで正規の手続きを受けた者だけ。

 預かった鍵で噴水脇の固く閉ざされた錠前を外し、今度は私がパーティーの先頭に立ち、地下水道への階段を降りていきます。


 今回のミッションは、前回同様水道内部の調査。かつ、大量発生したスライムの掃討。


 大きく違うのは、行方知れずとなったままのマインさんの捜索が追加されたこと。

 もう一つは、出現するスライムの危険性が桁違いに高いこと。あの巨大スライムがいつ飛び出してくるとも限りません。


 そのため、地下水道へ降りてすぐに陣形交代。リンネさんに前を歩いてもらいます。

 私が後衛を務めているように見えて、その実リンネさんに全方位カバーしてもらうようなものでしょう。


 そんなお荷物状態でありながら、しかし前回のような気楽さは欠片ほどもなく。視界を遮る暗闇も、漂う空気も、何もかもが一変して感じられました。


 気を引き締めて臨まなくては。

 

 

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