表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライムイーター ~捕食者を喰らう者~  作者: ユエ
3話 暗躍する者の影
27/79

2 リンネ・アルミウェッティ


 

 冒険者家業は決して真っ当な仕事ではない。ギルドの受付嬢たるリオンも、そのことは重々承知の上。そのはずだった。

 今しがた後輩から言われたことを反芻し、しばし思いに耽る。


 頭では分かっていたのに、いつの間にやら新米に対して口を挟んでしまうほど、冒険者に干渉していた事実がある。


 そして、見習いの彼女へはより明確な意図を持って、皆が嫌がる依頼を押し付けていた。

 この三か月、溜まることのなかった依頼書の束が何よりの証拠だ。


 それと自覚し、しっかりと反省してなお、憂鬱な想いばかりが口を突く。



「死んでしまったのならそれまで。大怪我して再起が望めないなら諦めもつく。けれど、擦り傷程度で済んでしまったと聞くとなおさら……」

「不幸中の幸いじゃないですか」

「場合によってはそうじゃない。動く体があるのに心は死んでいるだなんて、想像を絶する葛藤よ。あの子が今まさにその渦中にいるんだと思うと……」



 普段は胸の内にしまっておく愚痴が、次から次へと溢れていく。やるせない想いは募り、思考を鈍らせるばかりだ。


 そんなリオンを見かねてか、後輩の受付嬢はジトッとした半眼を作り、ぶっすりと釘を刺した。



「先輩。さっきはああ言いましたけど、励ましに行ったりしたら駄目ですからね?」

「とっても行きたいけれど、無理よねえ」



 リオンは隠すことなく本音を吐露し、背もたれに身体を預けて高い天井を仰ぐ。どうせしまっておけないのだ、この際我慢するのは止めにした。



「都合の良い冒険者を失って落ち込むのは分かりますが……。あんまり組み入るなっていう、良い教訓になったんじゃありません?」

「あーあ、残念。良い娘を見つけたと思ったのに……。どうしようかな、この大量のお掃除案件」



 大きく伸びをしながら、大声で愚痴る。後輩のことをとやかく言えないくらい情けない姿を晒して、澱のように募るストレスを発散する。


 いい加減、切り替えなければならない。


 手元に山積みになっている問題を、このまま放置しておくわけにはいかない。最悪上層部に報告し、ギルドお抱えの職員を動かして、依頼を片付けるしかない。


 きっとまた上司にどやされるだろう。それだけならいい。一番の問題は地下水道だ。


 報告にあった巨大なスライムの件を踏まえ、死亡者まで出したとあっては調べないわけにはいかない。


 ただ、話を聞く限りこれは高難易度の怪物討伐案件だ。

 新人に任せれば二の舞になるが、スライムが相手となると中堅以上の冒険者は見向きもしない。


 手の空いている冒険者に片っ端から声を掛けてはいるものの、望んだ成果は得られず。

 この手の案件を処理してくれそうなベテラン冒険者は、もはや一人しか思い当たらなかった。



「そんな奇特な方がまだいるんですか?」

「見たことなかったけ? この町出身の第二級冒険者よ」

「二級! でも、ベテランが進んで協力してくれる案件じゃないですよ、これ?」

「普通はそう思うよね。けれど、彼女は特別なの。スライムが関わる案件ならきっと喜んで―――ん?」



 その時、ギルドの扉が開いた。

 たった今入ってきた女性冒険者に気付き、リオンはぱっと顔を明るくする。



「噂をすればねえ、ふふ」



 人気のない酒場を抜け、マイペースにこちらへやって来るのは、黒を基調とする神官服を身に纏った若い女性。


 不意に目が合い、薄く微笑みを見せる。しずしずとした足取りでカウンターへやって来きた神官の女性は、開口一番こう告げた。



「スライムをひとつ」

「何度も言いますが。定食屋じゃあないんですけど、ここ……」



 リオンは、やや呆れ顔で首を傾いだ。


 神官の女性は「つい癖で」と謝罪をひとつし、言い直す。



「スライム討伐の依頼を受けたいのです。どうやら掲示板には一つも貼り出されていない様子。あなた方が隠し持っているに違いないと」

「人聞き悪いなあ……、誰も受けてくれないから回収しただけですよ」



 リオンは呆れ半分といった笑みを零しつつ、手元に依頼書の束を引きずり寄せた。


 スライム案件の依頼書を選り分けながら、何となく世間話を振る。



「それにしてもお久しぶりですね、リンネ・アルミウェッティさん。王都での捜索依頼でしたっけ? もう片付けてしまうとはさすがです」



 送られた世辞に対して、リンネと呼ばれた神官は静かに首を振り、



「いえ。スライムが出そうにないので早々に引き上げてきました」

「あ、さいですか」



 至極当然のような顔してそうのたまうものだから、リオンは思わず次の言葉を見失ってしまった。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読了、ありがとうございました。
感想・評価いただけると嬉しいです! 最新話ページの下部にあります!
― 新着の感想 ―
[良い点] スライムをひとつwww リンネさんっていうんですね!スライムにしか興味がないようでw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ