6 ハリボテリーダー
「何だよ、なんか不満か、掃除屋?」
無遠慮に観察し過ぎたのか、目が合った途端にクランさんから威圧されます。
「棘のある言い方やめてください。一応リーダーなんですよ、私」
「はん、不名誉な称号もらっておいてリーダーも何もあるかよ」
初対面時、何も知らない小娘を快く冒険へ誘ってくれた素敵な騎士はいずこへ?
クランさん、敵意剥き出しでした。
「さっさと済ませようぜ、リーフ、マイン。こんなの、つまんねえ依頼だよ」
「まあ、そうね。適当にやっちゃいましょう。クランと私がいればスライムくらいなんでもないわ」
「うん、任せて。あたしも頑張っちゃうっ」
クランさんは意気揚々と仲間たちに声を掛けると、返事も待たずに先行します。
リーフと呼ばれた耳長の娘とマインと呼ばれた尻尾の少女も、ほいほい後に続きます。
三人は広場の噴水脇の鉄格子を開き、地下水道へと続く長い階段を下りていきました。
「ああ、いけません。団体行動を乱しては」
「君だってずっとソロでやって来たんだろ? 今さら何だよ? 俺らはあれから何度も冒険してきた。スライムなんて楽勝だっての」
仄暗い闇の向こうから声だけ返ってきます。こちらの忠告には耳を貸さず、さっさと奥へと進んで行ってしまいました。
「悪いわね。彼ったら嫉妬しているみたい。いち早く武勲を上げたあんたに」
「嫉妬?」
最後まで残ってくれた魔術師さん、軽く肩を竦めて呆れて見せます。
「私はオリビア。よろしく」
他三人と違い、毅然とした態度と冷静沈着な物腰。パーティーの中で一番の年上のようですし、実質彼女がまとめ役なのでしょう。
「武勲って、もしかして二つ名のことですか? 街の掃除屋なんですけど?」
「それでも、よ。納得できない気持ちがあるものなの。……私にだってね」
凍るような冷たい眼差しで「調子に乗るな」と釘を刺し、彼女も地下水道へ。
「これまた前途多難ですね……」
ため息を一つ。
私も仕方なく後に続きます。
正直不安で一杯でした。今すぐ依頼を放り出して部屋に帰りたい。
スライム退治だけならともかく、同期冒険者の自尊心へ配慮しなくてはならないとか……。
報酬を上乗せしてもらわなければ割に合わない仕事量です。ぼやきたくもなります。
「……まあ、これが終わればひとつ貸しを作れるわけだし。人と人とのつながりを大切にしなければ」
どちらかというと、彼らよりもギルドの才女との間にできたコネクションを大切にしたい。
結局のところ、私は彼女の期待に応えたかったのでしょう。
冒険を侵さず、
安全を優先し、
他人に甘えて、
誰かのせいにして……、
ただひたすらに可愛がり続けてきた自分を変えたい。
こうやって変えていくことができるんじゃないかって、そんな風に思って。
調子に乗ってしまったからきっと、あっさりとあっけなく、足元を掬われてしまったのでしょう。
"それ"と出くわしたのは、地下水道の探索に半日を費やした頃でした。
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