~第二の錦織圭たちに贈る言葉(14)~『気力を使うグランド・ストロークの基本をわすれるな!』
〜第二の錦織圭たちに贈る言葉(14)〜
『気力を使うグランド・ストロークの基本を忘れるな!』
1. まえがき;
2018年5月BNLイタリア国際ローマ大会の準々決勝で錦織選手はジョコビッチ選手に12連敗を喫した。勝利のために乗り越えられない壁は何なのか?
それは、セットオール迎えた第3セット、ゲームカウント3対3の場面でした。ジョコビッチ選手が気力のストロークを繰り返したのです。過去の全米オープンの準決勝で錦織選手がジョコビッチ選手に勝利した後、ジョコビッチ選手は錦織選手の弱点を研究し、その後の対錦織12連勝を決定着けた瞬間である。
全米で錦織選手に負けた当時、コンピューターメーカーから錦織選手の試合での詳細なプレー・データを手に入れたジョコビッチ選手やアンディ・マレー選手などは、錦織選手が速いストローク球に対して返球ミスが多いことを知り、ここ一番で気を込めたストロークを放つようになりました。この情報は下位ランキングの選手たちにも伝わりました。一年後、錦織選手は球速の速いストロークには対応できるようになりましたが、ジョコビッチ選手の気の籠ったストローク球には打ち負けることが続いています。それは、錦織選手に別の弱点があるからです。錦織選手のその弱点とは『グランド・ストロークの基本を時々忘れることです。あるいは、インプレー中に気を抜く(休む)時があり、その時、技術力が落ちることです。』この弱点を引き出すために辛抱強く気の籠った強打のストロークラリーを繰り返すことを心がけているのがジョコビッチ選手でした。
気を抜く癖を直すには、大脳皮質に構築された神経回路網にある『気を抜く記憶回路(練修で知らない間に出来てしまった神経細胞の電気回路)』を消滅させないといけないが、基本を意識した練修を繰り返して基本的対応を身体に覚え込ませることは可能です。
頭脳の働きには『自然思考』と『論理思考』があります。『自然思考』は何も意識しないでいると、記憶として構築された大脳皮質の神経回路網の電気が流れやすい経路へ電気が流れ、それに対応した動作が行われてしまいます。しかし、『論理思考』では頭脳中枢にある海馬の働きによって、意志する神経回路に電気を流すことができます。同じことを繰り返すことによって、新たな記憶回路が構築されるのです。
2. 贈る言葉;
贈る言葉(1)で述べたように、テニスは物理学で謂うところの衝突問題である。
ボールからの反力で体は後へ押し返され、押し負けることが無いようにしなければならない。グランド・ストロークに於いてこの影響を小さくするには、膝を曲げ、腰を落として、臍の高さでボールをインパクトする基本のストロークショットを打つことである。錦織選手はジョコビッチ選手との強打の打ち合い(ラリー)になった時、この基本を忘れたショットのために打ち負けてしまう場面があり、重要なポイントを失うことがありました。一方、ジョコビッチ選手は腰を落として気を込めたストロークを放っているのが印象的でした。過去、アンディ・マレー選手もこのストロークで重要なポイントを取り、錦織選手に勝利しています。
気を込めたグランド・ストロークをするには、両足の足裏をしっかり地面に着け、臍下丹田(臍の下3センチの場所)に力を込めてボールをインパクトすることが必要です。(臍下丹田は気の集中する場所とされています。)
このショットが出来ると、相手コートの地面に落ちたボールは滑って行き、相手はボールを捉えるのに苦労します。特にローマ大会のような赤土コートでは顕著です。このボールに対処するには腰を落としたグランド・ストロークが行えなければ、ボールの強さに負けて、返球はネットしてしまいます。錦織選手は高い打点でエースショットを放つことに意識があるので、この滑ってくる低いボールを腰高で返球してネットし、重要なポイントを失いました。ジョコビッチ選手やアンディ・マレー選手との過去の試合も同じパターンで負けていました。錦織選手が基本を出来ないのではなく、時々、気を抜き、基本を忘れる癖があるのが弱点なのです。高い打点でのストロークでも両足でしっかり地面を踏んで、臍下丹田に気力を込めて打球することが必要です。腰高で低い打点のストローク返球する場合でも、しっかり両足を地面で踏ん張ってインパクトすればミスは減るでしょう。ジャンプしてストロークする時は、体を前に動かしてボールからの反力の影響をなくすことも重要です。
要は、気力を込めたショットを放つことができるかどうかです。
3.あとがき;
ストローク技術で押し負けると、心が弱り、体が動かなくなり、更に技術が使えなくなって負けパターンに入ります。気力が無くなれば負けです。
宮本武蔵は五輪書・火の巻で、相手の『底を抜くと云う事』が重要と述べています。樽の底を抜くと中にあった水(気力・闘争心)は流れ出て無くなると云う意味です。
底を抜かれないように気を配り、技術で心を支え、心を活性化させて、体の動きを良くすることが勝利への道なのです。
現在の科学では『気』を測定する機器がないので、『気』が存在するとは認められていません。しかし、合気道の達人は、相手に触れずに、相手の気を取って引きずり倒すことができます。あるいは、相手の気を利用して、5メートルくらい跳ね飛ばす達人も居ます。
『諸君の健闘を祈る』
目賀見勝利より第二の錦織圭たちへ
2018年5月20日
参考文献;
頭脳のメカニズム エドワード・デボノ著 箱崎・青井訳 講談社 昭和47年2月発行
気の発見 西野皓三著 祥伝社 平成元年12月 初版発行
気の超力 西野皓三著 実業之日本社 1995年1月 初版発行
宮本武蔵五輪書 神子侃訳 徳間書店 1963年8月 発行