エピソード2
父の同僚
あれは僕が大学受験の願書を提出しようと準備している夜だった。家には父親の職場の同僚が来ていた。恐ろしくこてこての関西弁が聞こえてきて気になってはいたが、大事な願書を前に集中を切らすわけにはいかなかったのでリビングで母親に確認してもらいながら作業を続けた。そしてすべての必須項目に書き込み、残すは封筒を閉じる作業だけという時に初めてしっかりと父たちの姿を見た。一人はハゲかかっていたが、もう一人は明らかに意識の高いイタリア風関西人だった。
「真司、こっちは岡ちゃんで、こっちは圭佑だ。挨拶しなさい」
「こんばんは」
「同じ名前だね!こんばんは」ハゲかかっている方に名前が同じだと言われ何と言っていいかわからなかったので、とりあえずまだ途中だった作業を終わらせることにした。切手を貼り、のりを探していると、ミラノ風パツ金自己主張強い系おじさんが封筒を持って僕に話しかけてきた。
「受験ということは個の力を伸ばすいい機会ですね!つまり、伸びしろですね!そして今僕が左手でつかんでる部分。これ……のりしろですね!」
その日以降父が彼を家に連れてくることも、話に登場させることもなかった。




