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本田だったかもしれない  作者: 社岩家難
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エピソード1

   教育実習生


 あれは、僕が中学二年生だったころだ。夏休みが終わり、二学期の始業式。校長の意外とあっさりした挨拶の後、前には見慣れないスーツの大人たちが立っていた。一人ずつ自己紹介を始めたのはそう、大勢の生徒を前にした緊張とえげつなく自分たちをイジって来るであろうこの先の二週間の生活を想像した恐怖で引きつった顔を、やる気のなさそうな奴だと印象づけるための演技でごまかそうとする伝説の少数精鋭部隊、教育実習生だ。一組を担当する人間から順に自分の名前と少しのアピールをさせられていた。

「えぇ、中田浩二と言います。特技はトルシエ監督のモノマネです。二週間よろしくお願いしますっ」

隣の海堀がなかなかのイケメンに反応しているのを感じていたら次が自分のクラスを担当する人間の番だった。金髪にサングラス並みの眼鏡をかけて、一人だけ真っ白なスーツで両腕に時計をしているどこかで見たことのあるシルエットが見てる僕らを何かイラッとさせる彼が話し始める直前に斜め後ろの誠が話しかけてきた。

「おい真司、そーいやー今日の練習ハナホジリッチ監督が秋季大会の抽選でいないんだってよ!」

前のミラノのかほりを匂わせる彼が気になっていた僕は誠に向かって少し睨みながら口に人差し指を当てて黙らせた。

「……圭佑です。特技は……」苗字を聞き逃した僕は後ろを向いて誠に尋ねてみた。

「今なんて言った?」

「ハナホジリッチがいないって」

「そうじゃなくて俺たちの教育実習生だよ!」

「悪ぃ。心整えてたから聞いてなかったわ」誠がそう言った後、海堀がさっきの誠の発言が気になったようで会話に入ってきた。

「ねぇ、あんたさっきからハナホジリッチって言ってるけどハリる・ジョコビッチ先生のこと言ってんの?」

「そうだけど?」

「くだらないあだ名付けてんじゃないわよ」

「いや、理由があんだよ。こないだ練習メニュー聞きに職員室行ったらさ、お前らの監督の穂希先生と監督がシルバーウィークのグラウンドのスケジュールの件話しててさ、お互い譲らなくってさ、どーすんのかなーって思ってたらうちの監督穂希先生目の前にいるのに鼻ほじり始めちゃってさ……」

そんな話をしていたら始業式は終わってしまい、モヤモヤが残るまま教室に帰った。担任が教育実習生と談笑しながら且つタップダンスしながら教室に入って来た後、担任が少し話した。担任の話が終わると教育実習生が僕らのクラス用にもう一回自己紹介することになった。誠がまた話しかけてきて、またもや苗字を聞きそびれてモヤモヤが溜まっていく僕は、彼の話をものすごく熱心に聞いていた。

「……ということでね、まあ僕が一番言いたいこと、これね、結局君たちにはすごい未来が待ってるってことなんですね!要するに……伸びしろですね!」

その後彼が学校に来ることはなかった。

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