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 ひゅっと飛んでぱっと掴んで。

 ポイントからポイントへの最短距離を私はすいすいと進んでゆく。

 おそらく傍から見たら「げっ」とか「ひぃっ」とか言いたくなるような道なき道をすいすいと。


 チートまみれの私の能力は身体能力にも自重することなく発揮をしてしまったので「こうしたい」「ああしたい」と思った通りに身体は動く。

 つまり、人の手があまり入っていないといっても人に管理はされている裏山くらいならチートな身体能力で危なげなく進んでいける。

 しかし!ここで「余裕余裕」とか思ってはいけない。チートはどうあがいてもチート。何があるか分からないものです。日々の鍛練は怠っておりませんとも!慎重さは常に必要ですよ。


 岩肌を登りきって下げていたポシェットからコンパスをとりだす。

 頭に叩き込んである裏山の地図と地形を思い出しながら方向を確かめてつつ進む。

 えーっと、ここを抜けたらポイント地点が…あ、あった。先輩方の背中を発見。


「お疲れ様です」

「「!!」」


 後ろから声をかけたら第2ポイント地点にいた先輩二人がびくっとなった。

 驚かせてしまったか。すまぬ。


「…斎条さん?」

「はい。斎条です」


 え、驚いたんじゃなくて顔を知られてなかったパターン?

 はっ!なんということだ!私としたことが烏滸がましい!!

 先に挨拶が済んだからといって33人もいるのにその中のたった1人の新人が先輩たちに覚えられていると思うなんて!


「名乗りもせずに申し訳ありません!Jグループ斎条由紀菜です。ポイント通過の課題をお願い致します」


 ああ、やってしまったなぁ。恥ずかしいなぁ。いっそのこと引きこもりを…しないよ?頑張るよ?ちょっとしたいのは内緒だよ。…とりあえず、課題をくださりませ。


「あっ、ごめんごめん。はい、どうぞ。ここの課題は一問だけだから斎条さんひとりでも楽でしょ」

「楽なんてことはないですが…ありがとうございます」


 受け取ったバインダーを開くと数学問題が書かれた用紙が一枚挿んであった。

 入学試験のレベルくらいかな。


「ちなみに現順位はどうなっていますでしょうか」


 問題からは目線を外さずに順位を聞いてみる。

 現在の順位によってはコース変更しなくちゃいけないしな。


「斎条さんは3位通過」

「1位と2位は?」

「1位がBグループ。2位がGグループ」


 Bは水無瀬さんのチームでGは陸上特待生が率いているチームだな。

 ふむふむ、予想通りかぁ。


「ありがとうございました。できました」


 答えを書いてバインダーを返すとポカンとされた。


「あ、もしかして計算式も書くべきですか」


 回答だけ書いてしまった。


「いや、いいよ。大丈夫。正解してるし」

「そうですか。では、失礼いたします」


 次のポイントへレッツゴー。


 ◆


「なぁ、お前この問題暗算でできるか?」

「無理に決まってるだろ」

「だよなぁ」

「てか、斎条さんもう見えないんだけど」

「その前に斎条さんが向かった先は道じゃないからな」

「だなぁ」


 ◆


 方角確認と最短ルートの再確認のために木の上から先を見下ろす。

 通常先に通過した2グループが見えた。このままいけば順位は変わらずかな。

 採用試験と言っても私は落とされるわけでもないので、このまま3位で終了しても問題はないのだけれど、そうにもいかない理由がある。

 そろそろ頃合いでもあるから追いつきましょうかね。


 手ごろな木から木へと飛び移りながらほぼ直線でポイントへ向かう。

 第3ポイント地点近くて通常の道沿いに出て、地点には歩いてたどり着いた。

 私を視線に捉えた2組のチームはさっきまで後ろにいなかったのに降ってわいたように出てきた私に驚いている。


「お疲れ様です。Jチーム斎条由紀菜です。課題をお願い致します」


 平然としている私と茫然としている彼ら。ふはははは!驚きたまえ驚きたまえ。

 …調子乗ってすいません。


「はい。課題」

「ありがとうございます」


 ここでも頭脳問題かぁ。でもさっきは数学1問だったけれど、ここでは計4問。ジャンルも数学・英語・古文・雑学とさまざま。

 チームは全員で力を併せればいいけれど、私はひとりぽっち。そう、ひとりぽっち。

 他のチームはあーだこーだと話し合っているのがうらやましいな。


「できました」


 いくらさみしくても時間はまってくれないのでさっさと解きました。

 先輩へと回答を渡すと何やら驚いた様子で受け取ってくれた。

 私はなんもしとらんよ?


「…正解」

「ありがとうございました。では、失礼します」

「ちょっと待ちなさいよ!」


 振り向かなくても誰か分かっていますが振り向きましょう。

 なんでございましょーか、水無瀬さん。


「なにか?」

「いくらなんでも早すぎでしょう!!問題知ってたんじゃないの!?」

「いいえ」

「嘘っ」

「なぜ?」

「無理に決まってるじゃない!」

「無理だとなぜわかるの?」

「それはっ」


 冷静な私の返しに水無瀬さんはぐっと口とつまらせた。


「私に突っかかる前に問題を解いた方が有意義だと思うよ」


 それだけ言って私は先に続く道ではなく森の中へと足を進めた。

「そっちは道じゃない!!」と叫ぶ声は無視をして私は進んでいった。

 少しは悪者っぽくできたかな。

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