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試験です

 危機管理能力というものがある。

 危機に陥った場合、どのように上手く対処し、破綻しないように被害を最小限に留める能力の事をさす。

 危機管理能力は事前にどれだけリスクを予測、分析しそれに対して予防を準備しておけるかがカギとなる。


 そんなことを頭で考えながら、私は現在山登りの真っ最中です。

 普通の道ではなく、整備されていない道というか急斜面の岩肌を全身の筋肉を駆使して登ってゆく。命綱無しなのはスリルがあるな。一人きりなのも寂しい。ぷーりず相棒。


 何故私がこんな山登りをしているかというと、風紀の採用試験中だからでございます。

 文武両道を掲げて活動をしている風紀の採用試験は身体能力と頭脳が試されるためただの山登りではなく、ポイント地点での知能テストが待っていたり、仲間と協力しなければ達成できない課題が出されたりしている。

 どれだけ早く攻略してゴールまでたどり着けるかというのも見られているが、速ければ良いと言うわけでもなく、ポイントでの課題をこなす正確性も見られたりしている。総合的に観察されているという訳ですね。

 私は副長及び先生の推薦と2つそろっているので採用試験は受けなくて良い…はずだったのだけれど。

 こうして参加をすることになったのには少し前に遡る。


 入学式でトラブルがあったものの、殆どの新入生は何事も知らずに過ごし始めた。

 その日、クラスでは各委員の選出などが話し合われていた。

 生徒自治会と風紀以外はクラスから必ず1名は必要となる。

 クラス委員長が決まり、その他各委員がスムーズに決定していく中で私は黙って席に座っているだけ。

 私はもう風紀に所属が決定済みだからそうするしかないのだ。

 私がしたことと言えば「新入生代表だったから生徒自治会に入るんだよね」的な空気があったので、風紀ですと訂正したくらいだ。

 しかし、その訂正をしてから斜め後ろの方からすごい威圧が感じられる。

 どうやら私の事を気に入らない人がいるらしい。無用な争いはしない主義ですので、睨まれるくらいは気にしませんよ。

 睨んできたクラスメイトは全ての委員が決定した後も休み時間も何もしてこなかったしね。


 だから争うつもりはないのだと、思っていた。

 それが覆ったのは数日後。

 そう、本日の風紀の採用試験の日である。


 風紀へ志願してきたのは32名。

 全員動きやすいスポーツウェアに着替えて学園の私有地である裏山入口へ集合していた。

 志願者に採用試験の説明が総長からされている間、私は志願者側ではなく、風紀側である先輩たちに混じって聞いていた。


「説明は以上。何か質問がある者はいるかしら?」

「疑問があるのですが、よろしいでしょうか!」


 勢いよく声を上げたのはあのクラスメイトであった。


「いいわ。名前は?」

「ありがとうございます。1年C組水無瀬(みなせ)詞子(うたこ)と申します」


 名乗りを上げるとクラスメイト、水無瀬さんは私をいつものように睨んだ。

 これはもしかしなくとも…


「何故、私たちと同じ1学年である斎条さんがそちらにいるのでしょうか」


 やっぱ私の事かーい!

 まあね、一人だけこちら側にいるのだから気になるよね。

 ちらりと明瀬総長がこちらを見たが、すぐに視線は戻ったので私は表情には出さずに成り行きを見守ることにした。


「斎条さんは先生からの推薦と三科副長からの推薦の2つの推薦をもらっています。一足先に所属の登録も完了しているから今回の採用試験には参加しないわ」

「もう風紀に所属しているから試験は必要ない。ということでしょうか」

「その通りよ」

「しかし、今回の試験は能力値を測るためのものでもあると」

「ええ、確かに言ったわね」

「では、斎条さんの能力値は測らなくても良いのでしょうか」

「斎条さんの能力値ならもう測ってあるわ」


 あれ、いつ測りましたっけー?と空気クラッシャーはしなかったよ。私が口を出してはいけない。


「だから、必要ない。と?」

「納得していない顔ね」

「すいみません。総長の言葉を疑う訳ではないのですが…どうしても依怙贔屓に思えてしまうのです」


 不満げな様子を隠しもせずに水無瀬さんは私を睨む。

 水無瀬さんの意見に少なからず同意があるのか「確かに」とか「ずるい」とかの声がちらほらとあがる。

 逆に「推薦があるんだし」「総長が認めてるなら」という肯定的な意見も聞こえてくる。

 ただ、「でも斎条さんだし」とか「だよね、斎条さんだし」という理由で納得した人と少々お話をしたい。私だしってどういうことだ!具体的な理由を述べてくれ!


「そうね…良いでしょう。新人同士、確執があったままでは今後に支障がでますからね。斎条さん」

「はい」

「いいわね?」


 明瀬総長が私をみてニコリとほほ笑んだ。


「もちろんです」


 私もニコリとほほ笑み返した。


「多少内実を知っている事も「ずるい」と負けた言い訳に使われそうですから、ハンデを付けて私は一人で参加いたしましょう。それでなくとも一人勝ちではつまらないですから」


 私が勝ち、他が負けることを前提にした私の言葉に水無瀬さんはムッとしていた。

 その他便乗して「ずるい」と発言をした人は目線をそらしていたけれど。


 そんなわけで、私も採用試験に参加中となっております。

 さあさあ、楽しくまいりましょうか。

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