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入学式です

 少しだけ昔を思い出そう。

 愚か者である事を自覚した私は色々考えた。

 そもそも「転生チートでうっはうは(笑)」とか思っちゃうくらいには前世はゲームだのマンガだの小説だの、そういった物によく触れる生活を送っていたのだ。

 だから考えた。

 無い知恵を絞って考えた。


 この世界は前に私のいた世界と同じなのか?

 この世界はゲームや漫画の世界なのではないか?

 この世界には私以外にも前世の記憶を持っている人がいるのではないか?


 色々考えて、思考して、思案して、思慮して。

 覚えていることを頭が痛くなるまで掘り起こして。

 考えれる限りでの可能性を並べた。


 でも、結局紛い物の私に世界なんて大きなものを理解することはできなくて。

 どれだけ私がちっぽけなのかと思い知らされるだけになった。

 うん、「私恥ずかしぬ」と悶えたよ。


 今は「こういうことなのだ」と思う事にしている。

 ここがどういう世界であろうとも、私はここにいて、ここで生きている。

 それだけでいいと思うんだ。

 そう思えるようになった切欠を作ってくれた彼が、目の前にいる。


「新入生代表、斎条由紀菜です。本日はよろしくお願いいたします」

「生徒自治会、統括。侑斗(ゆうと)・S・タウリアイネンです」


 きっと、幼少期に2度あっただけの私のことは覚えていないだろう。

 誰も寄せ付けない雰囲気を前面に押し出していたのに、こんな風に人に接せられるようになったくらいなのだから、彼にも今まで色々あったことが窺い知れるというものだ。

 昔の事など忘れていたって仕方のない事なのだろう。寂しくなんかないぞ。…ないもん。

 だいたい、「覚えてますか?」とか私から聞いたら恩義せがましいじゃないか。


「先程先生から講堂の装飾デザインは統括がされたとお聞きしました。細かな所まで考えられていて思わず気持ちが高揚いたしました」

「ありがとう。そう言ってもらえて良かった。今日は新入生代表、よろしく」

「はい。ご期待に添えるように尽力いたします」

「それと、その…」

「ゆうとー!ちょっときてー!!」


 彼が何か言いたそうに言いにくそうにしているのに内心首を傾げていたら彼がはっきりと話す前に彼女様が少し離れたところから彼を呼んだ。

 声を上げてまで呼ぶとは、なにか緊急事態でもあったのかもしれない。


「私の事はお気になさらず。手順は篠崎先生から聞いております」


 私にかまけて大切な式に何かあってはいけないと彼を促す。

 それでも彼は何か言いたそうにしていたが、「ごめん。入学おめでとう」と言って小走りに彼女様の元へかけていった。

 あー、やっぱりお似合いだわぁ。

 ファンクラブとかないのかしら。あるのかしら。むしろないなら作りたいよ。

 パーフェクトカップルを見守る会とかどうですか。ネーミングセンス?ないけど何か?


「じゃあ、もうすぐ他の新入生も入って来るから僕は向こうにいるね」

「はい。ご案内ありがとうございました」

「どういたしまして」


 篠崎先生も去って行ってから私は指定された席に座って一息つく。

 ちらりと彼の方をうかがうとやはり彼女様と何やらお話し中。

 彼は背中しか見えないけど、彼女様の顔は不安げに見えてちょっと気になる。けれど、何があったのか分からなければ口も手も出せない。

 そうこうしている間に他の新入生たちも在校生に案内されて講堂に入ってきている。

 仕方ないのでそろそろ来ているであろう母にメールを送ってから電源を切って前の舞台へと目線を移した。


 ◆


 粛々と入学式は進んでいく。

 在校生代表はもちろん統括の彼である。

 後ろからほぅっと息をつく音が耳に聞こえてきた時は「同士よ!!」と振り向きたかった。

 彼だけでも素晴らしいのに、彼女様と並ぶともっとため息ものですよねそうですよね。どなたか彼と彼女様の素晴らしさを私と語らいませんか。随時仲間は募集中です。


 私のお役目も無事に済みました。

 特に目立つほどの容姿は持っておりませんので、私に対するざわめきもため息もありません。

「新入生代表なんだから頭いいんだろうな」くらいにしか印象は持たれていないさ。ザッツ平均値顔。

 始まる前は何かあったのかしらと気にしてましたが、何事もなく入学式は終了。


 入学式の後は各クラスで必要書類の受け取りや校内の簡単な説明などをされて本日は終了。

 がやがやと終わってから皆話しているが、私はすぐさま風紀へと向かった。

 クラスメイトが声をかけてくれたけれど、「用事があるから」とお断りしました。ごめんね。私はいち早くお役に立ちたいのです。

 装飾の撤去とか手伝うよ。何でもやるよ。むしろさせてくれ。


 風紀に着くとドアは開きっぱなしで何やら中は慌ただしい。

 中を覗けば明瀬総長が綺麗な顔に皺を寄せて指示を出していた。


「失礼いたします」


 忙しそうですが、存在を認識していただかないといけないので声をかける。


「ああ、斎条さん。ごめんなさいね。ちょっとトラブルがあって」

「いいえ。お忙しいようでしたらまた改めますが」


 今日から動けないのは残念だけど、優先事項が他にあるなら仕方がない事です。


「大丈夫よ。後は警戒態勢を強めておくだけだし。まったく、変なイタズラはやめてほしいわね」

「就職難でストレスがたまってたそうですよ。自分はこうして就職もできてないのに、金持ちが目の前にうじゃうじゃいてイラっとしたんでしょう。だからといって「入学式をぶっ壊してやる!」と脅迫状を送るなんてただのイタズラにしてはやりすぎですけどね」


 就職どころか人生棒にふるようなもんです。

 馬鹿な事はするものではありません。


「「「「「………」」」」」


 ん?なんでみなさん固まってるの?

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