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入学式のその前に

 入学式の朝。

 早めに登校した私と篠崎先生が最後の打ち合わせをしている時にその方は来た。

 ゆるくウェーブのかかった髪はふわりとゆれ、二重の大きな瞳は吸い込まれそうなほど。

 きっと和装よりも洋装が似合うだろうなぁと思う。

 遠くから見ても美人だと分かっていましたが、近くで見ても美人ですね、彼女様!

 できれば彼とツーショットで写真を一枚お願いできないだろうか。良いかな。ダメかな。どうかな。


「初めまして、斎条由紀菜さん。私は生徒自治会、統括補佐の成宮(なりみや)(かなえ)です」

「お初に御目文字つかまつります。新入生の斎条由紀菜です」

「斎条さんはこちらにいるときいて。これを持ってきたの」


 そう言って彼女様がとりだしたのは胸につける花のコサージュ。


「新入生には校門前で私たちからつけているのだけど、斎条さんは早めにきたから」


 ブレザーの胸ポケットにクリップで花がつけられる。うん、入学式って感じですね。


「入学おめでとうございます」

「わざわざお越しいただきありがとうございます。先生からでも良かったですのに」

「御礼なんていいのよ。私がしたかっただけ。新入生代表だからって斎条さんだけ手渡しとかじゃ寂しいもんね」

「成宮先輩は優しい方ですね」


 こんな心配りが出来る方が彼女様とか、はぁ~もう眼福ですやん。満腹ですやん。

 私の胸元をみてうんうんと一人で頷いちゃってるところがまた可愛い。

 美人で心配りが出来て可愛いとか無敵ですね!


「それともう一つ。個人的に気になることがあって」


 首を傾げても可愛いな!

 って違う違う。気になることってなんでしょう。


「斎条さんは風紀に入るって聞いたの」

「はい。昨日明瀬総長へ志願を致しました。三科副長と先生からの推薦状も貰っています」

「そっか…それで、どうして風紀なのかなって。生徒自治会でも推薦は貰えるのに」

「特別な理由ではありません。ただ単に私は表側よりも裏側で活動する方が好みというだけです」

「じゃあ、生徒自治会を嫌っているとかじゃないんだね」

「滅相も無い!」


 キラキラしすぎて近寄れないだけです!

 嫌ってないと分かったてほっとするその笑顔さえまぶしいのに!


「良かったぁ。でも、それなら今からでも遅くないよね。生徒自治会に入ろうよ。生徒自治会も活動は表だから見た目華やかだけど地味な仕事もいっぱいなの。推薦状なら私から先生に書きなおしてもらえるように頼むから」

「申し訳ございません。せっかくのお誘いですが私の意志は変わりません」


 表舞台ではなく裏方希望なのです。

 私の居場所はそこではないのです。


「それと、推薦状はもう提出済みですので変更は不可能です」

「…推薦状の提出って普通は入部する新入生が全員決まってからまとめてするものじゃ」

「まとめて提出すると決まっているわけではないですし、私は出来る限り早く風紀として活動をしたかったので明瀬総長へ推薦状をお渡しし、風紀への在籍登録を早期にお願いいたしました」


 朝一で先生から推薦状をもらい、その足で明瀬総長へ提出。明瀬総長は少し驚いていたけど、快く了承してくれた。

 これで晴れて本日放課後より風紀として活動ができるのです。やったね!


「そう、なんだ」

「せっかくお誘いいただいたのにご期待に添えなくて申し訳ございません」

「いいの!私も無理を言ってごめんね。じゃあ今日の入学式頑張って」

「はい。ご期待に添えるように頑張ります」


 去り際まで残念そうにされたがこればかりは曲げられない。


「さて、僕らも講堂へ行こうか」

「はい」


 篠崎先生に連れられて講堂へと向かう途中で校門のほうを見るとちらほらと新入生が来ていた。

 家族と写真をとったりなどしている姿が目に映る。

 私の家族は母だけが後で来る予定になっている。本格的な三脚とビデオカメラを準備していた事を思い出すとなんとも言えない。それを他人様に見せるでもなし、いいんだけどさ。


 講堂に着くと中は綺麗に装飾が施されていた。

 残念ながら今年の桜は咲が早く、入学式前に桜が散り始めていた。外の桜の木もちらほら葉っぱが見えている。

 そんな残念な気分を吹き飛ばす様に満開の桜の植木をメインに華やかに装飾をされた講堂。

 桜も他の花も本物を使っており、細部にわたるまできっちりと趣向が凝らしてある。


「すごいですね」

「今年は今までの入学式の中でも前評判がいいんだよ。しかもこの装飾、生徒自治会統括自らデザインしたっていうんだからすごいよねぇ」


 まじスカ。

 やっぱり彼はどこまでもパーフェクトだな。


「斎条さんの場所はここ。舞台にはあそこの階段からあがってね。僕は壁際に立ってるから。新入生代表として貰った花束とか階段下で預かるよ」

「はい。よろしくお願いいたします」

「斎条、由紀菜さん?」


 先生と手順を確認していると耳心地のよいアルトの声が。

 高まる胸を押さえるようにゆっくりと声のほうへ顔を向けた。


 綺麗なプラチナブロンドの髪は清潔に整えられ、青みのある灰色の瞳は柔らかな笑みと共に輝く。

 あの頃は同じくらいだった背は私よりもずいぶん高くなっていて、声変わりを経た心地の良い声は記憶とまったく違う。


 記憶と違う彼。

 記憶と同じ彼。


 彼と初めて会った時は傲慢にも面倒を見ようとしていた。

 いつ思い出しても恥ずかしい黒歴史だ。

 彼に感謝と謝罪を伝えた時にはまともに目も合わせられなかった。

 呆れられても仕方のない態度だった。


 そして今。

 目の前に彼がいて、私は真っ直ぐに彼を見つめる。

 大丈夫。私だって少しはまともになったのだ。「何これクオリティたっかいわぁ。これはアレか。攻略対象とかですか。乙女ゲーム始まっちゃうとかありますかないですかどっちですか」なんてことは思ってな…いことはないですごめんなさい。

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