風紀希望です
風紀は志願制だからといって誰でも入れるわけではない。
もしかしたら入るためのスキルが私には足りないのだろうか。
だとしたら何が足りないのだろう…。
悶々と考えながら足を動かしていたらいつの間にか先生に教えてもらった場所へとたどり着いていた。
扉の前に立ち、一呼吸する。
一つ年上の彼は生徒自治会で統括の立場であるという情報は前々から入手していたため入学後は生徒会の手伝いを積極的にしようと思っていたが、彼を見かけてから路線変更。
彼に迷惑をかけずに少しでも彼の役に立つと考えるのならば風紀に籍を置くのが最善だ。
良いところの子息、子女が通っている学校ではあるが別に生徒自治会と風紀が仲悪いとかは無い。
「えー対立とかないの?生徒会と風紀なんていがみ合いがテンプレじゃんかー」なんて思ってない。思ってないぞ。
…コホン。なんにしろ仲悪いなんてことはなく、協力体制が出来ているから生徒自治会を裏から陰からそっと支えるには良いポジションなのだ。
やはりここは風紀の選択で良いと改めて判断した私は意を決して風紀の門を叩いた。
「失礼致します」
「はーい」
元気の良い返事とともにドアを開けてくださったのは風紀副長ではございませんか。
わざわざありがとうございます。
「あれ、君…」
「お初に御目文字つかまつります。今年度入学者の斎条由紀菜と申します」
「知ってるよ。新入生代表を務める才女だもの」
「お褒めに与りありがたく存じます。つきましては私を風紀へ入れていただけませんでしょうか」
「え…えぇ?」
ここでもそんなに驚かれるなんて。やはり私の能力では足りないのでしょうか。
当たり前を当たり前と思わず、チート能力に驕ることのないように自重し、自分なりに努力をしてきたけれど、中身はただの人ですものね。
所詮は紛い物。本物にはなれません。悔しくないぞ。ぐすん。
「えーっと、まずは中で話そうか」
「はい」
風紀にあてがわれている部屋は程よい広さで清潔感もあった。
中には副長および総長もいらっしゃいました。
他の方が見当たらないのはお仕事なのでしょう。彼の元で指示にしたがっている方の中に風紀もいたのかもしれませんな。
「お忙しいところ申し訳ございません。お初に御目文字つかまつります。新入生の斎条由紀菜と申します」
「ご丁寧にありがとう。風紀総長を務めます。明瀬莉南です」
長い黒髪を横に流し、背筋を伸ばして腰掛けている姿はそれだけで絵になりそうだ。
そんな大和撫子が風紀の総長っていうギャップがまた良いですね。萌えポイントですね。
「俺は三科則杜。風紀副長を務めてます」
「自己紹介はこの辺にしておきましょう。それで、斎条さん、風紀に入りたいとの事だけれど」
「はい。風紀は他の委員と違って志願制と伺っております。お恥かしながら私の微力でも力となればと思い、志願に参りました」
「でも斎条さんは生徒自治会からお声がかかっているのではなくて?」
「私も新入生代表を務めさせていただけるほどには勉学をしてまいりましたのでそういったお声をかけて頂いたのは事実です。ですが、生徒自治会はその……恐れ多くて」
そう、彼に迷惑をかけないことはもちろんだが、私のような虚像が紛れ込むのには眩しすぎるのだよ、あの空間は!
キラキラしいあの場所のトップには完璧なる彼とその彼女様。
あ、ダメだ。私が画面の端にでも映ってよい立場ではない!!
彼女様以外にも生徒自治会の面々はどの方も素晴らしいのだから必要なのは裏方だ。
「それと、元来私は縁の下の力持ちといいますか、裏方が好きなもので。あ、これは決して風紀を蔑んでいる訳ではございません。その場所、その位置なくしては成り立たないものですから。私は目立つことの無い所で力を使いたいのです!」
「なるほど、お気持ちは分かりました。良いでしょう。斎条さん、風紀は貴方を歓迎するわ」
「ありがとうございます!」
良かったー。新入生代表だし、それなりの家の出だし、拒否される可能性は低いと思っていたけれど何事も絶対はありえないからね。
「本来ならば志願制であっても試験があるのだけれど、推薦があれば別ですからね。斎条さんなら先生からの推薦はすぐに得られるでしょう。後はここにいる副長からの推薦をもらっておきなさいな。私からでは角が立ちますからね」
「よろしいのですか?」
「いいわ。ねえ、三科」
「もちろん。斎条さんなら即戦力になると思うし」
「ありがとうございます。その評価に恥じないように努めてまいります」
「…とても、楽しみね」
くすりと笑って明瀬総長が何か呟いたがうまく聞き取れなかった。
「明瀬総長、何かおっしゃいましたか?」
「いいえ。何でもないわ。では、明日の入学式後もこちらへいらっしゃい。他のメンバーを紹介するわ」
「はいっ」
意気揚々と退室した私は明るい未来に向かって歩めることに胸がいっぱいになって総長が何を呟いたかという疑問は遥か彼方へ消え去っていた。