私にできることを
お待たせして、申し訳ありません。
不定期ですが、復活していきます。
「恋、してる?」
私の言葉を聞いて、目の前で詞子ちゃんが怪訝そうな顔をした。
カラカラに乾いている私の恋愛能力だが、前世も含めれば一ミリもそう言った事がなかったわけではない。
圧倒的に少ない経験値であることは明白だが経験値がなくても人の深層心理を読み解くことはできる。
うまく誘導し、現在他の人へ恋をしているという成宮先輩を彼へ誘導することはできてしまう。
でもそれって、やっちゃいけないんだろうと、人道的観点から考えるわけですよ。
そもそも私は『恋』ってものが分からない。
何度も言うが、カラカラに干からびているのだ。
そんな人が突っ込んで誘導してドヤるのって痛々しいだけだと思う。
最初はもう両想いになっている総長と副長に相談してみようかとも思ったんだけど、彼は総長を苦手としていることが見受けられる。相談が彼の弱みになってもいけない。
ならばと身近な詞子ちゃんにちょっと『恋』ってものを聞いてみたんだけど…結果は怪訝な顔をされたのさ。
「いきなり、何なの」
「いや、ちょっと気になって」
「何で貴方にそんなことを言わなければならないの」
「参考に」
「何の参考よ…」
まあ、詞子ちゃんの好きな人は調査済みなんですけどね。
知っていても本人から話さない限り聞くもんじゃないと思うし。
「友達に勝手に好きな人とうまくいくように動かれたらどう思う?」
「余計なお世話ね」
きっぱりと言われた。
「他人にどうこう言われても、好きな人にどう思われていても、私の恋は私のものだもの。それを勝手になにかされても、余計なお世話」
「そっかぁ…」
確かに人の恋路にあーだこーだと勝手に口出しするのは単なるお節介だ。
「お役に立てます!」と言った手前、役に立ちたいのだが、結局のところ私にできることはないのかもしれない。
だって彼は私と違ってパーフェクトな本物なのだから。
「斎条さん」
「はーい?」
呼ばれて向けば風紀の一人が近くに立っていた。
「総長が来てほしいって」
本日の風紀はお休みのはず。
前回の郊外授業での件はお話ができる範囲で説明済みだ。
はて、何の用だろうか。
伝言を伝えてくれた仲間にお礼を言って、詞子ちゃんにも別れを告げて風紀委員室へと向かうことにする。
良いところの家の子たちが通っているので風紀委員室は結構豪華だったりする。
風紀委員たちが滞在する部屋のさらに奥に総長室があるのだ。
部屋の前でノックをして中から総長の入室許可の声があってからドアを開けた。
「失礼いたします」
部屋に入ると総長一人だけ。大体副長がセットだから珍しいな。
「すみません。お待たせしましたでしょうか」
「いいえ。今日は休みなのにごめんなさいね」
「お気になさらないでください」
「今お茶を用意するから座ってて」
「私がいれましょうか」
「いいの。ちょっと長話になるから入れさせて」
「ありがとうございます」
そうして総長手ずから出されたお茶を一口すすり、改めて総長を見ると少しだけ疲れた顔をしていた。
そんな大きな問題があったとは記憶にないのだけれど。
「さて、こういうことは濁しても仕方ないから、単刀直入に言うわね」
「はい」
「斎条由紀菜さん、あなたを次期風紀総長に指名します」
「それは、決定事項ですか」
「そうよ」
「2年の先輩方は?次期総長は村瀬先輩かと思っていましたが」
村瀬先輩は2年のリーダーを務めている人だから、順当にいけば彼のはず。
「納得済み、というか、村瀬くんが最初に言い始めたのよ」
これにはちょっと驚いた。
村瀬先輩は人柄も申し分ないし、人を率いる能力も魅力もある。
なにより次期総長としての意気込みと責任があると感じていた。
「私の行動でなにか先輩に圧力をかけてしまいましたでしょうか」
また、意図しない何かをやらかしてしまったという事が否定できないのが情けない。
どれが、なにが、先輩の琴線に触れてしまったのだろうか。
「そんなに心配しないで。村瀬くんは別にネガティブな考えであなたを総長にと言い出したわけではないわ」
「そうなのですか?」
「適材適所だと言っていたわね。村瀬くんは自分以上に次期総長がやれる人はいないという自信があって、やりきるつもりでいた。けれど、斎条由紀奈という圧倒的な主導者がいるのに年が上というだけで自分が上に立つべきではないってね」
これでも最初は説得をしたのよ。と総長は苦笑した。
「年功序列というのが時代錯誤であることは私もそう思う。けれど、それだけが理由では納得なんてできない。これを見て頂戴」
そう言って取り出した資料を手渡される。
そこには私を次期総長へという嘆願書がまとめられていた。
しかも署名が村瀬先輩率いる2年と1年の風紀委員、そして、ほぼすべての風組みの署名までもあった。
「…いつのまに」
私まだ入学して2か月ちょっとなんですけど!?
「ここまでお膳立てされてしまえば指名しないほうが反発を生むわ。だからこれは決定事項よ」
「私の意志に関係なく、ですか」
「そうね」
反論を唱えることはいくらでもできる。
私の意志を無視したやり方についてはどうなのかなとも思う。
けれど、正直こういうことは慣れてしまっている。
今までだって勝手に祭り上げられたことはいくらでもあるのだ。
出来る人に出来ることを。そうだね、分かっているさ。
それに、考えてみれば私にとっては好都合でもある。
私にできることは少ないかもしれないけれど、風紀総長という立場があれば彼を手助けできることが増えるのだから。
「わかりました。その話、承りましょう」




