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見なかった事にしてくれませんか

お待たせしまして申し訳ありません。

こちらの執筆に戻りました。

 講義が始まってしまえば多少は暇が出来る。

 生徒としてならば講義を受けるべきなのだけれど、そこは個人の自由にされている。

 同じ一年の風紀仲間は案内した人の講義をそのまま受けると言う人がほとんどだった。

 私は受けずに講義室を後にしたので人目につかない所で携帯を取り出した。

 ああ、きてるきてる。

 事件の概要やら、身代金の受け渡しについてなど。

 果ては被害者側の情報やらホテルの図面までついていて至れり尽くせり。

 部下が優秀だとやることがないよね。これが実力だってんだから偽りの私は立つ瀬がないよ。

 資料をみながらうーんと少しだけ考えてからポチポチとメールを作成する。


「こんなもんかな」


 面白いもので、資料を見ただけで現状が手に取るように理解でき、予測とそれに対する対応と対策がすらすらと思いつく。

 自分の頭の中なのに、別の生き物ようで少々気持ち悪い。頭に高性能処理装置でも積んでいるようなものだと早々に切り替えをしたのは何年前かしら…。ふふっ、高性能、便利だね!

 もう一度作ったメールを確認して、送信ボタンを押してから時刻を確認する。

 講義はもうすぐ終わる時刻。持ち場へと戻るとタイミング良く無線に連絡が入った。


『風紀委員一同、落ち着いて聞きなさい』


 少し硬い声の総長。ちらりと見渡せる範囲で風紀メンバーを見渡すとみんな無表情を保っていた。


『先程ホテル側から火災があったとの連絡がありました。火の手は離れの部屋だから私たちのいる建物ではありません。安心しなさい』


 安心させるように落ち着いた声で、けれど厳しい口調のままで総長は続ける。


『火の鎮火は済んでいるという事から校外学習はこのまま続けるとの判断になりました。しかし、現在警察や消防がこちらへ向かってきているとの事ですので、生徒たちに混乱がないように気を付けなさい』


 パトカーや消防車が目に入ってくれば何かあったのではと心配してしまうのが普通だ。

 理由を知らなければ風紀まで混乱を招いてしまう恐れがあるため、総長は風紀にだけ伝えることにしたのだろう。


『講義の先生方にはこれから説明します。予定通りに控室へご案内をしなさい』


 明瀬総長の指示が終わると各メンバーから了解の返信が返ってくる。

 私も同じく了解の返事をすると講義が終わるのを待った。

 講義が終わり、部屋から出てきたドマッチョ(黒)が何か言いたそうにしているがスルー。

 控室への戻りはまとめて行うため、案内は先輩に任せて私はエントランスの方へと足を向ける。

 生徒たちはまだ講義室で待機をしているのでそこにいるのは一般客が大半だ。

 フロントへ目を向ける。はい、ビンゴ。

 先程目を通した資料と一致する人物がそこにいた。

 フロントへ何かを訴えている。まあね、計画中に想定外の事が起こると焦るよね。そうだよね。

 足音も立てずにその人物へと近づくとトントンと背を叩く。

 振り向いた所で一言。


「ケンタくんはお元気ですか?」


 大きく肩を揺らして瞠目した相手は私を突き飛ばして逃げようとしたが、そうはさせない。

 こちらに伸ばしてきた手を躱して掴み、足をかけ、地面へと押さえつける。


坂木さかき!」


 エントランスで待機していたチームメンバーを呼び、押さえつけた人物をそのまま引き渡す。

 坂木はドマッチョ(黒)以外に動いていたチームメンバーだ。

 厳つい顔と体をしているが、乙女心を忘れない純情マッチョである。あだ名はもちろん純マッチョですよ。

 純マッチョは結束バンドを取り出すと素早く手足を拘束してゆく。

 押さえられている人物の顔を再度確認してため息をついた。


「予測通り…か」


 思わず口からこぼれる。

 誘拐事件っていうのは目的がお金欲しさであれば割に合わない犯罪だ。

 計画を立てるのも、それが上手くいくことも追跡技術の進んだ現代ではなかなかに難しい。

 綿密に立てられた計画ならここのホテルで取引なんて選ばないし、平日なのに校外学習があって人も警備も多い今日この日を選ぶこともしない。

 資料に目を通してはじき出した私の予測はこの事件は怨恨の可能性が大であるということ。しかもその場の勢いで起こした事件であろうという予測もついていた。

 でも、それは100%ではない。だから期待してしまった。いつもいつも期待している、わずかな可能性。私の予測チートを超えてくれる可能性。

 超えてくれなくて、こうして勝手に落ち込むなんて……私は……私は、なんて偉そうなんだ!!

 ああああ恥ずかしい。私バカなの?アホなの?あ、ただの詐欺だった!ごめんなさい!


「坂木、後はまかせた」

「はい」


 早期解決はしたから良しとしよう。そうしよう。

 私はただの高校生なのだから、校外学習を真面目に受けましょう。そうしましょう。


「何、してるのかな」

「へ?」


 戻ろうとした所に素敵な美声。

 そんな美声の持ち主なんて彼以外に居ませんよね。

 なんたってミスターパーフェクトですもの。


 じゃないっ!

 あのね、私が持ち場から離れて犯人伸して戻るまでの時間はたったの5分なの。

 5分だったの。予定通りだったの。生徒の誰にも知られる予定はなかったのだよ。

 いや、誰かに見られるかもしれないという考えもあったんだけど、それはそれであって、見られたのが彼であるとは思ってなかったと言うか。あぁ、どうしようかこの状況。

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