高校生になりました
愚か者だった私も花の高校生へとなる年になった。
今までの努力が実り、新入生代表を務めさせて頂けることになったので、今日は打ち合わせのために一足先に高校へと足を踏み入れている。
真新しい制服はまだ着慣れずに緊張をしてしまうがそれよりも私は期待に満ちていた。
だって、この高校には彼がいるのだから!
彼とは感謝と謝罪を告げてから一度も会っていない。
あの優秀さは変わらずに美少年に磨きがかかっている事は聞いているが、聞いた事だけでは分からないことがある。だから彼に会えることが楽しみだった。
意気揚々と学校へ向かい、受付で要件を伝えるとすぐに案内の先生が迎えに来て下さった。
迎えに来て下さったのは若い男性の先生であった。情報と記憶が正しければ新たに着任された数学教師のはず。
「わざわざお迎えいただきありがとうございます。斎条由紀菜と申します」
「初めまして。篠崎です。この学校は着任したばかりなので君と一緒の一年生だよ」
ふむ、情報は正しかったようだ。良かった良かった。
それにしても先生、とても若くていらっしゃいますよね。20前半に見えますが、情報では30こうは…いえ、なんでもないです。気にしたら負けな気がする。
「いやぁ、それにしても聞きしに勝るとはこの事だね」
「何かございましたでしょうか」
「今年の新入生代表は才女だとか色々聞いていたんだ」
「ご期待に添えられたのでしたら良かったです」
才女とか噂のほうが過剰評価になってそうだなぁ。
これからも裏切ることの無いように努力をせねばならぬ。
私は褒められても自重するのだ。だって私が調子乗ったらまた愚か者に成り果ててしまう。
篠崎先生に連れられて校舎内を軽く案内されながら理事長室へと向かって行く。
その途中で彼を見かけた。
校舎の外で人に囲まれながら何か指示を出している。
プラチナの髪はあの頃のようにサラサラで、成長した姿は凛々しく、それでも綺麗な顔は変わらない。
「ああ、生徒自治会の子達だね」
私が止まってしまったことで篠崎先生の足まで止めてしまった。
「申し訳ありません。見入ってしまって」
「いいよいいよ。目立つもんねぇ、彼らは。特に生徒自治会の統括である彼は見入らない方が難しいと思うよ」
彼が統括に着任されたことは知っていた。
何の驚きもなかった。だって、パーフェクトな彼だから。
しっかしマジで美青年。美少年から美青年!!想像以上で私はびっくりだよ!
「生徒自治会の皆様はとても優秀な方々だと聞いています」
「うん、先生いらないんじゃないかってくらい優秀な子達だよ。斎条さんも頼りにしな」
「そう…ですね」
うーん…彼に頼るという事は彼に要らぬ負担をかけるんだよね?
いかん。それはいかんぞ!!恩人たる彼に迷惑をかけるなんて!
彼に迷惑をかけないためにも何か対策を立てなければ。頼らず負担をかけず尚且つ彼の役に立つように。
「おっ、斎条さん見てごらん。校内一の有名カップルだよ」
決意を新たにしている所に先生の声が降ってきた。
その声につられてもう一度彼の方を見ると彼の隣にはとても美人の女生徒が立っていた。
女生徒が彼に何か話しかけると彼も柔らかな笑みで対応していた。
なんということだ。
彼が。あの無表情だった彼が。女性に微笑んでいるだと!
ああもう「こんなに大きくなって」と母心が泣いているではないか。
いや、母じゃないけど。ないけど思うくらいいよね。うん。
…落ち着け、私。
「先生、足を止めてしまって申し訳ありません。理事長をお待たせしてしまってはいけませんから行きましょう」
「もう満足した?」
「はい。十分に」
堪能いたしました。
篠崎先生に案内された理事長室で理事長にご挨拶をさせていただいた。
なんだか理事長にも褒められて恐縮しきりな私です。まだまだですから。
理事長の後は職員室で他の先生方にも簡単に挨拶をして、篠崎先生から入学式での手順とプログラムの順番、座る場所、講堂の図案を見ながら説明などを打ち合わせしたら終わり。
入学式でのワクワク感も大切とのことで、実際の場所は見せていただけなかった。
「座る場所は案内するから大丈夫。その代わり他の生徒より早めに来てね。後は困ったことがあれば近くに僕がいるからいつでも声かけて」
「畏まりました。よろしくお願い致します」
「あ、そうだ」
「なんでしょうか」
「毎年新入生代表は生徒自治会への推薦ができるんだけど、入るよね?」
「いえ、入りません」
「そうだよね。内申点にもなるし入るよ…ね…あれ、入んない?」
「はい。入りません」
「あんなに見てたのに?」
「入りません」
入りませんとも。
私は彼に頼らず負担にならず尚且つ役立つ位置が良いと思うのです。
それは生徒自治会ではない。
「篠崎先生」
「はい」
「本日、風紀の方々はいらっしゃってますでしょうか」
「あ、うん。いるはずだけど」
「確か風紀は志願制ですよね」
「そう、だけど?」
「では、風紀の場所をお教え願えますでしょうか」
そう言った私に対して篠崎先生だけでなく、周りにいた先生方までこちらを凝視していた。
え、何。風紀に入るのってそんなに難しいんですか?