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掴めない彼女(侑斗・S・タウリアイネン)

おまたせ?しました。彼視点です。

 彼女の事を鬼才と言った人がいた。

 才女と言う人も。

 偉才。

 驚異。

 俊豪。

 逸材。

 彼女を示す言葉は多く存在する。

 俺にとって彼女は、いうなれば「唯一」であり「欠点」だ。


「侑斗ってば、らしくないよ。斎条さん困ってたよ?」

「ああ……」


 するりと抜けてしまったぬくもりを思い出しながら手のひらを見つめる。

 そして最後に思い出してしまうのはいつも彼女の泣き顔ばかり。

 あの時、満開の笑顔がどんどん険しくなり、最後には泣いてしまった。

 何故彼女があの時泣いたのかは今でも分からない。

「ごめんなさい」と言われた理由も。

「ありがとう」と言われた理由も。

 もうあれから何年もたったのに、分からない。


「ねぇ、侑斗ったら!」

「-っ、ごめん。なに」

「はい、請求書。この間のってこれでしょ」

「ありがとう…って、また机に置きっぱなしにしてたのか。もう少し整理をしろと言っただろ」

「ごめんごめん。でもちゃんと最後には仕舞って帰ってるよ」

「そういう問題じゃない」

「はーい」


 理解したのかしてないのか、間延びした叶の返事にため息をつく。


「この部屋でいちゃつくな」

「いちゃついてない」

「リア充爆破しろ」

「しない」


 腕と頭は良いのにコミュニケーション能力に問題のある会計がよく分からない文句を言ってくる。

 そもそも俺と叶は付き合っていない。

 そういう噂があるのは知っているが、勝手に思わせておけば他の女に言い寄られることが減るし、否定するのも面倒でしていない。

 叶は叶で長く片思いをしている相手がいるらしく「外見に力いれないとか私のプライドが許せない。でも彼以外の他の男に迫られるのは嫌だからちょうどいい噂だよね」とにこやかに言われた。

 所詮、利害の一致というものだ。

 だいたい、見た目も能力も外面も一級品なのに見えない所ではガサツな叶にそういう感情は一切無い。

 部屋にいる補佐と会計をチラリと見て、内心ため息をついた。

 どうして生徒自治会のメンバーはこう一癖も二癖もあるのだろうか。

 選んだのは俺なので文句はいえないけれど。

 選出した基準は何を措いても突出した能力だったから、性格などは二の次だった。少しぐらいは考慮すべきだったかもしれないと思うときもある。

 生徒自治会にはあと2人、書記と庶務がいるが今は出払っている。

 本来1年からも1名庶務を選出しなければいけないが、まだ選んでいない。

 例年通りでいけば新入生代表が選ばれるから彼女のはずだったのだが、選ぶ前に彼女は風紀へと入ってしまった。

 生徒自治会が嫌いで風紀に行った訳ではないと聞いているけれど、どうしても思ってしまう。

 俺がいるからじゃないか、と。

 彼女の前だと身体が勝手に身構えてしまう。

 また泣かれたら。そう考えてしまうともう動けなかった。

 今日も何か言葉を飲み込んだ彼女を咄嗟に引き止めてしまったけれど、腕を掴んだ瞬間に彼女はわずかだが震えた。

 謝って離した俺に対して彼女は何事もなかったかのようにふるまう。怯えさせてしまったのは俺なのに。

 それがまた申し訳なくて、結局言いたかったことを聞き出すことはできなかった。


「やはりこの請求書、提示されていた額と異なる。もう一度業者へ突き返せ」

「らじゃ」

「次間違えたら取引終了だと言っておけ」

「おけ」


 会計に請求書を渡してから先程彼女が持ってきた資料に手を伸ばした。

 誰が誰を案内するのか、風紀総長の采配に抜かりはない。

 野生児のくせに仕事ができるとか、あの上っ面をいつかばらしたい。


「これを否決しても彼女はここにはこないでしょうね。彼女とこれ以上離れたいのかしら?」


 隠しきれていない笑いとともに彼女の風紀への入隊許可書を入学式の朝一で差し出された。


「ここへお使いぐらいなら行かせてもいいのよ?」


 その一言に印を押さずにはいられなかった。

 怖がられているのだとしても、これ以上は離れたくなかった。

 入学式で顔を合わせたあのときも、恐れを感じている相手を前に緊張しているようで、よく見なければ分からない程度だったけれど笑顔が引きつっていた。

 そんな顔を前にしたら、「久しぶり」とも「覚えている?」とも言えなかった。

 もし昔のことがトラウマになっていたら、その一言でせっかくの晴れの舞台を台無しにしてしまうかもしれない。俺と再会したことでそんな事にはできなかった。

 それから何度か資料の提出などでここに来てくれている彼女。

 ひたすら怖がらせないように優しく微笑みかけていたけれど、今日また距離が広がった気がする。


「男の恋わずらいとか見てて気分が良いものだと思えないけど、侑斗は様になるよね」

「ただし、イケメンに限る」

「無駄口叩いてないで仕事しろ」


 彼女に対するこの気持ちが恋かと聞かれると、よく分からない。

 あの時のことを思い出すと様々な衝撃と後悔と色々複雑な感情があるのだ。

 今までだって恋人がいなかったわけではない。

 男には無い女性の可愛らしさ、やわらかさ、あたたかさ。

 それらを、俺は彼女に求めているのかといわれると、違うきがする。

 ミスターパーフェクトなんて呼ばれているけれど、こんなにも分からない事だらけだ。

彼女はただ後光を拝みたいのを我慢してただけだよ。

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