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駄々漏れだったようです

「あれ、斎条さん?」

「お邪魔しております。校外学習の資料を提出に参りました」

「そうなんだ。ありがとう」


 うはっ。にっこり笑顔が目映い!!

 カメラを向けて良いですか。その笑顔、残したい。

 しませんよ?ここでカメラを構えたら思いっきり変質者ですもの。思うだけならいいじゃない。

 ちょいちょいおつかいに出されるので顔見知り程度にはなれたかなぁ。

 そろそろ彼女様とのツーショットをお願いしても大丈夫かなぁ。

 肖像権はきっちり守りますから。


「案内役の決定資料だよ。ざっと確認したけど、大丈夫。漏れもないし担当する人におかしな点もなかった」

「わかった。後で俺も見ておく。机の上に置いておいてくれ」

「了解。あ、そうだ。斎条さん」

「はい、なんでしょうか」

「斎条さんのお家の会社、斎条さんが案内人になってたけど、いいの?」

「ああ、それですか」


 この学園の警備は弊社から派遣されていますので、弊社からも講師が来るのは毎年のこと。

 別に会社の代表の娘だからって気を使われたわけでもなく、ただ単に身内の方が案内に粗相があっても大丈夫だろうという判断ですよ。


「大丈夫です。一応親を通じで私が案内人であることは伝えてありますので、現場で驚かれることはございません」


 来る人は気を使ってしまうかもしれないけれど。気を使うなと言ってはあるが、まったく気を使わないのは無理だろうから「まあ、頑張れ」としか言いようがない。

 私が社員の人事に関わっている訳ではないから気を使われても正直どうしようもないのだけどね。


「斎条さんが大丈夫ならいいんだけど」

「お気遣いありがとうございます」


 そんな所まで気にしていただけるなんて、本当にできた彼女様だよ成宮先輩は。

 ああ、やっぱりツーショット写真欲しいなぁ。隠し撮りはいかんよなぁ。頼んでみようかなぁ。


「いちまいだけでも…」

「ん?何か言った?」


 あ、心の声が漏れた。

 彼女様が首をかしげてらっしゃるよ。


「何でもございません!お気になさらないでください!」


 邪心まみれの戯言でございますので!


「確認がお済でしたら私はこれで失礼させていただきます」


 すくっと立って扉へ向かう。あぁ恥ずかしい。


「待って!」

「へっ?」


 彼に、腕、掴まれた!?

 そういや彼との触れ合いって初めてじゃないか?

 昔挑んだ勝負はボードゲームとかの頭脳ゲームばかりだったし。

 謝罪に窺った時も親の足元を掴んで目も合わせられなかったし。

 初のぬくもり?初体験!

 いや、そうじゃなくて、だから写真を、いやそれも違う。


「あの、何か」

「っあ、ごめん」

「もうっ、侑斗ったら驚かせちゃダメだよ」

「…ごめん」


 掴んでいた腕は離された。そのことにホッとするものの、胸の内は動揺が収まらない。

 なんてことだ。みっともないぞ。落ち着け、私。


「いえ、私こそお恥ずかしい所を見せてしまって申し訳ありません。不備があったのならご報告いたしますし、風紀へ持っていかなければならない資料がございましたらお渡しいただければ持っていきますが」


 いきなり触れられたからと言って動揺するなんて、そんな初心はとうに捨てたはずなのに。

 なんというか、恩と敬いが高すぎて紛い物の私が触れたらダメだという思いがあるんだよね。

 しかし、ただでさえ邪な心がポロリと口からでてしまうという失態をしてしまったのに動揺までしてしまうとは、修行が足りないな。


「そうじゃなくて、言いたいことがあるなら言って欲しい」

「………」


 これはあれか。私の邪な心がポロリどころか駄々漏れだったということか!でもでもここで「じゃあ写真を一枚お願いします」とか言ったらアウトだよね!そうだよね!!?

 邪心を悟らせない様に表面は取り繕っていたと思ったのだけど、全然できてなかったなんて。

 なんと、情けない。なんと、不甲斐ない。


「統括に気にしていただくようなことではございません。気を煩わせてしまい、申し訳ございません」


 もう写真欲しいなんて思わないよ。思わない、思わない…なんて出来る気がしない。泣ける。

 もっと邪な思いは隠しておけるように努力をしよう。うん。


「侑斗ったら、斎条さんを困らせたらだめだよ」

「いや、俺はただ」

「いえ、本当にお気になさらないでください」


 私の事など捨て置いてください。もう邪な思いは見せないから!


「斎条さんもこう言ってるんだから、引き止めたら悪いよ」

「そう…だな」

「では、私は失礼いたします」


 あぁ恥ずかしい恥ずかしい。駄々漏れとか残念すぎる。

 恥ずかしすぎて部屋を出た後、生徒自治会室から離れた所で立ち止まって壁に手をついてしまった。

 反省…。私ってバカですね。またチートを過信してしまった。ちょっとやそっとじゃ表情に出ないポーカーフェイスもお手の物と思ってたのに、バレバレだったなんて。

 いや、彼だからこそ見抜けられたのだろうか。

 そうかもしれない。そうじゃないかもしれない。

 どっちにしろ、彼には「変な子」認定されただろうな。ああ、引きこもりたい。


「貴方、何してるのよ」

「詞子ちゃんだぁ」


 壁にめり込みそうになってたら詞子ちゃんが通りかかった。不審者ですいません。


「何しているのかって聞いてるの」

「反省中」

「反省?」

「そう、反省。………よしっ、終了!」


 壁から離れてぐっと力を入れる。

 うだうだしてても仕方がない!

 引きこもりもしないぞ!したいけど!


「詞子ちゃんが持ってるのは風組みの受付当番表?」

「…そうよ。受付当番全員に通達は完了したから報告に」

「そっかそっか。頑張ってるんだね」

「貴方に言われたくないわ」

「うんうん。頑張って」

「貴方聞いてないでしょ」

「聞いてるよー」


 聞いているとも。さあさあ、風紀へ戻りましょう。

 反省を胸に、日々精進でございます。

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