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お話をしましょう

 ああ、私はまたやってしまったんだな。

 水無瀬さんの叫びに私はそう思った。


 私のチートは私以外をいとも簡単に傷つける。

 傷つけたく無くて、チートを使わないと「本気をだせ!」と怒られ、チートを使ってまた傷つける。

 チートを惜しみなく使えば、「なんで」「どうして」と悲しんで努力を諦める人もいた。

 そして私はまた、こうして他人を傷つけた。


 しんと静まり返り、誰もが何も出来ない状況で、足を踏み出し、私は水無瀬さんの前に立った。


「立って」

「…は?」

「いいから、立って」


 強引に水無瀬さんの腕を掴んで引っ張り上げた。


「いっ!なにすんのよ!!」

「黙れ」

「-っ」

「明瀬総長」

「…なにかしら」

「救護テント、借りますね」

「どうするつもりか聞いても?」

「大丈夫です。危害は加えません。それと、水無瀬さんは隠しているようですが、足ひねってます」

「はぁ…いいわ。使いなさい。こちらはまとめに入るから」

「ありがとうございます」

「水無瀬さんには斎条さんから説明をしておきなさい」

「はい」

「無理矢理はだめよ」

「承知しています」


 腕を引っ張りながら救護テントへ向かう。


「離して」

「嫌」

「なんで」


 なんで足のことが分かったんだとでも言いたいのだろうか。


「さっきから息は落ち着いたのに立ち上がろうとしてないし。手は庇うように足首にあるし。ばれないほうがおかしいから」

「………」


 救護テントに入ると待機していた先輩がいた。


「怪我?」

「はい。私が手当てしますので、お気になさらずに」

「…わかった。まかせる」

「ありがとうございます」


 いやぁ、風紀の方はこう察するのが早いね。すごいね。これも総長の調教のたまものなのか。

 調教とか本人に言ったら怒られそうだけど。でもなぁ、最近明瀬総長は大和撫子というか女王様に見えてきてるんだよね。見た目とギャップがはげしいわぁ。そんなところも素敵ですね!


「そこに座って。シップだすから」

「………」


 水無瀬さんはなにも話さない。

 話す気力すら、もう無いのかもしれない。

 抵抗もせずに座ってるから聞こえてはいるみたいだけど。

 冷感シップと包帯を取り出す。

 反応の薄い水無瀬さんの足元にひざまづいて片足を膝に乗せた。

 うん、少し赤みがあるけど酷く無さそうだな。


「説明を任されたから説明を始めるね」


 シップをはって包帯を巻きながら言葉を続ける。


「採用の合否についてはこれから話し合いがあるから結果はまだ未定。まあ、水無瀬さんもその考えにいたっていると思うけど、あの状況で貴方の合格は難しい」


 椅子をつかんでいた手がぎゅっと握られた。


「風紀には入れないかもしれない。けれど、風紀と言う場所は人を見棄てるような集まりでもない。風紀のお手伝いをしている風組み(かぜぐみ)のことは知っている?」

「…知らない」

「風紀もね、志願制だけどあまり人数が多いとまとめきれないから人数はある程度抑えている。これは?」

「知ってる」

「でもどうしても大人数の人手が必要な場合があるから、そういうときに手伝ってくれる人を募集しているの。それが、風組み」


 風組みはお手伝いでしかないから、重複してのほかの委員との所属が認められてもいる。


「身をもって知ったと思うけど、風紀の採用試験ってちょっと厳しいよね」

「………」

「厳しいのはいい人材を欲しているからってのが一番だけど、大器晩成の人もいるわけだし。そういう努力をする人を風紀は見棄てない」


 それを言うなら、高校では花開かない人だっているんだろうけどね。

 巻き終わった包帯をテープで止める。まあ、とりあえずこれでいいかな。

 応急処置を終えると乗せていた足をゆっくりと下に下ろす。

 出した道具をしまうために私は立ち上がった。

 俯いている水無瀬さんの顔は見えない。


「だからね、今回不合格をした人は風組みをまとめている人の下について研修を受けられるんだよ」

「…研修?」

「研修というか、見習い?もちろん希望者だけだけど。いくらお手伝いだけに借り出されるといっても烏合の衆にしておくわけにもいかないからね。まとめる人はいるんだよ。それに、一部いつでもお手伝いさせてください!っていう意気込みの人たちもいるからその人たちをまとめるためにも必要な人」

「それが、なんなのよ」

「そこで努力をして、頭角を現せば風紀に入れるチャンスはまだまだあるってこと」


 まあ、その人のやる気しだいだけど。


「私に拾われるのは真っ平なんでしょ」

「………」

「だったら、自分で這い上がってくればいい。その場所は用意がある。やるかどうかの希望は合否を知らされた時に言ってくれればいいそうだから、結果が出るまでに考えておいて」


 片付け終えて振り返っても水無瀬さんは俯いたままだった。


「で、ここからは個人的な話」

「は?」


 個人的と言われて怪訝そうに顔を上げた。


「まずは、ごめんなさい!!」

「!?」


 がばりと頭を下げる。


「総長に頼まれたことだし、試験中にしたことはあやまるつもりはない。でも、きっと私は別のところで貴方を傷つけた」


 私のチートは私以外を本当に簡単に、豆腐を潰すほど簡単に、傷つけてしまう。


「だから、ごめんなさい」

「どこで傷つけたかも分かってないのに、謝るの?」

「うん、ごめん」

「分かってもないのに、謝るなんて。意味が無いじゃない」

「そうかもしれない。だから、これは自己満足」


 頭を上げて水無瀬さんを見れば不愉快そうな顔をしていた。


「自己満足ついでにお願いもひとつ」


 あらあら、眉間のしわが増えましたよ。


「水無瀬詞子さん。私とお友達になりませんか?」

「はぁ?」


 心底嫌そうな声をありがとう!

毎日更新は最後です。

また週1更新に戻ります。

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