試験終了です
トップでゴール!いぇい。
私の後ろからぜぇはぁと個人の差があれどそれぞれ息を乱しながらトップチームもゴールしている。
私?乱れてませんよ。出したくなくてもしゃしゃり出るチートがあるからね!
まあ、私が道なき道を進んで行ったのをみてトップチームも争うようにけもの道を進んでいたから余計に体力を使ったのだろうけど。
「こっちに酸素ボンベひとつ!」
「擦り傷切り傷もしっかり消毒しておけよー。手足に違和感がある人はいるか?正直に言えよー」
ゴールで待機していた先輩方がひとりひとりに声をかけている。
「斎条さんは大丈夫?」
「怪我も違和感もございません。ご心配ありがとうございます、三科副長」
三科副長が救急ボックスを手に声をかけてきた。
私はチートというものがあるので心配ご無用でございますよ。
「な…んで、よ」
少し息が落ち着いてきたのか、水無瀬さんはまた私を睨んできた。
何度もあきないね。でもその根性、私は好きだよ。
「なんで、とは?」
「なんで、あんな、道…」
私の使った道に異論があるのだろう。言えてないけど。
「規定には反してないよ。ルールにも地図に示してある道を使えとの指示はないし、出発前に総長にも確認済み」
皆の前では聞いてないけどね。
「そんなの、ずるい。私だって知ってたら最初から…」
「“もし”とか“かもしれない”という話なら、意味の無い事だよ。これは、結果だ」
「―っ」
悔しそうに顔をゆがめた水無瀬さん。
そんな私たちの後ろから凛とした声が響く。
「斎条さんがずるいと言われるのなら、私もずるいと言われなくてはならないかしら?」
「明瀬総長」
「基本ルールは説明したけれど、そう言った抜け道を説明はしなかった。それは、ずるいのかしら?」
「…そんなことは」
「そうよね。抜け道まで一つ一つ丁寧に説明したら説明だけで日が暮れるわ。それに、私は言ったわよね「他に聞きたいことは?」と。貴方は「ありません」と答えた。違う?」
「…いいえ、違いません」
うつむいた水無瀬さんに明瀬総長はさらに言葉を紡ぐ。
「それとね、私は少々貴方に対して怒っているのよ」
怒気を露わにした明瀬総長に水無瀬さんは怯えたように体を縮めた。
明瀬総長も気が付いていただろうに無視をして話を続けた。
「どうして、斎条さんと同じ道を選んだのかしら?」
「このままの道では、負けてしまうからです」
「この試験は勝ち負けが重要だと、私は言ったかしら?」
「いいえ、ですが評価にはなります」
「そこは肯定しましょう。けれど、過程がいけないわ」
明瀬総長はそう言うと側で控えていた三科副長に目線で合図を送った。
その姿に「どこぞの執事か。ツーカーですやん」とか思った私はおかしくない。
三科副長は手元の機械を操作すると音声が流れ始めた。
『も…無理…』
『このままじゃアイツのひとり勝ちじゃない!!少しぐらい無理しなさいよ!』
『落ち着けよ、全員でゴールしないと減点だぞ』
『落ち着いてるわよっ!だから視界にとらえている内に進まないとって言ってるの!』
『斎条さんの真似は難しい。順当に行くべきだ』
『あんた達、くやしくないの?!』
『そういう問題じゃ』
『もういいわ!私は先に追って見失わないようにする。あんたたちは回り道で進んできなさい。せめて私の後ぐらいはついてきなさいよ。これ以上、足引っ張らないでよね』
どう聞いても水無瀬さんのチームの会話だ。
「…なに、これ」
「最初に皆さんに渡した物資には追跡機と盗聴器がつけてあるのよ。これも、試験のひとつ」
「………」
「いくらチーム全員でゴールしても、いくら順位が良くても、私が見たいのは協調性。ほぼ初対面であるチームメンバーの能力をどれだけ把握して協力しながらここまでゴールできるか。私はそれを見ていたの」
「そ、んな」
「貴方はこれにも「ずるい」「聞いてない」と言うのかしら?」
明瀬総長と水無瀬さんの会話を聞いて他の志願者も黙り込んでしまった。
中には盗聴されていたと聞いて顔を青くしている人もいる。うしろめたいことでもあるのかしら。
「それとね、斎条さんにはわざと貴方たち全員を煽るように行動してもらっていたから」
全員がゴールしたのを見渡して、明瀬総長はネタばらしをする。
「素の反応を見たくてね。ちょうど斎条さんに不満を持っている人もいたから都合良かったのよ」
ええ、ですから志願者全員、すべてのチームの前に姿を現してイラッとするような行動をしてきましたよ。
問題を目の前て解いて「こんな問題もできないの?」という顔をしたりな…。
それはもう良心が痛みましたよ!今も痛いよごめんなさい!!
ちょっと楽しいとか思ってすまんかった!
「そんな…じゃあ、わたしは…」
絶望したように狼狽える水無瀬さん。
このままでは、水無瀬さんは合格は危うい。
そう、このままでは。
「明瀬総長、発言の許可をいただけますか」
私は待ったをかけますよ。
「良いでしょう。なにかしら」
「ありがとうございます。明瀬総長は水無瀬さんを不合格にされるおつもりですか?」
「…そうね、まだ決定はしていないけれど、心証は悪いわ」
水無瀬さんの肩がビクリと揺れた。
「それはお勧めいたしません」
「どうしてかしら」
「確かに、彼女は協調性という面では失敗をしました」
チームメンバーの話を聞かず、見捨てる様な言動をした。
「ですが、これは臆することなく向かって行けるという長所でもあります」
疑問に思ったことはたとえ目上相手でも向かって行く。
水無瀬さんは最初からそうだった。
「時にそれは無謀とも言えますが、必要な場合もあります。現に、彼女が立ち止まらなかったことでその他のメンバーも私の後をついてこれたとも言えます」
私を見失わないように。そして後ろからついてくるメンバーも見失わないように。
それは意外と難しく、優しさも垣間見える。
「水無瀬さんは未熟ではありますが、捨てるには惜しい人材です」
「なるほど、ものは言いようね」
一理あるわね。と言って明瀬総長は考えるように口に手をあてている。
確かに私はかき回すという役目があったので最後に引き離してしまうようなことはしておりませんでしたが、それでもあれだけくらいついてくるのはすごいと思うのですよ。
「ふざけるな!!」
そんな私たちの会話は切ったのは水無瀬さん本人だった。




