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世界を繋ぐお仕事 〜世界征服編〜  作者: na-ho
てんのさばきとあくのぎしき
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88 暇潰し

 ◯ 88 暇潰し


 エルフの元族長がカジュラと共にエルフの里の様子を見に来ていると聞いたので会いに行った。紹介してくれるというので服はどうしようと悩んだが、結局は普通の町人服を着て行った。

 マリーさんの作ってくれた戦闘用の作業服と迷ったけれど、リーシャンに聞いたらどっちも変わりませんと言われた。まあね、ちなみにリーシャン作だ。僕がお願いして生地は肌触りにこだわってある。ちゃんと耐火防水適温適湿の効果付きだ。少し丈の長い目のコートを羽織って出かけた。


「えーと、どういう状況なの?」


「見たままに固まってます」


 カジュラが第五フィールドの転移門まで迎えに来てくれたので早速エルフの里に連れて行ってもらったら、瘴気の立ちこめる森の中、僕の建てた建物を凝視したまま固まってる人がいた。


「大丈夫なの?」


 ちゃんと息をしてるか心配なくらいだ。


「この状態の時は放置が良いのです。下手に触ると被害が出ます」


 付き合いの長いカジュラはこそっと忠告をくれた。このまま気が付くまで待った方がいいらしい。


「そ、そうなの? この人この瘴気の中にずっといるのは不味くないの?」


 一応は瘴気に弱いと聞いていたけど、そんな感じには見えない。


「まあそうですが……」


 僕達がこそこそと話している間に紹介してもらうはずのサ ティンゼル グラメールさんは復活したらしい。


「神の見習いとか?」


 突然そう言って僕をじろじろ見て値踏みしていた。


「あ、はい。そうです」


「見習いね。神本人は下りてこぬか。こんな風が吹けば壊れる様な物を与えて満足とは! 片腹痛いわ!」


 あっさりと僕の事はどうでも良い扱いにしてエルフの元族長は、建物を扱き下ろして溜息を付いた。そうでしょうね。ただの石だし、冒険者にはあっさりと壊されたし、スフォラに手伝ってもらって一気に作ったから継ぎ目無しの石の建物だけど、魔法であっという間に崩されました。まあ、僕のやれる事って言ったらそんなもんだ。


「グラメール?!」


「こんな、小さい建物等要らぬわ! 地下水を丸ごと浄化するくらいの力を見せてみれば良い!! 聞いているのか! 神よ、我らにはこんな物では足りぬわ!」


 天に向かって叫んでいた。そんなの無理だよ、世界樹の無いここでそんな無茶な力は使いにくい。変な流れが付いたら崩壊してしまう可能性だってある。少しずつ根気良くだ。


「これならば、世界樹の歌っている方がマシだ。あれは植物達の助けになるし、力も徐々に広がっているのが分かるが、これは避難所という名の通りの物だな。力なき者に与えて満足か? 見習い!」


「はあ」


「我らを優遇せぬと言う訳か。侮辱ぞ? これだけ世界に貢献しておる種族が他にいる訳が無い」


「見返りのいる行為なの?」


 カジュラがハッとなった後、唇を噛んだ。


「そうであろう。力で世界の秩序を守っている。森を守っているのに口惜しい」


 元族長は気が付かずにそのまま続けた。……僕この人苦手だな。言っているそれは自分達の為だけで多分他の種族は入ってない気がする。それを言うなら人族の暴走にも口を出すはずだけど、それは無い。種族至上主義か。目の合ったカジュラに首を振った。

 カジュラは頭を下げた。分かっている顔だから僕はそのまま神界に帰った。


「どうだった?」


「レイ」


 僕は首を横に振って映像をスフォラ経由で送った。


「ふうん。怒らせて何か引き出す気だったみたいだね」


「そうなの?」


「あっさり帰られて焦ってそうだよね。良いね。あの建物を消して力を止めてみてよ。焦った顔が見たいな」


 レイが楽しそうだ。ただし、悪戯する気満々だ。あの口調は多分怒らせる為にやってるから気にしなくていいと言われた。交渉の手口なのだとか良く分からないことを言っている。


「そ、そう? 本気で言ってないの?」


「本気で思ってるよ、もっと優遇しろって。その為の演技だよ」


 クスクスと笑ってレイは僕に指示を出した。仕方ない、レイもストレスが溜まってるみたいだし、付き合ってみよう。

 闇のベールを被って第五フィールドの夜空を進んだ。エルフの里の外れの僕の建物をなるべくそっと消した。地下の魔法陣を弱めて闇のベールで覆って隔絶し、森の茂みにそっと隠れて見物した。闇のベールは被らない。これからの事をライブ映像でスフォラの経由を通して、神界に送るのだ。


「ぎゃー!! カジュラーっ!!」


 頭を抱えて悶絶しているエルフが一人いる。そっと消したけど、やっぱり異変に気が付いたらしく見に来たみたいだ。


「何ですか?」


「消えておるぞ! あんなくらいで消えるなんておかしいだろ? 何でじゃ? 寛大な方じゃなかったのか?」


 カジュラも消えた建物の位置を確認している。神域ごと消えていると慌てている。


「あれは不味いですよ、グラメール。アキ様は寛大ですが、光の神はどのような方かは分かりませんし、裏をかきすぎてアキ様にはさっぱり通じてませんでしたよ? 本質を見抜く方ですし、余計な小芝居は通じないと言ったでしょう!」


 責める様にカジュラは元族長に向かって話した。


「言葉通りに取ったのか?」


 蒼白な焦った顔で質問している。画面越しのレイは満足そうだ。


「と、いうよりもいつも私が申している種族の貢献にこだわり過ぎというのを見抜いたかと……」


「しかし、族長が種族の事を考えて当たり前だぞ!?」


 余りの事態に脚に力が入らないのか土の上に座り込んでいる。


「だから言ったでしょう! 個人を見ると。立場は捨てないと拾ってもらえないですよ? ってこれどうすんですか?」


 消えた光の空間を指してカジュラが聞いた。指先が微かに震えているのが分かった。


「どうしよう! どうしたら良い? 折角の綺麗な水だったのにっ、澄み切った聖水なんて何処探しても無かったのにぃー!」


 頭を掻きすぎて髪が縺れまくっている。大爆発した髪型が意外にもショックで美人が台無しの表情に、ぴったりマッチしている。意外とひょうきん? あ、こっちの茂みに気が付いた? ほんの少し、惚けた表情でこっちを見た気がする。


「欲張ったのが悪いんですよ」


「これは命で払うしかないのか?」


俯いて肩を震わせて物騒な事を言い出した。


「要らないでしょうな」


 カジュラは物騒な事をサラッと流してるし。


「いや、神じゃなくて皆に申し訳ない。私は失敗したのだ。首を捧げても許してくれん。神に見捨てられるなど、恐ろしい罪を!! あああぁぁぁっ」


「神を相手に交渉等と、無謀を考えるからダメなんですよ。得に神界の神は厳しくて……」


 なんとか落ち着かせようとしているカジュラの台詞に被せる様に、元族長が更に激しさを増して叫び出した。


「見習いの顔を見るとつい、やってしまったんだ! あれは罠だったのか? 多分そういう役割に違いない。油断させる為の要員だっ。今更気が付いても遅いが……長い付き合いだったがこれまでのようだ、責任もって死ぬとしよう」


 僕の顔のせいにしないで……。


 そう言って持っていたナイフを首に当てた。ここまではレイの予測通りに面白いくらい進んでいる。カジュラは止めようと必死だし、それを押しのけて首を切ろうと頑張っている。二人はとうとうもみ合ってクライマックス寸前だ。


「ええい、そこの奴! 見てるだけか!!」


 しびれを切らして元族長はナイフをこっちに向けて叫んだ。


「はっ」


 カジュラはやっと僕の気配を察知したらしい。まあね、少し離れた場所からスフォラの望遠な目でしっかり見てたからね。時々こっちをちらちらと見ていたから気が付いてるとは思ってた。

 レイの指示では話が進んだら自殺しかけるけど、そういうパフォーマンスだからじっと見物したら良いよと言われていた。本当だったね。

 こっちに気が付いている時点でレイが分かり易すぎだよ、とダメ出しを画面越しに言っていた。今一面白みに欠けるから、もう一回最初からやり直してもらえとレイは不機嫌に言っている。


「カジュラ。えーと、やり直しだって!」


 僕は茂みから叫んだ。


「「……」」


 もみ合ってたはずの二人は顔を見合わせて怪訝な顔だ。


「今一面白い演技じゃなかったって。迫真に欠けてるからやり直しって言ってるよ!」


 もう一度説明した。


「おおぅ」


 元族長は両手両膝を付いて落ち込んだ。


「こんなくらいで止めるなら、エルフは不遇の道を行くんだね?」


 と、レイが画面越しで意地悪く言っている。隣でマシュさんも全然面白くないと渋面を作っている。


「あー、やらないんですか〜? エルフは不遇の道を行くんだねって言ってますよ〜」


「やってやろう! カジュラ! もう一回やれ!」


 その言葉にカジュラは頭を抱えて、


「本気ですか〜?」


 と、叫んでいた。その後、ダメ出しを何度も受けて元族長とカジュラがへたり込んだ。まあ、暇は潰せたけど眠い演技だよね、と言ってレイはブツッと通信を切ってしまった。


「合格は出なかったね」


 僕はぐったりしている二人に近寄った。


「く、暇つぶしかよ……」


 その事にショックを受けている元族長は本気で悔しげだった。


「はあ」


「これだけの恥をかかせて何の収穫も無しか?」


「そうですね。この仮しは高いですよ?」


「分かっておる」


 二人の会話を聞きながら思った。ああ、個性が強すぎて付いていけない。

 僕は神界に戻った。離れると闇のマントが自動で消えるから、今頃は弱った光の空間が出来上がっているだろう。反省するまでは水は無しだよ、とレイは意地悪く最初から言っていた。僕には変人の扱いは良く分からない。確かにカジュラの友人をやっているだけあって癖の強い感じはある。

 帰るとレイが言うには変人の扱いはあんな感じで良いんだよ、と冷静に詰まらなそうに言った。管理組合は変人の巣窟と言われてるから扱いには慣れてそうだ。要するにレイからすると変人度が足りないらしい。あれ以上個性を強くしてどうするんだろう? 謎だ。


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