84 排除
◯ 84 排除
「終ったわよ〜」
アストリューでまったりしていたら、画面越しのマリーさんに呼ばれたのでガリェンツリーに入ってから第六フィールドへと転移した。
時間的にはこっちでは一晩明けたくらいだ。レイも付いて来ていて、随分ワクワクしている。嫌な予感がする。
「それでどうなったの?」
普通に倉沢さんは皆と話をしていた。
「成る程ね。消しちゃったか」
「何を?」
「まあ、前に立てば分かるよ」
「大丈夫かな?」
僕の姿を見ると瘴気を飛ばしてくるあの形相を思い出して前に足が進まない。こんなに嫌だと思ってたっけ?
「ふふ、それで普通だよ」
レイが背中を押してくるので前に進んだ。倉沢さんが皆の目線の先を追ってこっちに向いた。が、目が合わない。突き抜けてる気がする。
「様子はどう?」
シュウに聞いてみたら、
「アキ、何か戻ったみたいなんだ。荒治療とか言うからどうなるか心配したけど、大丈夫だったよ」
と、嬉しそうだった。
「そっか。良かった」
「どうしたの? 皆、誰と話してるの?」
「倉沢? アキだよ、忘れたのか?」
シュウが焦っている。
「アキって誰よ。何処にもいないし、幽霊でもいるの?」
こっちをきょろきょろと探したが首を傾げるだけだった。
「えーと、目の前にいるじゃないか。どうしたんだよ倉沢?」
祐志もきょとんとした顔の倉沢さんに心配そうに聞いた。
「樹里乃? 大丈夫?」
「えー? 冗談止めてよ皆。あんまりしつこいと怒るからね?!」
倉沢さんはむくれて頬を膨らませていた。冗談ではなく本気なようだ。倉沢さんは僕を認知出来ないでいる。レイの消したって言うのは……こういう事か。レイの姿も、マリーさんの姿も見えない。記憶すら残ってなかった。皆も困惑している。
「これで良いんだ。彼女の選択だよ。神界は諦めたって事だね。自身の罪を認めるよりも自身を見つめるよりもボク達の存在を消しんだ」
人の悪い笑みを浮かべてレイが言う。僕は治療に使われた六角形の鏡の部屋に入った。地獄の門に使われるという凶問獄答の姿見だ。
確かにこれが荒治療だというのは僕には良く分からない……。ぼんやりしていた姿は少し輪郭がはっきりしている。少しは成長しているみたいだ。
「そっか、神樹の方は?」
「さあ、それも確かめるかい?」
世界樹の根元に向かった。倉沢さんは神樹の事は覚えていた。が、印が無くなっている事に疑問を持っていないみたいだ。本当にすっかりとすっぽりと都合の悪い事は消したらしい。そして説明しても受け付けなかった。理解出来ないし、すぐに忘れた。
都合の悪い事だけ話が合わない。それがいびつな事は分かっている。シュウ達も理解したがどうしようもなかった。
ああのまま死を選ぶか、皆の事も忘れるけれど綺麗にやり直すか、荒治療をするかの三択で本人も周りも納得しての治療だったらしい。マリーさんが事前にうまくいくとは限らないとは言ったけれど、微かな希望を賭けた結果が、あんな事になるとは。確かに劇的な変化だ。灰影であったのがすっかりと消えてる。
良かったのか悪かったのか判断がつきにくいけど、レイの言ってたその方が幸せという言葉は納得した。自分の心を見ないという選択をしたのだ。それなりの代償は大きい。
代わりに仲間との楽しい時間は消えてない。これからも続けようと思えば続く。後はシュウ達がどう受け入れるかだけだ。かなり大変だと思うけど、僕が来る前に戻ったと思えばやっていけるだろう。納得はいかないけど、もう倉沢さんは強制的に答えを出している。
「何かすごいしっぺ返しを食らった気分だ」
レイとマリーさんは一足先に神界に戻った。シュウと一緒に町を歩いている。
「そうだね、あんなに綺麗に消されるなんて驚いたよ、日本での事まで全部忘れてたね」
クラスメイトでいた時の事まで徹底して忘れていた。
「そうだよな。目の前にいるのに見えないなんて、本人の心がしているからって言われてもなんだか違う気がしてたんだ」
「えーと?」
「神様だろ? あの金髪の人。すごいオーラだし、あの人がやったんだと思うんだ。違わないだろ?」
シュウは神の仕業だと思っているみたいだった。
「レイはそんな事してないよ。すごく面倒くさがりだからそんな面倒な事に手を出さないよ。倉沢さんは自分の心のままに罪を認めたら自分じゃなくなると思ったんだ。代わりに僕を神界での事を全部、自分の中から消したんだそれで自分を保ったんだよ」
レイなら僕の事が無ければ治療なんてせずに、あっさりと地獄に突き落としそうな気もする。今回の事も皆で賭けをしていたらしい。僕の事を忘れるのは前提で、何処まで忘れるかで賭けたらしい。今回はマシュさんに軍配が上がったらしい。
「でもあれはそれだけじゃ説明が付かなくないか?」
「付くよ。古い思い出は良い事しか思い出せないって言うだろ? それと似た現象が一晩で起こったんだよ。あの鏡の中で何かがあったんだよ。悪く言えばそこだけ狂ったんだ。自分で狂わないとダメだったんだよ、それだけ皆との絆を手放したくなかったんじゃないかな?」
シュウは僕の言葉を聞いて考えていた。
「…………そっか、俺達を選んだんだな。そっか。俺達が面倒を見ないとダメってことだな」
「そうしてよ、出来るだけで良いから。楽しく、これまで通りに」
「ああ、そうだな。別にそう変わらないよな。仲間が支えが必要なら、支えないとな」
シュウは何か吹っ切れたみたいだ。




