77 先輩
◯ 77 先輩
夢縁でのトシは僕と一緒に行動する事が増えた。しばらくは女を絶つとか意味の分からない事を口走っているが、行動が裏切っていた。女性の姿を悲しげな目で追っているのだ。これはダメだな……まだ完全に立ち直るには時間が掛かりそうだ。
成績はまた盛り返してきて入るみたいで、四月頭の基礎卒業試験に向けて頑張っている。多分余裕で合格だろうと思う。最近は怨念の籠った瘴気を出したりしているので新境地だとかなんとか言っているが、あんまり扱えていない。
「ところで何で加島先輩とか成田さんを押すんだ?」
トシには有り難い先輩の強みがわからなかったらしい。
「勉強を見てくれる貴重な先輩だし、草ブレザーを着るまでの勉強法を確立してるから成田さんと沖野さんは多分着れるはずだよ。躓いたら支えてくれる大事な人脈って必要だと思わない? それに、女性を相手に組み手を本気でやる気なの?」
「はっ、仕舞ったな。考えてなかった……そうかイケメンにパンチを入れれる確実な言い訳があったじゃないか! ナイスだアキ!」
目の前に光が下りてきたように目を細めてその考えに集中している。徐に振り返った顔は晴れやかだった。
「……その考えは失礼だと思うよ?」
「いいや、正義は俺にある!! うおおおおお!! 待ってろよ〜!!」
テンションの高くなったトシはまたどこかに走って行ってしまった。……まあ、トシにやられる様な先輩達じゃないから良いか。それよりもいい人を紹介してくれる可能性を忘れていると思うな、後でメールで入れておくか。
「管理している世界が随分落ち着いてきてるって聞いたわよ」
久々のお茶会だ。スタンダードにイチゴのショートケーキが出てきた。董佳様の顔がケーキを前に緩んでいる。
「あ、はい。おかげさまでなんとか」
「良い事ね。投資した甲斐があったわ」
怜佳さんもケーキに舌鼓を打っている。確かにスタンダードを美味しく頂くのは良い。
「はい。浅井さんも頑張ってくれてます」
「当然、厳しい人を入れておいたわ。浅井が立て直すに値するものを見つけたので大丈夫だって言っていたわ」
「あー、魔法力BOですか?」
「ええ、それもあるけれど中間界も良い感じだって聞いてるし、人もいい方向に向かってると聞いているわ。奴隷の事は思い切ったわね。腐りきった世界に希望が見える程なら良い傾向よ。決して消すんじゃないわよ、その光を無くしたら暴動が起きるわよ」
「はい、分かりました」
董佳様の忠告は重く受け止めておく。多分その通りだと思うから。
「死神ならではね……。冥界に色々融通が利かないと難しいもの」
「はい。死神の組合員なのでそれに助けられてます」
「しっかりやるのよ? 地球の者が管理神なんてここの価値も高まるんだから」
「う、はい。頑張ります」
それもそうか。夢縁出身ならここの価値も上がる。責任重大?! う、ストレスは余り掛けないで下さいね?
「こんなくらいはストレスじゃないわ! しっかりするのよ?」
「董佳ったら。気にしなくて良いのよ、そのままやれば良いわ」
「ありがとうございます」
うう、怜佳さんに励ましてもらい、少しは浮上した気持ちをそのままショートケーキの甘さにゆだねておいた。




