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世界を繋ぐお仕事 〜世界征服編〜  作者: na-ho
えさのかち
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7 返還

 ◯ 7 返還


「目が覚めましたか?」


「はい。メレディーナさん」


「良かったですわ。三日も目が覚めませんでしたから。恐ろしい目に遭いましたね、もう大丈夫ですよ?」


「う、はい」


 寝てる間に勝手に泣いていたらしい。袖で涙を拭って恥ずかしさから顔を横向けた。


「まあ、ダメですよ? まだ傷口が……擦ってはいけませんわ」


 ああ、そうだった。切られて……。


「スフォラは?」


「大丈夫ですよ。マシュさんが直してますから」


 あんなに切られて蹴られて酷かった。痛くて何度も叫んだけど止めてはくれなかった。それどころか、あんなに楽しそうに振り上げた刃物を振りかざしてきた。怖いし何で……あんなにも僕を攻撃するのか分からない。スフォラもあんなに切られて一緒に痛がってた。フォーニが嫌いだ。消えてしまえば良いのに……。


「まあ、随分ささくれ立ってますね? 少し向き合うと良いでしょう。ですがそれは誰にでもある事です。アキさんなら抜け出せますよ。」


「え、と」


「悔しい想いをしたのです。相手を呪う程に……逃げずに向き合い、乗り越えて下さいね? やり方はアキさん次第ですわ。忘れないで下さいね? 私達がいます、苦しい時は思って下さい」


「は、い」


 良く分からなかったけれど、頷いた。メレディーナさんは部屋を出て行った。しばらく一人にしてくれるらしい。腕の傷痕を見ると、薬が塗られていた。随分変な感じだ。憎しみがここから染み込んでくる感じがする。心が泡立つ様な嫌な感触だ。あの殺気を思い出す。

 何故、殺したいと思われなくてはならないんだろう。まるで、もう一人の違う人物を見ている様な……。そうか、それだ。妹がかつて僕のするかもしれない事に怯えて自分の想像した影に向かって警戒し、近寄らせようとしなかったあれと似た感じなのかもしれない。……少し違うか?


 僕を犯罪者だと言っていた。いつの間にそうなったんだろう? 僕に何を見ているんだろうか、謎だ。それよりもフォーニの顔がちらつく度に消したくなる。苦しい程に大嫌いだと心が叫んでいる。まるで刻まれた傷と同じだ。心が痛い、苦しい、悔しい、辛い、悲しい。攻撃を受けて苦しんだ分を返したい。でも、フォーニの狂った様な憎しみの顔を思い出すとああはなりたくないと思う。

 僕は違うと、心のどこかで叫んでいる。同じ事をしたらフォーニと同じ闇に落ちる様なそんな気持ちになる。この痛みはどうやったら取れるんだろう。そう思ったらやっぱり苦しみを返して味あわせたいと願う。苦しくて、頭がぼおっとしてくる。体が痛い。憎しみが痛い。受けるべき物を受け取ったんじゃない。傷を返したい。消してしまいたい。そんな事を思いながら、その日は過ごした。


 まるで憎しみが蓄積されて行くかのように心が重く、痛みを増して行った。この感覚も嫌だった。抜け出したいけど、出口が分からない。

 スフォラの傷ついた姿を思い出す。そしてメレディーナさんの言葉を思い出す。僕が刃物を持って人を傷つけるなら、悲しみそうだと思う。憎しみに駆られて人を傷つけるのは何か違う気もする。レイもマリーさんもマシュさんもメレディーナさんもきっと悲しむ。本来の僕の望じゃない。


 望じゃない。


 そうか、彼の心の一部が僕に刻まれたのか。そんな事に気が付く。憎しみを植え付けて同じ念いを共有させる。僕はフォーニへの傷つけたい気持ちで一杯だ。でも、フォーニの傷つけたい相手は僕じゃない気がする。本当の相手が違っている。正当な八つ当たりの理由が欲しいんだろうか? 何か難癖を付けて関わりを持ち、攻撃してくるのはどういう事だろう。

 フォーニが僕を犯罪者だという。嘘をついている。もしくはそうあって欲しいと願っている。そうでないと出てこない発想だと思う。常に憎しみを向ける相手を欲しているんだ。誰でも良い。適当に弱そうな者なら……。

 傷口から受けるフォーニの憎しみがそんな事を思わせる。まるでそれがフォーニの弱さな気がする。これを受け止めれてないんだ。この憎しみを持て余して他人へ向ける事で、自分を保っているのかもしれない。そう思うと哀れな気がする。

 僕のなかの憎しみはフォーニを強くする。フォーニの存在を憎めば憎む程、念いを吸い上げて存在を強くして行く。苦しい。止められない。

 でも、この憎しみが僕のなかにある事が彼を喜ばせるというのなら、実に嫌な事だ。フォーニの中の憎しみと同化する楔を打たれて苦しまされている。この憎しみを消したい。憎しみに負けて落ちてくるのを待っている。あざ笑う為に。自分と同じ位置に落ちてくるのを待っているんだ。どうやって消せば良いんだろう。刻まれた傷と一緒に消えるように願う。


 いつの間にか朝になっていた。眠ったんだろうかそれとも、ずっと起きてたのか良く分からない。いつもよりも長くて苦しい夜が明ける。憎しみの力は強い。悪寒がして思考を鈍らせる。まして自分の胸にあると痛くてそれのせいで熱に浮かされたようにその事ばかり考えてしまう。


「痛いよ」


 スフォラは大丈夫だろうか? あんな痛みを負わせてごめんね? 僕の判断が悪かったんだ。あんなにおかしい人を警戒しないなんて、走って逃げたぐらいじゃあんな風に逆上させただけだった。ちゃんと向き合っても抑えれてたか分からないけれど、背中を向けるのは良くなかった。反省しないとダメだ。

 そう思いつつ意識はどこかに落ちた。


 夢の中で、僕のなかの憎しみはフォーニの元へと帰って行くのを見た。僕が持ち主をフォーニだと思ったからだろうか? 憎しみのエネルギーは彼の所に向かって行く。

 多分これで良い。僕には処理出来ないことだから良いんだ。全て返してしまおう。僕には持っていられない。僕が弱い事を僕は知っている。フォーニと同じ道を行く事は出来ない。一緒にいたい人達がいるんだ。いつかこの黒い感情に負けて傷つけてしまわないように、早く手放そう。僕の心が自分でも処理出来ない程に黒く染まって周りが見えなくならないように。出来ればこの、帰るエネルギーで自身と向き合う事を望むよ、他人を狂わせないで。

 そう思ったら心がどんどん軽くなっていく。まだ傷は残っているけれど、きっと皆の存在が埋めてくれる。癒されるんだ。何時だって支えてくれている。家族にだってこんな想いを持ち込みたくない。

 憎しみを持ち続ける程、傷つけた相手が僕の中のエネルギーを吸い上げて行くんだ。それなら手放してしまおう。全て。それが彼にとって……憎しみを植え付けようとする者達に取って一番されたくない事だと思う。そして、憎しみの連鎖を止める事がきっと一番大事なんだ。

 だから、フォーニには哀れみを、憎しみはもう、消えた。傷痕は心に残しておく。もう、迷わないように。いつでも返せるように。帰って行く念いの道しるべに、きっとなる。


「目が覚めましたか?」


「はい。メレディーナさん」


「随分傷が浅くなりましたね。無事に乗り越えられたようですね」


「はい」


目覚めのメレディーナさんしか出て来なかった。仕舞った〜。

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