74 信頼
◯ 74 信頼
気にはなっていたシュウ達の様子を見に行った。
「皆、大丈夫?」
「アキ、もう来てくれないかと思ったぞ?」
祐志が嬉しそうに寄ってきた。
「え? ああそうだね。酷い目にあったね」
「悪かったよ。ごめん……。倉沢の奴とんでもない事してて、本当にごめん」
手を合わせて謝っている。
「俺達も気が付いたのがアキに聞いてからでさ、ビックリしたんだ」
シュウも隣で謝って誤摩化すように言った。
「うんと、カジュラから聞いてるから良いんだよ?」
「そ、そう、か? えと、だな……済まない!」
目が泳いで言葉を探してたみたいだけれど、理解したのか急に皆は謝り出した。まあね、僕が来た後には皆は気が付いていたみたいだし、カジュラにも指摘されている。それで更に誤摩化そうとしているのは、まあ仕方ないのかもしれない。自分達の居場所が良く分かってないんだと思う。
「うーんと、祐志達は神樹の管轄に入るから、僕にすがっても何にも出ないし、手は出せないんだ。だから、隠し立てしても僕をどんなに利用しようとしても空振りなんだ。人事権は僕には無いし、所詮はここの世界の人間じゃないからね、どんなにやってもここの人には敵わないんだ。カジュラや、シュウ、祐志がやらないとダメなんだ」
「神界入りはアキには無理だってか。まあ分かってるけどな、ちょっとは期待してるんだぜ?」
シュウが開き直ったのかそう言った。
「うーんと、勧誘は新人の僕には出来ないよ。規定があるからその権利は無いっていうか、僕が出世してからだね?」
「気の長い話だな?」
「そうなるね」
「この世界から出れないの?」
「出たいの? それだともっと難しいよ? 覚醒者って訳でもないから自分の意志では出るのは無理だよね。最低限はそこだって聞いてる」
召喚されたのでもない限りはそうだ。管理組合のマーケットだって担当員が引率してた。
「無理なのか?」
「うん。カジュラだって修行中なんだ。神界入りは出来てないのに無理だよ」
「ちっ、あの狸爺。嘘だったのね?」
倉沢さんは後ろの方で毒づいた。
「カジュラは何も言ってないんじゃないかな。誤解したのはそっちだよね? 勝手に期待してそれを押し付けて……」
「笑ってたのね? 私達が真剣にやってるのに!」
怒りで顔を真っ赤にしている。
「あそこまで態度を変えたらちょっと怖すぎて……言いにくいよね」
悪いけどまあ、態度の違いには笑ったかも。視線を外しておく。
「ま、まあな。倉沢のは見てて恥ずかしいからな」
「私も他人の振りがしたかったくらいだよ。多少はそんな気持ちにはなってたけど、それを超えててあれは引いちゃうよ」
全員が頷いた。
「……っ!! みんな酷い! 毬雅だって人に寄って態度を変えるのは普通だって言ったじゃない!」
「それはそうだけど、あれは何か違うっていうか……樹里乃じゃなかった」
「違う人間だと思ったぞ? 誰だよあれは? あれが黒魔術か? ってな」
祐志がちゃかしたが、怒りを逆なでしたようなもんだ。ああ、不味いな。瘴気が吹き出してる倉沢さんは鬼の形相だ。
「みんなそのくらいに……。態度だけじゃなくて性格まで変わってたら怖いってみんなは言ってるんだ。倉沢さんはその事を自覚した方が良いよ。倉沢さんは何処にいるの?」
怒りの矛先をこっちに向けておく。皆の中が壊れるのは今は良くないよ、でも恐ろし過ぎる!
「何よ、自分は神界入りして自由に世界を渡ってるくせに! 私がそれをするのを許せないだけでしょ!? 弱いだけで何にも出来ないくせに! 生意気なのよ!!」
興奮しすぎて魔力が体から大量に溢れている。
「……カジュラも強いけど入れてないよ? 基準は違うってことだよ。僕もその基準は分かってないから新人なんだ」
「倉沢、落ち着け! 俺達が無理言ってるんだ。自力で上がれば良いだろ?」
シュウは僕の話で何となくわかったみたいだ。名前だけの管理神に何の権限も無い。冥界との契約に手を出せるからやれたのは奴隷の解放くらいだ。
「下働きで良いからって頭下げたのに全然仕事もくれないし、部屋なんて三つくらいしか無いし、そこから出れないし誰もいないし、神界ったって何にも無かったじゃないの? あんたが私を嵌めてたんでしょ! 私は神界に入れたのよ! もう一回連れて行きなさいよっ」
「そう? その三つの部屋が神界だよ。ここは貧乏な世界なんだ。良くして行かないとダメだよ。その為に神樹は皆を喚んだんだし」
「そうなのか? そんなに貧乏なのか」
永井が不思議そうに聞いてきた。
「そうだよ。不満があったの?」
「いや、まあ、その……神界に入れるんなら、あちこち俺達も出て行けるんじゃねーかなって。俺達は地球に戻る気は最初から無かったしな」
自由に行き来してどうするんだろう? アイリージュデットさんは僕達のクラスの中から帰らなくても良いと潜在的に思っている皆を選んだ。シュウが帰らないと思ったのは意外だったけど。
「ここの神界に入れても余り出れないよ……異世界間の取引も殆ど無いし、全部借金で払ってるくらいだしね」
現状を聞いて皆の顔色が変わった。
「う、厳しそうだぞ? 借金なのか?」
祐志が顔を歪めている。
「厳しいよ。余裕が出たら良いけど、まだギリギリな感じだね。手伝ってはいるけど、難しいよ」
「不味いのか?」
シュウもこの話は初めてなのか顔が引きつっている。
「うん。ここの人界の事は神樹が良く分かってるから、頑張ってよ。それでなんとか回る所まで行けば良いんだけどな」
ここでやる事はまだまだある。
「分かったよ。何となく良くしようとしてるのは分かってるんだ。ここを放置は出来ないとはみんな分かってたんだ。アキはそれに協力してくれてるってカジュラも言ってたしな」
シュウが頭を掻きながらばつの悪そうに言った。
「そっか。カジュラが……」
「奴隷達も解放が始まってるし、皆希望が出てきて笑顔が出てる。良い感じなんだ。外で俺達がアキのように色々持ってきたら良いんじゃないかって思ってたんだ」
「そうなんだ? ここの通貨は使えないよ? 信用度が低くて取引にも使われないから」
そんな事を考えてたのか、シュウ達らしいかもしれない。
「マジかよ……」
祐志が本気でやばいと泣きそうな感じだ。僕も借金を肩代わりしてるからみんな頑張ってと言ったら顔色が更に悪くなった。
「マジ、迷惑しか掛けてねえし」
「やばい、足を向けて寝れないよ……」
頭を抱え出したので、気にしないでと言っておいた。神樹のはかりごとに嵌ってる僕もあれだしね。友達を見捨てれない僕の気持ちを利用しているのは分かっている。それでも皆のためになるのなら力を使って支えたいんだ。全然足りてないけどね。
「倉沢はまあ、暴走してるけど根はいい奴なんだ。だからさ、その、もうちょっと時間をくれ」
帰り道、送ってくれたシュウがそう切り出した。
「いいんだ。誤解も解けたみたいだし。その内、良くなるよ」
「そうだな。長い付き合いになるしな」
「うん。また来るよ」
「ああ。俺達も頑張るよ。出来る事をやる。ここでしかやれない事があるって分かったしな。……その、ありがとな」
照れてるシュウはちょっとおかしかった。拳を出したら、合わせてきた。いつもの挨拶だ。
「気にしないで。僕の方こそありがとう」
もう一度信用してくれて嬉しかった。




