73 反故
◯ 73 反故
今日はナリシニアデレートのセスカ皇子の宮殿に来ている。ラークさんに挨拶した後、ここに寄って指輪の光の魔結晶を取り替えにきた。そのまま一晩お世話になってトーイの木の精霊のいるゴッダル大陸のラトネスト国に明日には転移装置で向かう事になっている。
「もっと滞在してくれて良いのだぞ?」
「せわしなくてすいません」
「本当だぞ。久しぶりに顔を見せたと思ったら慌ただしく通り抜けるだけとは……私も寂しいぞ?」
どうやら本当に拗ねているみたいだ。
「う、すいません。帰りにもよりますし、拗ねないで下さい」
「そうか、寄ってくれるか? ヴァリーも最近はちっともここに来ぬし何をしておるのかさっぱり分からぬ」
セスカ皇子は笑顔になっていた。どうやらヴァリーの方も忙しいのかこっちに帰って来れてないみたいだった。悪神達の活動が急激に減ったせいだと思う。今のうちに旅行に行ける場所の拠点を作っているのだろう。一番被害を受けていたのが旅行関係だからね。観光案内しているヴァリーなんて想像付かないけど、やってるみたいだ。
「ここの住み心地はどうですか?」
「うむ、実に快適で文句ないぞ。部下達の場所が中門より内側な故に安全であるし、この奥宮殿は静かでとても気に入っている。二階と三階の辺りから光を入れておるから昼間は十分明るいし、湖の中の景色が実に素晴らしい……何度水竜に乗ってさぼりに出たか分からぬ」
「さぼってるんですか?」
「そのように責めるでない。息抜きが必要なのだ」
僕の追究の視線を躱して皇子はそんなことを言った。そのまま少し話をして、二階のテラスに植えたカシガナの様子を見に行った。
小さく芽がで始めているのでそっと植物の成長を助ける魔法を掛けておいた。虫食いやら病気にもかかってないので大丈夫そうだ。薄い緑銀色の葉っぱだからこっちはこんな色になるんだろうか? ちょっと楽しみだ。
次の日の朝、転移装置でタキがいたあの小屋に到着した。ギダ隊がキャンプを張っている。マリーさんに付いて二、三度こっちには来ているが、一人で来るのは初めてだ。
「お、アキ。飯が来たぞ!」
ナッツさんがデリさんに声を掛けた。いや、僕の姿を見て直ぐにそれは無いと思うんだ。まだこっちは日が昇りきっていないが、随分明るくなってきている。
朝食の用意を始めたギダ隊の面々は顔がほころんで嬉しそうだ。まあ確かにマリーさんの差し入れは嬉しいのだろう。味は保証されている。
僕は収納スペースから差し入れをギダ隊長に渡した。朝食を並べてコーヒーを入れて行った。
「美味いな。飯はこうでないとダメだな」
「まあ、ここもあれからは平和だからな」
「気を抜きすぎるなよ?」
「神官達は向こうですね?」
「ああ、行ってやってくれ。あっちも差し入れを待ってるからな」
僕は神殿関係者の集まっているキャンプ場所に向かった。アストリューやら他の地域からの応援団のキャンプだ。アストリューの美容グッズの差し入れは、そんなごちゃ混ぜのキャンプの中でのアストリューの神官の地位向上に役立っているみたいだ。
まあ、確かに良く効くからね。虫除けスプレーも入っているし大丈夫だろう。
……地位向上というのをしないといけない事態が既に異常なんだけどね。本来は助け合わないといけないのにそういった意識を持ち込んでいる団体が二つ程あるらしい。こんな地獄に繋げる為のダンジョン跡の近くでの争いは避けたい所だ。
「あら、そのくらいは耐えれなくてどうするって言うの? 巫女として失格よね? そんな顔してなんて醜いのかしら?」
「本当よ、ほんの少し予定が狂ったぐらいで目くじら立ててるなんて、品位を疑うわ〜」
「迷惑をかけたなら、謝る必要があるはずよ? そっちこそ礼儀がなってないわ!」
どうやら不味い時に来たらしい。女性達の争う声が外まで響いている。僕は入口の前で固まっていた。
「何よあんた。男? ちょっと、ノックもしないで入ってくるなんて何処の神官よ!!」
後ろからそんな声が掛かった。
「え? まだ入っていないし、ドアは開いてましたよ?」
慌てて言ったが、中で喧嘩してた人もこっちに気が付いて慌てていた。
「着替え中って書いてるでしょ!? 痴漢よ! 捕まえて!」
ドアにはそんな事は書かれていないし、開けっ放しにしてたのに……。
「ええ?!」
そんな無茶な。って今、その札を付けているじゃないか! 詐欺だよ! 詐称だよ! 女性達が連係プレイのように一人がそこにあった着替えを僕に投げつけて、一人がドアノプに着替え中の札を掛けた。これって一体どうなってるんだ?
そのまま、武器を携えた女性達数人に囲まれてお縄になり、ラークさんのいる神殿まで連れて行かれて、タキが入れられていた牢屋に入れられた。そこには同情の目で見てくるお仲間が三人程いた。
聞くと皆さん似たような被害だった。
「災難でしたね」
「これで給料が減って女房に申し訳が……。というか離婚になるかも……」
隣の独房の人とお話をしていたらそんな事になっているらしかった。
「う、それは……ちゃんとえん罪だって言ったんですか?」
「証言が揃っているからと……」
「うわ。真偽をやった方が良いですよ」
「申請はしましたがそれが終る時にはもう……離婚は成立してるかも。ううう」
泣き出した男性はすいません、と何度も謝りながらこの状況にうちひしがれていた。隣の男性はどうやら癒しがたっぷり必要そうだった。
僕はラークさんに連絡を入れて一部始終の映像をメッセージに入れて送ってある。まあ、忙しいだろうから見るのは後だとは思う。ここの地下の牢獄よりと書いてあるから、助けには来てくれると思うんだけどな。
「余りにも滑稽で、このような茶番でここに入れられてるとは本当におかしすぎるぞ!」
「兄上と三人で小一時間は笑ったぞ! 久々に腹筋が痛んだわ!」
そう言いながらセーラさんとネリートさんが迎えにきてくれた。目には笑い過ぎの涙を浮かべている。牢屋から出してもらいながら隣とその二つ向こうの男性の事も伝えてた。
「ふむ、真偽はすぐにでも始めさせよう。離婚の危機とは罪な事をする。こんな恨みを買えばどうなるか分かっておろうに……これを耐えよというのか」
「耐えねばならぬ事をしているという自覚はあるようじゃ。捉えて、己が耐えるようにしてやろうかの?」
「名案だの?」
「くくく、余興は楽しい方が良い」
捕まっていた神官達の真偽が行われた。僕も受けておいた。ナリシニアデレートの神官が行うものだ。組合のとは少し作法が違っていて新鮮だった。
『スフォラー』の入っている女性調査員が潜入操作に入った。どうやら派閥争いで脱落者を出すこと、ここでの良くない評判やらを勝手に捏造したりと、めちゃくちゃな事が水面下でも表面的にも行われカオスだったらしい。何処そこの誰の派閥で、誰を次はターゲットにするかを日々話し合っていて、実行に移していたみたいだ。
目的はここの神官の仕事の独占を狙ってだったり、利権の為だったりと色々だ。恐ろしい場所になってたんだ……。
そんな中でアストリューの女性達も負けずにやり返しているみたいだった。差し入れの力で懐柔し、ターゲットから外れるように仲間内で協力しあっていたみたいだ。勿論、狙われたら報復もやっている。
解決策として、団体ごとに違う地区を浄化する事に決定した。交代等は各団体ごとにしたので不満もその団体内で解決させれば問題ない。このおかげで浄化のスピードやら質の良さを競い合ってラークさん達からするといい結果になった。神官達のキャンプ施設も各自団体での調達にしたせいで随分と差が出た。
フリーでの参加は今までの場所に入る形になっている。アストリューの皆もたくましかったんだね。僕が喚ばれない理由が何となく分かった。パシリをやるくらいしか役に立たないのを思い知った。いや、それもろくに出来なかった……。まだ美容グッズを持ったままだ。しかもセスカ皇子との約束も破ってしまった。
「メレディーナさん。すいません」
「まあ、牢屋に入れられてしまったんですって? お聞きしましたよ」
心配そうな表情の他に肩が震えているのを発見した。笑いを堪えている証拠だ。
「は、はい」
う、もう伝わってるんだ。恥ずかしい……。
「レイさんがうちの管理神を謀って牢に入れるなんて罪に問うから、と怒ってましたよ」
クスクスとメレディーナさんは笑っていた。そんな冗談を言われて余計に恥ずかしかった。何か情けない。
「美容グッズを届けれてませんし、皇子との約束も果たせませんでした」
「まあ、もう一度行けばよろしいのですよ? たまの息抜きを邪魔されては不愉快でしょう。約束を果たせなかったというのならもう一度行かれればいいのです」
「……うん、そうです、ね。明後日また行ってみます」
「では、美容グッズは預けておきますね」
「はい」
不貞腐れてた気持ちが少しまともになった気がする。取り敢えずは神殿の温泉に浸かってから帰ろう。




